【ゴルフ野性塾】Vol.1770 「プロのゴルフには覚悟が要る」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
「トーナメント
プロの職業、
ゴルフと私生活への姿勢、そして物事に対する考えと哲学に興味があります。私達には私達なりの職業倫理と価値観、そして損得の判断力がありますが、プロゴルファーの考えって私達以上に単純なのか、それとも複雑なんでしょうか?」
私の時間に合せて一週間に一度、福岡は大濠公園内のスターバックスに集う者が増えて来た。
最初はカフェラッテを飲む私に挨拶して来た者2名だったが、3名、5名と増えて今は集う者13名になっている。
難しい話もすれば誰もが納得する話をする事もあるが、彼等の質問の数と簡単には答え難い難しい質問が増えて来た。
30分が30分過ぎる時もあり、少しの窮屈さを覚えて来たは確かだ。
「私のコーヒー飲む時間を邪魔しないでくれ。それさえ守ってくれればアンタ方の相手はする。ただ、世間話程度の話で納得して貰わにゃいかんけどな」
「勿論、承知しております」
「スウィングレッスンも駄目だぞ。基本、ゴルフは一人でやるものだ。そりゃ友とのラウンドは楽しいが、友とのラウンドでも基本は一人のラウンドだと思う。干渉はいかん。4人でラウンドしていても一人の時間は必要と思う。4人共同の時間よりも多い時間は要る」
「承知しております」
「人、増えれば自己主張は増すが、それはイヤだ。この事、忘れないでくれよ」
私は水と抹茶カフェラッテを頼んだ。集う者は全員、コーヒーだった。
二度に一度の割で私が全員のコーヒー代を払い、二度に一度は集う者が払って来た。
大濠公園内スターバックスの一週に一度か二度の午後の散策途中のコーヒータイムである。
日米の違いは一期一会の違いだった。
一人が質問して来た。
「プロの練習ラウンド、何を求め、何を考え、何を強く意識してラウンドされているんでしょうか? 100切れないアマでも出来る事ってありますか?」
「際どい質問だな。それ以上の踏み込んだ質問ならレッスンの領域だ。お前さんの職業が何なのかは知らんが聞き上手じゃあるな。そうか、プロの日常を知りたい訳だ」
「そうです。プロ野球、プロサッカー、プロテニス等に較べるとプロゴルファーへの敬意と畏怖は強いと思います」
「そうか。その畏怖がプロゴルファーの勘違いを生んだのかも知れんな。ゴルフが上手けりゃ世間の尊敬と興味を与えられると思った者は多かったからな」
「そうなんですか」
「そうだ。練習ラウンドは今のコースを知る事から始まる。グリーンの速さ、傾斜、硬さ、バンカー位置、そしてホール距離と難易度、総ては練習ラウンドを始発駅とする知識だ。先入観を持っちゃ駄目だ。今の己の力量での判断が要る。だから昨年の知識は思い込みの強さを生むからゴルフは練習ラウンドも試合も一期一会、今がありての己のゴルフだ」
「よく分ります。最初の出会いから今迄の坂田プロの語りの中で教わった事ですから」
「練習ラウンド、プロレベルであれば球一球の練習出来る技術と集中力は持つ。試合では球一球、試合前の練習ラウンドでも球一球。その一球が集中力を高め、決断力を強めて行く」
「昭和60年4月、アメリカのマスターズ観戦記執筆に行ったが月曜日の練習ラウンドで驚かされた。皆、球2球3球のラウンドはしていなかった。ミスショットしても打ち直しはしなかった。日本とアメリカの違い、それは、一期一会の違いだと思ったネ。日本の練習ラウンドはミスした後、新たな球を打つ。ミスしなくても同じボール位置から別の球を打って行く。それって試合前のコースラウンドで練習してるんだな。練習は練習場でやればいい事だ。この時点で自分達の試合に対する心構えの稀薄さを感じたネ。集中生むのは球一球への覚悟と勇気だ。日本との違いを知らされたよ、月曜日の練習ラウンドから」
