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【ゴルフ野性塾】Vol.1777「スライスを読む力は、 世界で五指」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

窓の外は
強き春霞み。

福岡空港先の山、空の中に消えんとす。
今日3月30日木曜日。
現在時午前10時55分。
私が距離の目安としている私の住む15階マンションから直線距離2キロのビルもはっきりと見えなくなって来た。
黄砂なのか、春の霞みなのか、分らぬまま、東と南の空を眺めています。
現在時午前11時2分。
東の山が消えました。
15階近くのビル群だけが見える浮き上りの街になって来た。
鳥は飛んでいない。
パトカーと救急車のサイレン音も今朝はなしだ。
ビルの姿も消えて行く。
春なんですネ。確実な春だ。
体調良好です。

松山の優勝はフックラインの読み次第。

マスターズが開幕します。マスターズといえば、どうしても松山に期待が集中しますが、もし2つ目のメジャーを取るとしたら、やはりマスターズでしょうか。ショットメーカーの松山は、全米プロや全米オープンのほうが可能性が高い気がしますが、塾長はどう思われますか。(東京都・田中聖也47歳ゴルフ歴15年平均スコア83)


高いレベルのショット力を持ったとてパットが入らなきゃ並。
18ホール全部、1メートルに寄せる事出来ればその内の半分、9つのバーディは取れると思う。
どれ程のパット下手、ビビリ者であってもだ。
しかし、18ホール総てを1メートルに寄せるは不可能事と考える。
日本、欧米、いずれの戦いに於ても、5メートル入れる確率は50%、10メートルの距離は5分の1の20%必要であろう。
パッティングのレベルは上った。ショット以上にだ。
10年前と比較した時、現在の確率は5メートルで60%、10メートルだと25%に上っている様な気はする。

グリーンの硬さが均一になって来たのがパッティングの確率上げて来た一番の要因と思うが、ドライバーの飛距離が生むショット力の向上もあると思う。
グリーンの硬さが不均一だと同じストロークしても転がり様、均一とはならず、軟らかさが生んだ小さな傾斜でライン変る事も起きるが、硬さ均一だとその心配はない。
然ればラインを完全に読み切れなかった自分の技量不足と己の内面に入る事が出来る。
己を変え、己のレベルを周りのレベルに近付けるには己の内面に入るは必要。
グリーンが悪い、と外面ばかり見て批判している様じゃ己の内面との対話は出来まい。
何事に於ても、己との会話は必要と思う。
幼い時、己との会話力は持たない。物心ついて最初に覚えるは己との会話であろう。
そして、20歳過ぎれば己との会話力、頂点に達し、頂点の時期、40歳迄は続く。
この事、私の経験を振り返りて知りし事であります。
40歳過ぎれば己との会話は少なくなって行った。

私は昭和58年11月、年齢37の時にペンを持ったが、当時、然り気なく、との言葉を原稿にする事はなかった。
私が然り気ない日々を過すと書いたのは己との会話力、弱まって来た45歳過ぎし頃からである。そして今、75歳過ぎて76歳へ向う途中、然り気なく過せし幸せの中で生きております。
己との会話は減った。
好奇心も減った様に思う。ただ、枯れた訳ではない。無気力、無闘争心になった訳でもない。
寛容、寛大になっただけだ。
背筋を伸ばせと塾生に言って来た。
今は背筋伸ばすは若い内、70歳過ぎて無理に伸ばす必要はないと思う様になって来た。

でも無理する事はない。出来る事を為し、一つ一つの峠を越えて行くのが人の生き様と思う。
人の生涯、ヘリコプターに乗って移動する生涯ではない筈。
一日の時間は24時間だ。
その24時間で一歩の歩み繰り返すが生涯を作ると思う。
そりゃ、ヘリコプターに乗って過せし生涯が送れたと自負を持つ方もおられ様が一般人はそうじゃない。私もそうだ。
一歩ですよ、何事も。
最初の一歩から始まり、最後の一歩で終る生涯であればいいと思う。

松山はショットメーカーと思われているし、ショット力秀逸なのは理解出来る。
なれど、松山のショット力、アメリカで抜きん出た存在かと申せばそうではない。優勝する者は松山と同レベルか松山以上のショット力は持っている。
己のベストで戦えるのがアメリカツアーのレベルである。
松山の抜きん出た点はアプローチだ。松山は世界3位には入る技量と結果を残す。
そしてパッティングである。
松山の大学時代、大手前の連中がリーグ戦で松山と戦う機会が何度かあった。
松山と18ホール回った者は皆、同じ事を言った。
「パットが抜群に上手いです。3メートルのバーディパットは外しても、3メートルのパーパットは確実に入れて来ました。一度も外さないんです」と。
松山は3メートルのバーディパットは外しても3メートルのパーパットは入れて来た男である。

3メートルのパーパットライン読む時、ボール後方からのライン読む姿勢、バーディパット読む時よりも低くなっていた。
その事に気付いたのは松山の大学時代のリーグ戦、大手前大学と対戦した時だった。
本人は気付いてない筈だ。
己の癖に気付けば3メートルのバーディパットライン読む時もパーパット読む時同様の低い姿勢になって行くと思う。
気付かずにプレー続けて行けばいい。3メートルに集中した時の姿勢、崩さずに行きゃアメリカで戦えるゴルフになると思ったからである。
この時、松山よ、今を崩すな、と私は思った。

ラウンド終了後、フロント横のロビーにいた松山。
私は松山に問うた。
「大手前大学のゴルフはどうだった?」
「普通です」
「そうか。全国リーグ戦で東北福祉と五分の戦いするにはまだ時間が要るな」
松山は穏かな眼で私を見ていた。
「松山よ。お前のゴルフは日本向きじゃない。アメリカ向きだ。大学出たらアメリカへ行け。お前の戦いの場はアメリカだ」
松山の眼線が一瞬変った。
私はロビーから離れた。

松山のゴルフの強さはパットだと思う。ショットではない。
これ迄の松山のゴルフ見て来た経験で申すが、タッチの出し様にマイナス点は見当らなかった。カップ迄の距離に大きなズレ生じない安定したタッチの持ち様であった。
その安定性は大学時代から今日迄、続いていると思う。
問題はラインである。
5メートルのスライスライン、カップ中央に対して3センチのズレは生じていない。
フックライン、3センチのズレが生じる事、多かった。
勝った時のライン読みは秀逸。
勝てなかった時のフックラインの読みに少しの問題在りとゆう気はした。

ライン読む基本は人それぞれなれど、スライスライン打つ時の松山は左カップ端にラインの中央を置いている様な気はする。
ではフックラインの時は右カップ端かと申せばそうではなく、カップ中央に合せているのではと推察する。
その違いが3センチの違いを生んでいるのではと考える。

ショットだけで勝つには72ホール総て1メートルに寄せるショット力は必要。
それが出来なければパットの力が必要となるのです。
松山はスライスライン読む力、世界で五指には入ると思う。
ただ、フックラインを読む力は二十指から外れていると思う。
松山のメジャー勝利、どの試合にも大いなる可能性在りです。
パッティング次第でしょう。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年4月18日号より