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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.774「球を打つ技術より人間力を高めることに指導者は力を注ぐべきです」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

前回のお話はこちら


高校生の息子と娘がプロを目指して二人ともがんばっています。プロとして戦うレベルになるのに一番習得するのが難しいクラブは何でしょう? そこに時間を割いて練習を組んでもらえたらと思い、お便りしました。(匿名希望45歳)


先日、久しぶりに家でゆっくりする時間ができ、映画を鑑賞する機会がありました。

日本では昨年公開され、ウィル・スミスがアカデミー主演男優賞を受賞して話題になった『ドリームプラン』という作品です。

女子テニス界のスーパースター、ウィリアムズ姉妹を育てた父親、リチャード・ウィリアムズ氏が主人公の、実話に基づくサクセスストーリーですが、少女たちをトップに育て上げるまで、さまざまな苦難に満ちた家族の物語でもあります。

わが子らを鍛える父親は、指導法を独学で編み出した素人コーチ。

周囲からは無謀な夢を馬鹿にされ、過酷な練習を虐待だと非難されながらも、決して諦めずにテニス以外の教養やマナー、言語能力を教え込んでいく様子などは、見ていて胸が苦しくなりそうなほど。

人を育てること、スポーツスキルや精神力を磨く難しさと厳しさを考えさせられました。

そんな思いが残っている翌日、ある新聞記事に目を引かれました。

長年親交のあるソフトボール日本代表監督の宇津木麗華さんが、長崎県教育委員会とスポーツ協会が主催するイベント「運動部指導者研修講座」で講演を行ったという記事です。


88年に25歳で中国から来日、日立高崎のソフトボールチームに入団しプレーを続けながら、95年に日本へ帰化。

その後、日本代表としてシドニー、アテネ五輪に出場してそれぞれの銀、銅メダルに貢献。

現役引退後は、五輪日本代表監督で恩師でもある宇津木妙子さんとともに後進の指導に当たり、2021東京五輪では日本代表監督として金メダルの獲得を実現しました。

わたしは彼女のことを、帰化以前の本名、任彦麗(ニン・エンリ)から、「ニン」さんと呼んでいます。

言葉も分からない状態で日本のチームに飛び込み、妙子さんのキメ細かい指導のもと、さまざまな試練を乗り越えたニンさんを見守ってきました。

紆余曲折に富んだ経験から出る説得力のあるリーダーシップには一目を置いています。

長崎県のスポーツ関係者は、いいところに目を付けたなぁ~と心から思います。

各種のスポーツが盛んで大きな大会が目白押しの昨今、わたしは常日頃から人気や経済効果が話題になる割には、スポーツ界の後進の指導が問題にされることが少なすぎると感じていました。

東京五輪で注目されたスケートボードなど新ジャンルをはじめ、多くの種目で若い力が続々と登場しています。

女子プロゴルフ界も昨シーズン前半は3カ月で5勝を挙げた西郷真央選手が話題を独占。

中盤からは山下美夢有選手が登場し、国内メジャー2勝を含む5勝を飾って女王の座を射止めました。

2人はいずれも2019年のプロテスト合格の92期生。

そして今年はここまでの前半戦、その山下さんが4勝を挙げて健在をアピールする一方、昨年デビューした岩井ツインズ(明愛・千怜姉妹)が2人で3勝をマーク。

この3人は21歳。おまけに今季第17戦となった資生堂レディスを制したのは、さらに後輩の19歳の櫻井心那選手でした。

こう考えると、若手の登場は今後も際限なく続きそうな勢いです。

高校からゴルフを始めたあなたの娘さんが、すぐ勢いに追い付けるのか母親として不安になるのも理解できます。

ですが、力をつけてきたわが子が「プロの試合に出たい」と訴えたとき、父親は首をタテに振らなかったのは、もっと本当の力をつけてからでないと彼女自身が傷ついてしまうのを心配したからでしょう。

ただボールを打つ技術に長けていれば勝てるのでしょうか?

さまざまなライの状態に対応できれば、それだけでスコアを作ることができるのか?

いいえ、厳しい競り合いを勝ち抜き、大きな勝利を手にするには技術だけではない「何か」が必要になります。

それは、経験とメンタルなどを踏まえた、人間力というほかありません。

教えられるものではありません。

でも、ほかの「何か」が要ると教えることが重要なのであり、本人に考えさせる指導が大切だと思います。

スキルを急いで詰め込むことよりも、プレーヤーを正しく成長に導く指導者、コーチの存在が必要でしょう。

トッププレーヤーの低年齢化が叫ばれ始めて久しくなりますが、指導者の力不足問題を真剣に考える論議は耳にしません。

この問題は、スポーツ界全体で考えるべき課題だと思うのですが、さてどうでしょうか?

「努力次第ではありますが、人間の可能性は無限と考えなければ進んでいけません」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2023年7月25日号より

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