【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.71「粘る男、井戸木鴻樹」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
よくゴルフで「1打の重み」とか「諦めない気持ち」とか、そういう言葉を聞きます。そのたびに僕は井戸木鴻樹というプロゴルファーを思い出します。
2013年の全米プロシニア選手権で優勝した功績で永久シードを持っている男です。「もう試合はええわ」と思うまで出場できる権利を持っておっても、やっぱり「賞金シード」というものにはこだわりがあるようなんです。
一昨年、井戸木は賞金ランク49位。その前の年は44位。シニアの賞金シードはランク30位までやし、井戸木にとってはどうでもええ数字やのに、「永久シードなんかに甘えておられへん。今年は優勝しますよ」と昨年の春先にインタビューした記者の人に言っておったそうです。
それで3勝して、賞金ランクは3位です。大した男です。
ある試合の初日で一緒にまわったとき、僕も井戸木もパットがバラバラで2メートルぐらいを何度も外していました。「奥田さんも入りませんでしたな。明日また頑張りましょうよ」と別れ際に言われて「そうやな、頑張れたらええな」と僕は返事するんですけど、井戸木はほんまに翌日頑張るんです。
パー4でティーショットを曲げて、セカンドも失敗して、まだ30ヤードも残しておるのに、それを入れてくるのが井戸木というプロです。
キレないで粘る。この粘りがスコアになるわけやけど、それがわかっていても、僕の場合、粘っている自分が嫌になってしまうのです。
ティーショットを失敗して、セカンドもカスみたいな当たりして、アプローチでやっと乗ったとしても、「これ入れたら、パーや」と思うのが井戸木で、「3回も失敗しておるんやから、もうボギーやろな」と思うのが僕なんですわ。
もちろんパーになってくれれば嬉しいですよ。せやけど、僕の場合は3回失敗しておった自分を捨てられへんのです。これは性格やから、ええとか悪いとかの話やありません。
ただひとつ、アマチュアの人に言いたいのは、7回も8回も失敗しておるのに、次の1打を頑張る真似だけはせんようにしてほしいということです。時間をかけずに、すみやかにホールアウトすることが、叩いてしまった人がやらなければならないことなんです。
8打でも9打でも大勢に影響せえへんのですから。そこに「1打の重み」はありません。
絶対にキレることがない!
「粘って、粘り抜くのが井戸木で、『もうあかんわ』という場面になっても諦めへんのです。見ていて勉強になります」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年3月8日号より