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【横田英治のマスターズレポート】<後編>オーガスタを制するマスターたちのアプローチ技術と最新スウィング

世界最高の戦い、マスターズトーナメントが今年も開催された。2025年のゴルフダイジェスト「レッスン・オブ・ザ・イヤー」を受賞した横田英治が、引き続き夢の舞台とマスターたちの技術をレポート!

TEXT/Tomoya Kikuchi PHOTO/Yoshihiro Iwamoto

横田英治

よこた・えいじ。1971年1月17日生まれ、広島県出身。1996年プロテスト合格。現役時代江連忠に師事し、ETGS(江連忠ゴルフスタジオ)でプロ・アマ問わず多くのゴルファーを指導し、現在は総合ゴルフサロン『クラブハウス』を主宰

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「バンプ・アンド・ラン」
を重視する理由

月曜日から水曜日の練習日。横田英治は、世界ランク上位の選手たちの動きを食い入るように見つめていた。そして練習ラウンドというある種リラックスしたなかに、マスターズを制するための共通言語を見出した。

「経験豊富な選手ほど、練習ラウンドの視点が違います。彼らが見ているのは、今日(練習日)のピンポジションではなく、常に『最終日のピンポジション』なんです。どの選手もグリーン上に仮想カップを置き、そこに向けてアプローチやパットを繰り返す。それも1回や2回ではありません。マスターズでは経験がものをいうとよく言われますが、それはコースの癖を知っているというレベルの話ではなく、『最終日のあのピン位置に対し、どのルートで攻め、どこに外せばパーが拾えるか』というデータを、何年もかけて体に染み込ませているということなんです」

その「経験の差」が最も顕著に表れるのが、アプローチの選択だ。横田は、チャンピオンたちがある特定の打ち方を執拗に練習している光景に目を奪われた。

「それが、クッションを入れるアプローチです。エッジからピンまでが近い状況で、グリーンの外の斜面に一度ボールを当て、勢いを殺して転がす『バンプ・アンド・ラン』。これを、多くのマスターたちが繰り返していました。正直に言って、彼らほどの技術があれば、直接グリーンに落としてスピンで止めることは造作もないはずです。しかし、彼らはあえてそれをやらない。かたくななまでに、クッションを入れるルートを模索しているんです」

多くのマスターが繰り返す“寄せ”練

成功の絶対条件は、スピン量を一定に保つこと。スピンがバラつくと、傾斜に当たったときのボールのリアクションが予測不能になる

なぜ、世界一のテクニシャンたちが、転がしを選択するのか。横田はその裏にある「オーガスタの硬さ」への準備だと指摘する。

「今年のオーガスタは雨が降らない予報でした。となれば、日を追うごとに地面は硬くなり、最終日に向けてグリーンはスピードを増すはず。スピン系のアプローチは、グリーンが硬くなるほど、落としどころのコンディションが大きく影響します。予想以上に跳ねたり、逆に噛んでしまったり。もし計算が狂って下り傾斜に乗ってしまえば、例えば15番グリーンの奥からのアプローチはグリーンを通過し、反対側の池まで転がり落ちるリスクさえある。だからこそ、彼らは芝に一度ぶつけて球の勢いを物理的に殺し、グリーンに入ってからはトロトロと『ラインに乗せる』だけにする。リスクを最小限に抑えるための知恵なんです」

ただ、このバンプ・アンド・ランも決してやさしいものではない。芝の抵抗を計算に入れなければならないため、グリーンに直接乗せるよりもはるかに高度な感覚が要求されるからだ。

「成功の絶対条件は、スピン量を一定に保つことです。スピンがバラつくと、傾斜に当たったときのボールのリアクションが予測不能になります。この技術が抜群に上手いのが、松山英樹選手です。彼はスピンの入った柔らかい球を、常に一定の高さと強さで、同じ箇所にぶつけることができる。相当な自信がなければ、本番であの傾斜にぶつける勇気は持てません。慣れていない選手だと、傾斜に食われるのを恐れて強く打ちすぎてオーバーしたり、逆に緩んでショートしたりする。緻密なウェッジさばきと、強いメンタルが必要なアプローチです」

練習ラウンドで選手たちが求めていたのは、華やかなチップインではない。次のパットが1〜2メートル残ってもOK。最悪の事態を想定し、そのリスクをいかに排除するか。そのためのイマジネーションを、水曜日までの間にどれだけ積み上げられるかだ。


5年ぶり2つ目のグリーンジャケットを狙う松山英樹は、いつものように入念な練習を繰り返していた

「彼らにとっての練習ラウンドは、ナイスショットの練習などではありませんでした。ミスをしたときに致命傷を負わない場所がどこなのか、またそれを回避する方法は何なのかを、執拗に確認する作業なのだと感じました。バーディを狙う準備以上に、コースの至る所に潜む『大叩きの罠』に対して、一つ一つ回避するすべを探る。マスターたちの練習には、そうした徹底した危機管理の意識が、ありありと見て取れました」

練習場のレンジで、あるいはコースのロープサイドで、横田英治は数え切れないほどのボールを凝視し続けた。世界中から集まった最高級のスウィング。プロコーチとしてスウィング理論に精通する横田の目に、現代ゴルフの到達点はどう映ったのか。

形よりも結果ありきのスウィング

「かつて、スタック・アンド・チルトという、バックスウィングで軸を右に動かさない、俗に『左1軸』と呼ばれた理論が世界を席巻しました。しかし今回、現地でさまざまな選手を観察して確信したのは、それが一時的な流行ではなく、確実に現代スウィングの『主流』として定着したということ。右に大きく体重移動して打っていく2軸スウィングは、この舞台ではほぼ姿を消したと言っていいでしょう。アドレスで決めた軸を微動だにさせず、トップ、インパクト、そしてフィニッシュまで一気に回る。軸回転のスピードを極限まで高めることで、彼らは異次元の飛距離を叩き出しています」