「そうだったのですか。昭和60年の時、私は小学生でした」
「そうか。私も長く生きて来たんだ。今、75歳過ぎて76歳へ向う途中だが、丈夫な体に育ててくれた親に感謝している。親に感謝出来る人間が一番幸せなのかも知れんな。私はやっぱり幸せ者だ。人との出会いの縁と運にも恵まれて来たし」
「75歳の言葉には納得させられる力を感じます。私達若い者には有難い言葉です」
「お前、日頃からそんなに謙虚な人間なのか。お前の姿、形からは想像出来ん謙虚さだな」
「謙虚じゃありません。でも聞く耳は持ってます」
「そうだ。それでいいのだ。人間、聞く耳一つ持ってりゃ人様に大きな迷惑掛ける事はないと思う。ゴルフは同じ状況から2球3球の球打つ競技じゃない。風の向き、強さ、距離、立つ位置、プレッシャー総てが一期一会。総てのスポーツがそうだと思うが、一度の出会いと別れの競技だ。そして人様に迷惑と不快感与えるスポーツじゃない。聞く耳一つ持ってりゃ」
「昭和60年当時、欧米のプロの練習ラウンドは球一球の練習であり、日本の練習は球2球、球3球の練習が主流だった。今はどうだか分らんが、集中の力、己のスウィングへの自信と確信持ちたければ球一球のゴルフを目指せばよい。100切れぬゴルフであっても球一球への力持てば80切れるゴルフは出来ると思うぞ」
「私は24歳でゴルフを始めたが、ゴルフ始めて10日目の鹿沼CCの従業員コンペで86で回った。ハンディ26貰っていたのでネット50で優勝。次の月からはハンディゼロだ。そしてゴルフ始めて3カ月で周りの研修生と同じスコアが出せる様になっていた。鹿沼の研修生になって10カ月後、栃木県のアシスタントプロ研修会に出させて貰ったが、日光CCの36ホール、88・76の164だった。」
順位は27名中ケツから三番目だったと記憶するが、次の月の小山GCの研修会では2ラウンドパープレーで優勝した。
私はゴルフ始めた時からティーからグリーン周辺迄は球一球の練習ラウンドしていた。
一人でラウンドしている時のアプローチとパットだけは2球、3球と打っていた。
今、想う。
ティーからホールアウト迄、球一球の練習ラウンド出来ていればどんな成績生む事出来ていたか、と。
生涯6勝、内5勝は賞金だけの優勝であり、1勝は優勝トロフィー貰えた優勝の三流半プロの生涯成績。
「スウィングの出来具合を確認するのが練習ラウンドではない。そして、練習ラウンドは練習の場ではない。ゴルフには覚悟が要ると思う。スコアに対しても打つ球の飛距離と方向に対してもだ。一期一会、色即是空はいい言葉だ。失敗を悔いるな。失敗を怖れるな。他人がやった事じゃない。己のやった事じゃないか。それが一期一会の心構えと思うぞ」
30分が過ぎた。
「それじゃあ、今日はこれで」
皆、立ち上った。
頭を下げた。
私は公園の歩道に出た。
振り返らなかった。
一期一会だもんな、と思った。
今日2月9日、木曜日。
現在時午後零時45分。
窓の外は薄晴れの空。空一面、薄い雲が浮んでいます。
長男雅樹は今日も神戸で大手前大学ゴルフ部員の指導中と聞く。女房殿は家の中にいると思うが、洗濯している気配なしだ。
本稿、ファックス送稿の後、西陣ゴルフセンターで6アイアン、9アイアン、サンドウェッジの3本で100球打ち、天神へ行ってカフェラッテ一杯飲み、その後、新天町散策。
移動は西鉄バス。
便利だ。時間通り来てくれる。
平凡な日々、然り気なく過せるは幸せだ。
体調良好。
それでは来週。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年2月28日号より