【わかったなんて言えません】Vol.71 香妻陣一朗 #4「メンタルをフラットに保つ」
「ゲンちゃん」こと時松隆光がプロを招いてトークをする連載「わかった! なんて言えません」。今週のゲストは前回に引き続き、同じ九州出身でジュニア時代から切磋琢磨してきた香妻陣一朗。ミスをしても顔色ひとつ変えない時松の心の内に、香妻が迫る。
TEXT/Yuzuru Hirayama PHOTO/Hiroyuki Okazawa
ホスト/時松隆光
1993年生まれ、福岡県出身。ツアー通算3勝。プロ10年目。テンフィンガーグリップで戦う。愛称は“ゲンちゃん”
ご指名/香妻陣一朗
1994年生まれ、宮崎県出身。12年プロ入り。20年の三井住友VISAマスターズで初優勝。昨季は賞金ランク8位。SNSにも注目
時松 僕と陣が一緒に回ると、珍事というか、ラウンド中に何か起こることが多いよね。
香妻 そうですね。
時松 昨年の東建カップの初日は(キム・)キョンテさんと3人で一緒に回ったけど、2日目のスタート前にキョンテさん、高熱が出ちゃって。新型コロナの検査に行ったので2人で回っていたら、8番くらいで係の人から「陽性でした」と言われたんだよね。
香妻 それで、2人で「ヤバッ」となって。
時松 「一応プレーはしていいんです」と言われたけれど、モチベーションを保つのがなかなか難しかった。
香妻 2人とも予選落ちでした。
時松 2020年のJTカップの3日目に一緒に回ったときも……。
香妻 僕がぎっくり腰をやったんですよね。3番ホールのつま先下がりの場所でピキッときて。打った後に普通に歩こうとしたら、あ、これダメだってなって。
時松 それで、「途中で棄権した場合、賞金をもらえるか」を担当者に聞いたら、「もらえない」と言われて。それで、参ったなあって言いながらも最後まで回ったんだよね。
香妻 インパクトから先は腰が回らないから、完全な手打ちになっていましたけど。
時松 それでも転がって250ヤードくらい出ていたし、僕より飛んでいたホールもあった。
香妻 けっこう飛んでましたね(笑)。その日の夜は痛み止めを飲んで、テーピングをメッチャ貼って、4日間やりました。
時松 JTは予選落ちがないから、最下位の30位でも賞金100万円が出るからね。
香妻 3日目は76(JTはパー70)、最終日は73で、27位。ビリじゃなかったです。
時松 2020年に陣が優勝したVISAでも予選ラウンドで一緒に回ったけど、直前にドライバーを5から7(スリクソンZX7)に替えたと言っていたよね。
香妻 そうです。5はヘッドが大きくて思った球が打てていなくて、それで小さめの7に替えたんですけど。
時松 なんかしっくりこないって言いながら、予選からバッチバチ当たっていたもんなぁ。
香妻 替えたその週に優勝できたんですよね。
時松 だからって言うわけじゃないけど、最近、僕と回る人が優勝することが多いんだよね。
香妻 そうなんですか。
時松 昨年10月のISPS HANDAで(池村)寛世と最終日に回って勝ったでしょ。熊本オープンでも最終日に狩俣昇平さんと回ったら優勝したし。
香妻 最終ホールで林の中からすごいボールを打っていました。
時松 打てるんかなという場所から転がして、バンカーに入ったと思ったらトントンッてグリーンに駆け上がって、最後はワンピンくらいに寄ってバーディ。プレーオフでも狩昇さんがバーディを取って優勝したんだ。
香妻 源くんと回れば勝てるなら、今年はたくさん一緒に回りたいですね(笑)。
時松 昨年一緒だったのは、東建カップだけだったよね。
香妻 そうです。でも、源くんって自分が優勝争いをしているときは、緊張してないですよね。
時松 緊張はしているけどね。
香妻 あれで緊張しているって、どういうメンタルなんですか。だってボギーを打ってもバーディを取っても、うんともすんとも言わないじゃないですか。「ウワッ~!」とかにはならないんですか。
時松 いや、なってるよ。表に出ないだけで。
香妻 パッティングを外しても、一瞬止まるくらいで、すべてをのみ込む感じです。
時松 ああ、それはあるかな。ウワッ、失敗した、はいはい、仕方ない、次、っていう感じでやっていると思う。
「源さんの精神状態のフラットさは優勝争いしている相手は怖いです。全部を受け入れて、まあこんなこともあるよなって感じで。僕も随分よくなりました」(香妻)
香妻 どうしたらそういう精神状態になれるんですか。
時松 親父がキツかったからね。ジュニア時代にクラブ選手権で親父と一緒にラウンドしていて、ロングパットを外した後のお先にパットが外れ、またお先したらポロッと外れた。そのとき、親父から「おまえはゴルフをなんと思っとんじゃ!」ってかなり叱られて。それからはむやみにキレたり、粗末なプレーをしないようになったかな。
香妻 うちの親父もめっちゃ怖かったんですよ。僕は昔、けっこう「ウワッ~!」ってなっていたんですけど、姉ちゃん(琴乃)のほうが気性が荒くて、中・高生の頃まではけっこうキレていて、親父から怒られていました。僕は、その姉ちゃんを反面教師として、だんだんとカッとならないように抑えられるようになってきて、今は、割とメンタル的にフラットにいけていると思っています。
時松 結果的に、怖い親父のお陰ってことになるのかな。
週刊ゴルフダイジェスト2022年3月15日号より