【当たるも八卦当たらぬも八卦】Vol.70「竜巻と飛距離の意外な関係とは」
ゴルフを愛する気象予報士・森田正光氏による気象コラム「当たるも八卦 当たらぬも八卦」。第61回はゴルファーが大好きな「晴れ」にまつわるお話。
竜巻の風速はゴルフボールより速い?
2021年12月10日〜11日(現地時間)、アメリカ中部で竜巻が約60個も同時に発生しました。ふつう、アメリカの竜巻は4月から6月に多く、12月のこの時季に、これだけ大規模な竜巻が起きたことはありません。直接の原因は寒冷前線ですがそれだけではなく、アメリカ中西部では11月から記録的な高温が観測され、メキシコ湾では例年より海水温が高くなっていました。こうした高温が寒冷前線による大気の不安定性を強めたとも考えられます。
また、特筆すべきは竜巻の移動距離です。日本では一個の竜巻が被害を与える範囲は狭く、日本最大級と言われる2012年の茨城・栃木の竜巻でも、移動距離は30キロほどでした。ところが今回のアメリカの竜巻は270キロ以上(東京から岐阜市付近まで)にわたって被害が及んでおり、竜巻の移動距離としては世界記録級です。また、竜巻によっていろいろな破壊物が上空に巻き上げられましたが、大被害を受けたローソク工場付近では、瓦礫の一部が1万1千メートルまで巻き上がったと推定されています。
さらに竜巻による風速ですが、今回の場合はコンクリートの建物も土台から壊れていることなどから、一番強いところでは風速85メートルを超えていたのは確実のようです。風速85メートルと一口に言いますが、時速に直すと306キロですから、まさに新幹線の屋根の上で仁王立ちしているようなものです。ちなみに、ゴルフボールはトッププロの飛ばし屋で、ようやく初速80㎧くらいですから、今回の竜巻ではプロがジャストミートした球よりさらに速い風が吹いたことになります。
ゴルフボールは初速が速いほど遠くに飛びます。竜巻のスピードほどは出せないと思いますが、初速が60㎧くらい出せれば、飛距離も230ヤードは出せます。僕もそのぐらいは飛ばしたいなぁと、竜巻のニュースを見ながら思いを馳せていました。
森田正光
TBS報道番組「Nスタ」でお馴染み。監修した書籍『空の手帳』が人気。ツイッターは@wm_moritaで検索
月刊ゴルフダイジェスト2022年3月号より