【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.758「ボールがカップへ“スッ”と消えていくイメージで打っています」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
ゴルフ場所属のキャディとして、トーナメントでプロにつくこともあります。そこで感じるのは、プロはパットで必ずオーバーするのに、普段来場するアマチュアのゴルファーはショートすること。何が違うのでしょうか。(匿名希望・女性・45歳)
わたしもキャディとしてゴルフ場に勤めていた経験があります。
プロテストを目指して練習していた時期だったので、少しでも自分の参考にできないものかと上手なお客さんのゴルフを熱心に観察していたことが思い出されます。
来場する人はさまざなゴルファーがいるのは、今も昔も変わりないのではないかしら。
なかには「キャディフィーを払っているんだから、黙って客の言うとおりに動け」と威張っている人もいれば、キャディを含めたその場の人みんなが気分よく快適にプレーできるようマナー&エチケットを大事にするジェントルマンもいます。
大声で話をする、クラブを持って行かない、クラブを取りに近寄っても来ず遠くで待っている、グリーンではお構いなしに時間をかけるなど……。
キャディ時代はいろいろと経験させてもらいました(苦笑)。
とはいえ、キャディとして多くのゴルファーを観察したら、その人がどんなゴルフをしてどの程度のプレーヤーかは見極めがつくと思います。
自コースで開催されるトーナメントでは、ハウスキャディとして出場プロ選手につくこともあるというあなたは、プロとアマチュアのパッティングの違いはオーバーするかショートするかにあると見極めたようです。
確かにゴルフの世界には昔から
「届かなければ入らない」
というパッティングに関する金言があります。
ホールに沈めるための絶対条件は、ボールをカップに届かせることです。
そのために
「カップの先ワングリップの距離まで打て」
「30センチオーバーするように打て」
「カップの向こう側の壁に当てて落とせ」
といった強めオーバーめを訓示するセオリーが掲げられもしました。
ですが、こうした標語も今や死語となっているようです。
届かなければ入らない事実に変わりはないものの、パッティングは単にオーバーめに打てばいいという時代ではなくなってきました。
ゴルフ場からコーライグリーンが姿を消していくとともにベント芝のグリーンの高速化が格段に進んだ現在では、起伏の大きい高速グリーンが発展してきたからです。
タッチを合わせることに以前より高度なレベルが求められるようになった、とも言えましょうか。
私の場合は、勢いのなくなったボールが穴に落ちるジャストタッチよりも、「ボールがスピードを持ったまま穴の上に来てスッと消える」イメージでパッティングしています。
では高速グリーンで距離感を合わせるにはどうすればいいのか?
また、必ずオーバーに打つことのできるプロは、そのためにどんな練習をしているのか?
正直、答えはありません。
グリーンが速かろうが遅かろうが、ゴルファーはどんなグリーンにも対応するべく、練習を繰り返すことによって自分のパット感覚のなかにフラットなグリーンで5メートルなら5メートルの一定の距離を打つタッチの尺度、スケールを構築しなければなりません。あなたなりの「〇メートルを打つ」というスケールの感覚を理屈抜きに体と頭に覚え込ませる以外、この問題の解決策はありません。
このスケールを頼りにして、ゴルファーはその日にプレーするコースのグリーンでの対応法を判断することになるのです。
それを効率よく練習するコツはないのか、もちろんありません。
あるとすれば、地道にコツコツ続けるしかないでしょうね。
本当に近道も万能薬もないのです。
パットが決まらなくても、オーバーすればカップ周りの微妙な起伏がわかるので、返しのラインは読める。
ショートした場合は、その情報も入手できない。
状況にもよりますが、だからこそプロはオーバーに打つことを心がけているはずです。
それなのに、どうしてもオーバーに打てないとしたら……。
やっぱりどこまでいっても練習不足というしかありませんね(笑)。
「これは“ジャストタッチ”でボールがカップへ入るイメージを記したものですが、タッチによって入口は幾通りもあることわかりますよね」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2023年3月28日号より
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