【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.76「手よりクラブが上がったら、もう打てる」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO /Takanori Miki
僕が長いことラウンドレッスンしておるHさんとまわった折に、ちょっとしたアドバイスをして「Hさん、ひょっとすると近々ベストスコアを更新できるかもしれませんよ」となんとなく言いました。
Hさんのベストスコアは79と聞いておりました。それから次の次のラウンドで「プロ、ほんまに76が出ました!」と連絡があったんです。
アドバイスというのは、バックスウィングの話です。
「手よりクラブが上がったら、もう打てるところやからな」と言うたんです。僕本人はもっと上がっていますけど。
「それで十分打てるところやのに、もうひとつグッといったら外れるんですわ」という話をしたのです。
そうしたら「こんなんで打てるんですか?」と言うから「打てる、打てる。十分。十分なところやで」と言いました。
Hさん、「えっ!?」と言ってましたけど、実際にそうやってスウィングしてみたら、「これは楽ですわ」に変わったんです。
球もええ感じで飛んでおりました。おそらく無理に打ちにいかなくなったせいでしょう。「これはむちゃくちゃええアドバイスをしたわ」と思っておりました。
そこから3球連続でええ当たりが出たのです。ドライバー、セカンド、それから次のホールのドライバーとポンポンとええショットが続いて、「この調子やったら、ひょっとしてベストスコア更新かな?」と思ったのです。
どこかで「もっとしっかりとテークバックを取らないとあかん。そうやないと飛ばんやろう」みたいな情報を入れておったのかもしれません。そういう情報をもらってゴルフがよくなる人もいるかもしれません。
もちろんスコアを作るのはショットだけではなくて、パターとかアプローチもあります。せやけどHさんが「楽になった」というのは大きいと思います。何かひとつ楽になることでゴルフ全体にええ影響が出た可能性はあります。
Hさんが「テークバックはこれで十分いける」と本当に思えて、それを実戦でやり通した結果です。ゴルフは何がきっかけで変わるかわかりません。また違うほうに変わることもあるやろうな、とは思っています。
ちょっとしたきっかけがゴルフを変えます
「それまでは、大きく上げて無理に打ちにいこうとしてたんですわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年4月12日号より