【ドライバー研究】ヘッド形状でヘッドスピードは上がる!? ドライバー開発の最新トレンドは空気抵抗!
2020年、ドライバーのニューモデルが多く登場したが、新機能に注目すると「エアロダイナミクス」という文字が、かなり目立っている。空力はドライバーにどんな影響をもたらすのだろうか。
打点ブレに強い大型ヘッド
大型化するほど
空力性能は落ちるもの
2020年ドライバー開発のトレンドは空力(空気力学)。ヘッドを空力特性に優れたフォルムにすることで、スウィング中の空気抵抗を減らし、ダウンスウィングからフォロースルーまでヘッドスピードが減速することなく、インパクトを迎えるというもの。
「ドライバーのヘッドサイズは、460ccと大きくなりました。オフセンターヒットでもボールスピードが落ちないヘッドを作るとなると、普通に考えるなら投影面積が大きくなっていきます。その代わりヘッドの空力性能は悪くなってしまいます」(キャロウェイゴルフ R&D担当 上席副社長 アラン・ホックネル氏)
人間の頭で考えると、「オフセンターヒットでも初速が落ちない=やさしい=ヘッドが大きくて重心が深い」となりがち。そこをキャロウェイは人工知能・AIをフェースだけでなくヘッドのデザイン
にも取り入れたことで、ヘッド後方がスッと切れ上がった「サイクロンヘッドシェイプ」と呼ばれる形状になり、空力面での課題もクリアしたという。
キャロウェイは
おしりが高いハイバック形状で
空力課題を解消
通常このような「おしり」が高いハイバック形状になると重心が高くなり、飛びに必要なバックス
ピンの最適化ができないところだが、AIがシミュレーションを繰り返して作り上げたフェースのおかげで適正スピン量で飛んでくれる。
テーラーメイドは
ソール面を空力フォルム
にして空気抵抗を軽減
時を同じくして発表されたテーラーメイドの「SIM」シリーズのドライバーもヘッドは空力性能を極めた形状をしている。ソールから飛び出したウェート部分が特徴的だ。
460ccというルールで決められたヘッド体積の中で理想の重心、スピン量、空力特性などすべてを盛り込もうとすると、必ずどれかが理想とは違うスペックになってしまう。それならば、空力と重心特性は別モノとして考えよう、その結果この形状となったのだ。
スウィング中における空力を考慮した部分は、キャロウェイがトップからインパクトまでのおよそ3分の1に対し、テーラーメイドはハーフウェイダウンからインパクト。ヘッドを返す動作が入るため、ソール面から空力を考えており、この違いが形状の違いに現れている。
トップからインパクトまでの後半
1/3を重視したキャロウェイはハイバック形状
キャロウェイが重視したのはトップからインパクトまでの最後の3 分の1 の部分での空気抵抗。ソールの後ろ側を高くしたハイバック形状にすることでその際の空気の乱れを防ぎ、ヘッドスピードが落ちにくい。
「9時~6時」を重視した
テーラーメイドはウェートを傾けた
テーラーメイドの場合は、ハーフウェイダウンからインパクトまでの空気抵抗を重視。フェース面はまだ飛球線方向を向いていないためフェースローテーションが起こる際の空気抵抗も考慮されている。
これまでもたくさんあった
空力を研究したドライバー
【ピン】
クラウンに空力フィン
クラウン前方に「タービュレーター」と呼ばれるフィンを取り付け、スウィング時の空気の流れをスムーズに。
【コブラ F9】
ヘッド全体を空力特化
空力性能のアップと低重心ヘッドを追求。クラウンやソールにエアロダイナミクスに特化したデザインを採用。
【キャロウェイ XR16】
ボーイング社と提携した
NEWスピード ステップ クラウン
ボーイング社と提携し「NEWスピード ステップ クラウン」を開発。クラウンとフェースで空気抵抗を低減。
【テーラーメイド バーナー】
斬新なエアロダイナミクス
通常のドライバーとは一線を画するデザイン。クラウンからソールまでエアロダイナミクスを追求していた。
米国のクラブデザイナーは空気抵抗理論が好き
「ドライバー設計における空気抵抗の3原則は、以下のとおりであることが風洞実験等で証明されています。①ヘッド体積は小さいほうがいい。②フェース面積は小さいほうがい。③ネックは細いほうがいい。だから、大型ヘッド時代の空気力学は、アメリカのクラブデザイナーたちが好きなテーマで、古くから研究されています」(クラブ設計家・松尾好員)
ヘッド形状の影響は大きい?
トラックマン実験の数値公開
「MAVRIK」と「SIM MAX」
さて、本当にヘッドの形状でヘッドスピードは上がるのか? テーラーメイドとキャロウェイ、それぞれ旧モデルとの比較試打をおこなった。
小暮プロがヘッドスピード42m/s、そして44m/sの「振り感覚」で、旧タイプとヘッドスピード比較。実際に10球ずつ打ちながらデータを計測。その平均値を取った。
【試打】小暮博則 スウィング理論を日夜研究するプロゴルファー。ギアへの精通はゴルフダイジェスト試打企画でお馴染み
M6とSIM MAXの数値
EPIC FLASHとMAVRIKの数値
【実験結果】
ヘッドスピードは
明らかに上がった
スウィング中の「風切り音」から明らかに速く振れている感じがしたのはテーラーメイド。
「『SIM』は『M6』に比べて、ダウンスウィングからの抵抗が少なく、インパクトまで一気にスパーンと振り抜ける感じがしました。実際の数値上も速くなっていて、ボール初速にも違いが出ています」(小暮プロ)
振った感じはそれほど変わらなかったが、データではヘッドスピードがアップ。そして高い初速性能を見せたのはキャロウェイ。
「ヘッドスピードが速めの人のほうが空力特性を生かした『MAVRIK』のヘッドの恩恵が受けられそうですね。空力特性もいいのですが、やはりなんといってもこのドライバーは多少芯を外しても初速が落ちないことでしょう。『EPICFLASH』の初速も速いですが、『MAVRIK』の飛びにはびっくり。芯が広いのでより速く振れるという安心感も手伝います」(小暮プロ)
フェースの高い反発性能に加え、芯を外しても初速が落ちない、そして曲がらない。ドライバーの開発もとうとう行き着くとこまで来てしまったのではないか? と心配になるが、飛ばしたいゴルファーの夢を叶えるため多くの理論を投入することは嬉しい限り。
実験からもわかるとおり、空力でヘッドスピードは上げられる。
週刊GD2020年3月3日号