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正義のヒーロー vs 愛すべき悪役? マキロイと“嫌われ者”リードが繰り広げる26年欧州ツアー年間王者バトル

DPワールドツアーの旗艦トーナメント「BMW PGA選手権」がイングランドの名門ウェントワースCで開催されレース・トゥ・ドバイ(ポイントランク)1位のパトリック・リードと2位のローリー・マキロイの攻防に注目が集まった。春先に2勝を挙げポイントランクトップ10に与えられるPGAツアー昇格切符をすでに手にしているリードは「欧州の年間王者は常に目標にしていたこと」と大会前に語り、マスターズ連覇のマキロイが目指す史上最多タイ、8度目の戴冠を「阻止する」と宣言。因縁の2人が2026年終盤の主役になるか?

ローリー・マキロイとパトリック・リード。今年のDPワールドツアーの年間王者は実質この2人の戦いになっている(写真はどちらも26年マスターズ、撮影/岩本芳弘)

嫌われ者のイメージが強いリードだが「BMW PGA選手権」では多くのファンに囲まれブーイングではなく声援に包まれた。信じ難いがイングランドのファンは彼に親しみを抱いているようだ。

2018年のマスターズチャンピオンはLIVに移籍する前から毎年のように欧州に遠征し、2019年にはDPワールドツアーの名誉終身会員の資格を授与されている。

2016年アメリカ(ヘイゼルティン)で開催されたライダーカップではジョーダン・スピースとのコンビで躍動。最終日のシングルスではローリー・マキロイとの激闘を1アップで制し『キャプテン・アメリカ』と呼ばれたもの。

2016年ライダーカップ最終日。マキロイとのシングルス戦でロングパットを決め、雄たけびを上げるパトリック・リード。後ろ姿がマキロイ(写真/Getty Images)

ヨーロッパにとっては敵(かたき)役のはずだが、なぜ人気があるのか?

「このツアーでファンと過ごすのはとても気に入っています。楽しいやり取りがあって、ときにはフレンドリーなジョークの応酬があるんです。ライダーカップで『キャプテン・アメリカ』というニックネームをつけてもらって、僕が少しそのキャラクターを前面に押し出すとファンもそれに応えてやり返してくる。そんな気の置けない独特の雰囲気のなかでプレーするのは本当に最高の気分ですよ」

ブラックジョークを嗜みとするイングランドのファンにとって彼は愛すべきヴィラン(悪者)というわけだ。

そんなリードと年間王者を競うのが正真正銘のヒーロー、マキロイ。2016年のライダーカップだけでなく2人はビッグイベントでさまざまな攻防を繰り広げてきた。2023年のヒーロー・ドバイ・デザート・クラシックでは激しいデッドヒートの末、マキロイがリードに1打差をつけ、大会3勝目を達成したことおもあった。

マキロイが残りシーズンでリードを逆転すれは欧州ツアーの年間王者5連覇、コリン・モンゴメリーが持つ史上最多8度目の年間王者という偉業を達成することになる。

だがこの状況で欧州ツアーの旗艦大会である「BMW PGA選手権」2日目、リードがまさかの戦線離脱。初日首位と2打差の好位置につけながら第2ラウンドで左手首のケガが悪化。1番でいきなりトリプルボギーを叩くと前半でダブルボギーを2つ追加し、棄権を表明した。

同じ日、しっかり予選を通過しただけでなく、首位に4打差の6位につけているマキロイは、リードの棄権によってポイント差が縮まることは確実。だが彼には克服しなければならない課題がある。

キャリアグランドスラム挑戦11回目にして、見事達成したマキロイは18番グリーンに座り込み、歓喜の涙を流した(写真/岩本芳弘)

昨年グランドスラムの最後の1ピース、グリーンジャケット(マスターズ制覇)を獲得したことで彼は一種のバーンアウトを経験した。念願のグランドスラムを達成し、押しつぶされそうに重かった肩の荷を下し、大きな安堵感を味わった反面「モチベーションを維持するのが難しかった」と打ち明けている。

今年マスターズで連覇を達成し、再びゴルフに対する倦怠感を抱いたのも確かなようだ。それでも彼は来年前人未到のマスターズ3連覇に挑もうとしている。

「(来年もし3連覇を達成したら)マスターズ以降のスランプから立ち直る時間が早くなればいいですね。今年より上手くやりたい。でもこれってすべて贅沢な悩みですよね(笑)」

前年覇者からグリーンジャケットを羽織らせてもらうのが慣例のマスターズ。連覇を達成したマキロイは自分で自分に渡すことができないので、フレッド・リドリー会長から贈呈された(写真/岩本芳弘)

8度目の年間王者達成に向けては「上位に誰が居ようが関係ありません。いまは2位で上との差は少しありますが、その差がシーズンを最高の形で締めくくろうというモチベーションに繋がります」と語っている。

一方のリードは棄権する前こう語っていた。

「ランキング1位でシーズンを終えられれば最高ですね。ローリーのような選手がすぐ後ろにいるのだから簡単なことではありません。でも彼と競うのはいつだって楽しいしワクワクします。彼が記録に並ぶのは時間の問題でしょうけど、それを1年遅らせることはできるかもしれません」

「ツアーNo.1の嫌われ者」「学生時代ズルをした」など醜聞ばかりで、いい話を滅多に耳にしないリードだが、最近米ゴルフダイジェストが珍しく美談を報じた。

3年前、全米オープン前に彼は舞台のロサンゼルスCCで地元のキャディを起用し、数回練習ラウンドをおこなったのだが、キャディから素晴らしいアドバイスを貰ったと7500ドル(120万円弱)のチップを着前よく渡したのだという。

「いつもそうしていますよ。一日中僕に付き合って働き、一緒に苦労しながらサポートしてくれるんです。ましてプロのキャディバッグは重いですからね。チップを弾むのは僕ができる最低限のことです」

これぞ愛すべきヴィラン。

文/川野美佳

米サンディエゴ州立大学留学を経て1990年代から「週刊ゴルフダイジェスト」「Choice」を中心に執筆を開始。主な翻訳書に『タイガー・ウッズ私のゴルフ論』(テレビ朝日)『タイガー・ウッズ:もうひとつのインサイドストーリー』(日本ヴォーグ社)『ブッチ・ハーモンの勝者のゴルフ: タイガー・ウッズを育てた名伯楽』(小池書院)など。ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、トム・ワトソンなど海外のレジェンドゴルファーへのインタビューを多数行っている