【世界基準を追いかけろ!】Vol.88 メンタルが技術に及ぼす影響とは?
目澤秀憲と黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回は、ゴルフにおける「心技体」の重要度について。
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
GD ここ数年、日本のナショナルチームのヘッドコーチの、ガレス・ジョーンズ(※1)の指導力に対する評価が高いですが、どういう指導をするのですか。
X 私が聞いた話では、ガレス氏は日常生活の過ごし方なども重視していて、その指導もするみたいですね。例えば試合で海外に行った時に、現地に到着してからの過ごし方だとか。
GD 具体的には?
X 選手たちには、まず街中を散歩させるそうです。時差ボケ解消として現地時間に順応させる目的もあると思うんですが、現地の文化に触れさせて情操を養いながら現地に適応させていく目的でしょうね。選手たちもあらかじめその土地の歴史などを検索したりして、より興味を深める子もいるみたいです。
GD アウェイ感の軽減なんですかね。渋野日向子も海外の試合でギャラリーを魅了していますが、ルーキーイヤーながらアウェイ感を全く感じさせないですよね。そういうのはメンタル的に大事なんでしょうね。
黒宮 大事ですよ。メンタルとフィジカルが強い選手がUSLPGAに行って、さらにそこにスキル面が良い感じで触れ合って化学反応が起これば、メジャーも勝つ可能性が出てくるということですよね。逆にスキルとフィジカルだけが強い選手は、その状況では脆いと思います。プロのトップで戦うには、心と体の部分が一番土台になると思います。ですから、心が整理できなければ脳がパニックになり、そうすると体が動かせなくなる。それが高じてくるのがイップスという症状です。メンタルという土台がしっかりしていないと、体と技の部分のポテンシャルも出せないわけです。
X その良い例が宮里藍プロで、トップ合格で参戦した米ツアーで当初は良い成績を出せずスランプに陥りますが、07年にピア・ニールソン(※2)というメンタルコーチをつけた翌年にツアー初優勝しました。
GD 目澤さんはメンタル面はどう考えていますか。
目澤 もちろん、メンタルはとても重要ですし、その強化のためのトレーニングも必要です。
X アメリカではスポーツサイコロジーは大学の部活でも必ず履修しますからね。
GD 日本にメンタルの優れたトレーナーはいるんですか。
目澤 ボブ・ロテラ(※3)みたいな人いないですよね。
X メンタルトレーナーはいると思いますけど、選手サイドが高度なメンタルトレーニングを欲するところまでいっていないんでしょうね。
黒宮 そうですね。まず先ほど話が出た情操教育的な部分からやったほうがいいかもしれないですよね。ちょっとしたことを我慢できない子が多くいます。
GD 黒宮さんが言っていた、脳がパニックになり体が動かせなくなる場合、たとえば大きく息を吸って吐いて、とかそういうレベルからですか。
黒宮 そこから始めたほうが良い選手はけっこう多いと思います。
(※1)2015年10月より豪州ナショナルチームコーチのガレス・ジョーンズ氏をJGAヘッドコーチとして招聘。世界水準の強化プログラムで選手を育成している。(※2)元スウェーデンナショナルチームヘッドコーチ。すべてのホールでバーディを奪うことを目標にする「ビジョン54」は限界を打ち破り自分の中のポテンシャルを引き出す。(※3)米国のスポーツ心理学者。トム・カイト、ニック・プライス、ジョン・デーリーなどのメンタルを指導
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
X氏 目澤と黒宮が信頼を置くゴルフ界の事情通
週刊ゴルフダイジェスト2022年5月31日号より