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【目澤秀憲の目からウロコ】里大輔編③「一流選手には極めて上質な“bad”をやってもらいます」

目澤秀憲コーチが、異業種からゴルフのヒントを得る連載「目澤秀憲の目からウロコ」。前回に続き、体の動きを徹底的に「言語化」して指導を行っている、パフォーマンス設計士の里大輔氏に話を聞いた。たとえ競技が違っても、うまくいく体の使い方には共通点が多いことがわかってきた。成長を止めずに、長くスポーツを楽しむのに必要なこととは?

TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroaki Arihara

里大輔 さと・だいすけ。個人・チームの「パフォーマンス」や、競技の「技術」を覆っている暗黙知を言語化し、勝利条件の設計を行う。現在、20競技のチームで活動を行っている
目澤秀憲 ゴルフ界の最先端を知り尽くすコーチ。現在は河本力、金子駆大、永峰咲希、阿部未悠などを教える

>>前回のお話はこちら

考えるべきは「球体」に
どう力を伝えるか

――ここまで体の動きについて伺ってきた中で、普通の人とアスリートでは何が違うのか、うっすらわかってきたような気がします。

目澤 どうしたら力を出せるかという「原理原則」みたいなことが、やっぱりわかっていないと一流にはなれないんだと改めて思いました。

里 ゴルフは道具を仲介するので少し難しいですが、ボールという球体にどう力を加えるかという原理原則は、サッカーでも野球でも変わらないんです。地面にあるサッカーボールを強く蹴ろうとしたら、軸足がどこにあるべきか、重心がどうなっているべきか、蹴り足をどの角度で当てるかということはおのずと決まってくるんですね。ちゃんとエネルギーを伝えようと思ったら、下から蹴り上げるような動きにはならないわけです。


目澤 ゴルフで「あおり打ち」とか「すくい打ち」という言葉が、悪い打ち方の代表例として使われるんですけど、これの何がよくないかというと、そのサッカーの話と同じで、ボールにしっかり圧力をかけるという原理原則のところから外れているからなんですね。ところが、やっている本人は、何がよくないのか気づいていないことが多い。

 それはやっぱり、センサーが働いていないからなんです。一流ほど小さい動きとか、ゆっくりな動きの中でもずっといいポジションに「居続けられる」んですね。ゴルフのスウィングでいうと、私みたいなアマチュアは、大きく動かすことでやっとある程度の形になるんですが、プロは小さく振っても重心をずっと管理し続けられる。ゆっくり振る場合もそうですね。アマチュアがゆっくり振ると、ただ緩んでしまうけれど、プロはその中でも出力を出すことができるわけです。

目澤 ゴルフ的な言葉に変換すると、それって「ヘッドがどこにあるか感じられる」ということなんだと思います。プロはスウィング中にヘッドが変なポジションに入ると、気持ち悪くて打てないんですがアマチュアは全然平気みたいな(笑)。

里 だから、一流選手には極めて上質な「バッド」(bad)をやらせるんです。それでセンサーが働くようにする。逆にアマチュアだったら、「グッド」(good)の動きをいろいろなパターンで入力してあげるほうがいいですね。

目澤 スウィング中にバッドに入ったとしても「戻ってこられる」というのが大事ですよね。

――加齢によって基礎運動能力である「アビリティ」が低下することに関しては、どう対処すればいいでしょうか?

 アビリティの低下とともに崩れるのは、実はタイミングなんですね。一流選手の場合はそれでもタイミング自体は合わせられるんですが、タイミングの作り出しが鈍くなるというか、助走距離が長くなるんですね。動き出すポイントが遠くなっちゃう。ところが遠くから動かすほうがパワーを必要とするので、アビリティが低下した状態だと難しいわけです。そこで動きが小さくなり始める。

目澤 なるほど、ベテランになるほどスウィングが小さくなるというのは、そういうことだったんですね。単純に可動域の問題だけじゃなかったんだ。

里 だから、小さい動きの中でどうやって初期エネルギーを出すかが大事で、単純に言うと、右に動きたかったら最初にちょっと左に体重をかけてその反動を使うとか、そういう予備動作がより大切になってくるんですね。

目澤 ゴルフでも「フォワードプレス」といって、最初に少し手元を左に動かすことで初期エネルギーを出すやり方があります。始動前に左足を軽く踏むという選手も多いです。何かすべてがつながっている感じがしますね。

あえて「バッド」をやるとセンサーが鍛えられる

一流選手には「極めて正確なバッド(bad)をやらせる」という里氏。「ゴルフでも、トップで一旦わざとバッドに入れて、それをグッドに戻して打つ練習はすごく効果があると思います。バッドからグッドのトランジション(切り替え)はできるだけ短く(1秒程度)。スウィング中にバッドに入っても、すぐに察知して戻ってこられるようにするのがこの練習の目的です」(里)

シンプルな動きにこそ大事なことがある
トップで静止し、わざと「バッド」から「グッド」に修正して打つ練習を体感した目澤コーチ。これにも新たな気づきがあった。「初期エネルギーの使い方、動き出しのタイミングの取り方、バッドを察知できるセンサーの重要さなどが、全部詰まっている練習でした。フィル・ミケルソンがアプローチの打ち方を説明している動画があって、すごくシンプルなことしか言ってないので普通の人にはもの足りなく感じる内容なんですけど、いろいろわかって見ると実はすごいことを言ってる、というのに近い驚きです。やはり一流は「原理原則」をよく理解してますね。

月刊ゴルフダイジェスト2026年1月号より