なぜ右への体重移動は消えたのか。横田はその「合理性」を説く。

「テークバックで右に動けば、確かにドライバーではアッパーブローに打ちやすくなり、距離も稼げます。しかし、ドライバーは1日14回しか使いません。それ以外のショットはすべて、地面にあるボールを打つわけです。そうなると、軸を右にズラさずにコンタクトするほうが、圧倒的にミートの確率が上がる。回転で打つからこそ、インパクト以降は左へ鋭く振り抜かれ、結果として前傾角度もキープされやすくなる。マスターズを戦う選手たちの共通項です」

さらに、横田は独自の視点で「右手」の重要性に言及した。

「ボールの打ち出し方向はフェースの向きで決まり、曲がり方はヘッドの軌道で作られます。精度を追求すれば、いかにフェースをスクエアな状態で当て続けられるか、という一点に尽きる。そこで彼らのグリップを見ると、左手がストロングであっても、右手を下から握り込む選手は驚くほど少ない。この『右手のひら』をターゲットに向ける感覚こそが、世界標準のスクエア感覚を生むのです。型や作法ではない。ターゲットに対してどうクラブを入れ、どう当てるか。それさえ実践できるなら、スウィングは個性的でいい。世界のスウィングは、もはや特定の型を持たない『無型』の境地に達しています。流行を追いがちな日本ツアーに比べ、世界はもっと自由で、本質的なんです」

「ローリー・マキロイに代表されるように、右手は「スクエア」が基本。私自身、これまでは左手に合わせて両手のひらを正対させるように教えてきましたが、考えを改めなくてはならないようです。ターゲットに対して右手のひらを正対させることが大事です」

その「本質」を支えるのが、練習場での凄まじいまでのウェッジの練習量だという。

「どの選手も、驚くほどウェッジを打ち込みます。ウェッジは重さがあるため、振るだけでスウィング全体の質が上がる。ドライバーを100発打っても他のクラブは上手くなりませんが、ウェッジを100発打てばショット全体が良くなる。スピードをコントロールし、多様な距離を打ち分けるウェッジの練習こそが、アマチュアにとっても上達の最短距離だと改めて痛感しました」

では、横田が「このスウィングはオーガスタに合う」と感じた次世代のスターたちは誰なのか。まずは、今もっとも注目を浴びる一人、ラドビッグ・アバーグだ。

「フィールド内で一番の『縦振り』。テークバックで手が右ひざに当たるのではないかというほどボールの近くに立つ。ここまで縦に振れると、オーガスタ特有の複雑な傾斜への対応力が格段に上がります。自分とボールの距離が近い分、傾斜の誤差が少なくなる。身長が高くなければ真似できない部分もありますが、アマチュアの方もアプローチで『ボールに近づいて立つ』ことで方向性とコンタクトが劇的に改善するヒントが、彼のスウィングには詰まっています」

L・アバーグ「上から直接コンタクトできるため、障害物(芝や傾斜)の影響を最小限に抑えられる。アイアンでめくれるような高スピンの球が打てる彼は、硬いグリーンでも止めることができる」

続いて、横田が「個人的な推し」と語るのが、レフティのロバート・マッキンタイアだ。

「かつては『左利きは勝てない』と言われたオーガスタですが、今やレフティ有利の感さえあります。特に今年はアクシャイ・バティア、ブライアン・ハーマン、そしてマッキンタイアと過去最強のレフティ軍団と言ってもいい。さてマッキンタイアですが、とにかく打球の回転が素晴らしいですね。基本はフェードヒッターで、力が入っても体の回転が止まらないため、常に同じ球が出る安心感があります。このスウィングがあれば終盤までゲームがつながっていきそう。そんな芯の強さを感じるスウィングです」

R・マッキンタイア

「ドローヒッターの「体が止まって曲がりすぎる」というミスがない。振る姿、インパクトの強さ、飛び方……すべてに「こういう球を打つためにこの動きをする」という意志がある」

そして、しなやかなパワーを象徴するのがジェイク・ナップだ。

「筋骨隆々な体形からは想像できないほどリズムがしなやか。パワーがあるのに力まないのは、スウィングにおける究極の理想です。彼のスウィングを見ていると、クラブが非常に『重く』見える。これは重力と遠心力を完璧にコントロールしている証拠です」

J・ナップ「インパクトでパチンと叩かず、運ぶように打つ。クラブの重さでリズムを作るから球持ちが長く見える。アベレージが極めて高い。プレッシャーのなかでも崩れないリズムを持っている」

最後に、現代の異端児とも言えるクリス・ゴッタラップ。

「オープンスタンスから強いハンドファーストで大きなドローを打つ今どき珍しいタイプ。アイアンでも強烈に上から入れてスピンをかけるため、オーガスタのグリーンでも球を止められます」

C・ゴッタラップ

「グリーン周りのイマジネーションでは、まだ経験の差を感じた。その『引き出し』が増えてくれば、近い将来、間違いなく上位の常連になるはず」

マスターズ観戦を終え、横田英治の表情は晴れやかだった。

「テレビで見て、人から聞いて、頭の中に造り上げてきたオーガスタ。でも、本物のオーガスタは、その何倍も美しく、厳しい。そして選手たちのスウィングは自由でした」

「型」にとらわれず、ターゲットをとらえることだけに全神経を研ぎ澄ますマスターたち。彼らの全集中が今年もオーガスタにあった。

週刊ゴルフダイジェスト2026年4月28日号より