【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.78 師匠の言葉「五やな」で気づく
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO /Gen Hiraga
あまりにも調子が悪いので、久々に師匠(高松志門)に電話しました。以前から師匠は「お前は65歳になるまで試合ができるやろう」と言うてくれてはったんですけど、今回の電話で僕は「僕なんとかやっているんやけど、もう62歳やし、ボチボチ終わりですよ」と言いました。
そしたら師匠は「右からの風のときに、風上に打っとるのとちゃうか」と言うのです。「えっ、先生、何でわかるんですか?」とそんな会話していたら「五とちゃうか?」と「あっ、五ですね」と、これは僕と師匠の間でしか通じない話なんです。
禅問答みたいですけど、そんな難しい話ではありません。五分割して考えるということです。五分の一、五分の二、五分の三、五分の四、五分の五と緩急の話なんですけど、僕はシニアになってからは、それしかやっておらんのです。
せやけど、電話でポンポンとキャッチボールができるのはありがたい話です。
ウェッジで普通に打って100ヤードとすれば、20ヤード、40 ヤード、60ヤード、80ヤード、100ヤードと五分割するわけです。それで一つずつ伸ばして、五の五でフルスウィングになるわけなんやけど、それで、それぞれドローとフェードが打てれば無敵やと。
それが「五やな」という一言で僕には理解できてしまうのです。いちいち「こうやな」とか「ああやな」と言わなくても「五ですね」とわかってしまうのはすごいですよ。
すぐに「五」をラウンドでやってみましたけど、みっちり練習してからやないと、なかなか上手くいきませんでした。
師匠の師匠は橘田規先生ですけど、石井哲雄さんが心の師やと言っておりました。満洲から復員してゴルフを再開して、当時マッチプレーだった日本プロで、次々と強豪を負かして、決勝では中村寅吉さんを3-1で破ったレジェンドです。
師匠が僕と同じ年のころ、石井先生が師匠と同じ年やったそうです。「ちょうどお前が電話したみたいに石井先生に電話したんや。また一緒にまわってくださいと」。そうしたら「今、オレまわれないんだよ」と言うので「何でですか?」と聞いたら、「この頃球が曲がるんだ。言うことを聞いてくれないんだ」と言っていたそうです。
こうやって悩みを吐き出せる師匠というものはええものですな。
悩みを吐き出せる師匠、ええものですわ
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年4月26日号より