【ゴルフせんとや生まれけむ】 秋山博康 <前編>「飲みよりゴルフで“協力者”探し」
ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、元警察官の秋山博康氏。
刑事の仕事は取り調べ、聞き込み、書類作成の3本柱がとても大事で、なかでも聞き込みは基本中の基本。これがうまくいくかどうかが事件解決の大きなカギを握っているといっても過言ではありません。そして、そのために欠かせないのがさまざまな情報をもたらしてくれる“協力者”の存在。それで鳴門警察署に勤務していた25歳のとき、人脈を広げるのに役立てようと始めたのがゴルフでした。
昔は、刑事といえば夜な夜な繁華街に飲みに行って協力者を作っていたのが普通でしたから、私も最初は先輩のマネをしていたんです。でも、飲んで一緒にいられるのはせいぜい2時間くらい。そんな短時間では、たくさん話は聞けません。それに毎晩のように飲んでいたら、いくら若いといっても、さすがに体を壊してしまいます(笑)。その点、ゴルフは朝から晩までずっと一緒なので打ち解けやすいし、健康にもいい。これはゴルフにシフトしますよ。
そんなわけで、そもそもは仕事の一環として始めたゴルフでしたが、私はスポーツとしての面白さにすぐにハマってしまいました。だから、捜査が終わると近くの練習場に直行するようになって、ひたすらボールを打ちましたね。徳島の練習場は2時間打ち放題で1000円とか2000円という安さなのですが、2時間で800発打ったこともあります。さすがにそのときは、朝起きたら指が曲がらなくて、いくら何でもやりすぎだったと深く反省しました(笑)。
もともと私は10歳から空手や柔道、少林寺拳法といった格闘技をやっていたのですが、そのときも必死に何時間も練習していました。子どもの頃からスポーツというものは苦しい練習に耐えてこそ上達するものだと、信じて疑ってこなかったんです。でも、ゴルフばかりはそううまくはいきません。いくら練習しても上達しないんですよ。それがあるとき、どうして私はゴルフがうまくならないか、ついに気づいたんです。ゴルフって、やり方はいろいろですが、ハーフショットとか振り方に強弱があるじゃないですか。でも、私の場合、全て全力の思いっきりだったんです。早く気づけよと思われるかもしれませんが、手加減なしの格闘技をやっていた私には、力を抜いて打つという感覚にどうしてもなじめなかったんです。
それともう一つ、格闘技は畳の上であれ板の間であれ、常にフラットなところでやります。でも、ゴルフはつま先上がりだ、左足下がりだとフラットな場所から打つことはほとんどありません。これも今まで自分がやって来たスポーツでは経験してこなかったことなので、戸惑ってしまいましたね。今思えばわかる私の弱点。当時はなかなか気づけなかった(笑)。
それでもゴルフというスポーツの面白さに魅了され、当時、100の壁を越えることはできませんでしたが、10年間プレーを楽しみ、捜査を助けてくれる協力者もたくさんできました。でも、35歳のとき、思うところがあって「もうゴルフはやめよう」と決心し、クラブを全部人にあげてしまいました。大好きだったゴルフから離れたわけは次回お話ししましょう。
秋山博康
1960年徳島県生まれ徳島県警で42年間勤め上げ31年間は刑事。「おい! 小池」で有名な事件の総指揮官。愛称は「リーゼント刑事」。現在は犯罪コメンテーターとして活躍中。ベストスコア82
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月28日号より