「この時間が終わってほしくない」KBCオーガスタ最年少出場の13歳、真夏の男子ツアー挑戦記
週刊ゴルフダイジェスト
育ち盛りど真ん中の少年がこの夏、数々のハードルを越え、大きな目標にチャレンジ。一人の子がグンと伸びる、飛躍の夏の様子を紹介!
PHOTO/Norimoto Asada、Hiroaki Arihara

プロゴルファーを目指す宮城県の中学1年生、広橋璃人くん(13)は、今夏、プロトーナメント「Sansan KBCオーガスタ ゴルフトーナメント」(以下KBC)出場を果たした。144人いる出場選手のうち、アマチュアはわずか6人。最年少が璃人くんで、これは50年以上の歴史がある同大会での最年少出場記録だ。
KBCでの璃人くんの目標は「2日間、アンダーで回って予選通過すること」そして「楽しみたい」だ。しかし、夏休みの時期であり、KBCの前にも大きな試合が控えている。7月20日は「青森プロアマチャリティーゴルフトーナメント」へ。プロに交じってのプレーで緊張感はマシマシ。それでも「66」でベストアマ獲得。帰りには新幹線で「弁当を2つ食べました」(璃人くん)。育ち盛りは、とにかく食べる!
7月22日は「宮城オープン」。地元での試合のうえ、宮里優作とのラウンドとあって緊張感と期待感はマックス。しかし、試合は2ホールを残して熱中症で棄権。実は後半スタート時から具合が悪かったが、我慢しながらプレーしていたという。アンダーで来ていたこともあり無念だったが、棄権を決断。父の貴寿さんが迎えに行くと、璃人くんは悔し泣きをしていたそう。
でも「無理せず自分で申し出たことは褒めました」と貴寿さん。貴寿さんは、璃人くんの父であり、ゴルフのライバルであり、KBCではバッグを担ぐ相棒で、璃人くんの世界一の理解者だ。璃人くんの具合が悪いことがわかると、宮里ら同組選手がマスター室への連絡などを迅速に行い、介抱してくれたという。周囲への感謝の気持ちを強くした璃人くんだ。
7月末にはKBCの舞台、芥屋GCに乗り込んで練習ラウンド。福岡の友人親子と共に回り、“本番”へのイメージを固めていく。福岡名物のもつ鍋も食べて元気チャージ。ご当地グルメにどんどん詳しくなっていく13歳だ。
8月に入り海外遠征で韓国へ。羽田空港から韓国の集合場所まで大人の付き添いなし。一人きりの機内では「この飛行機で間違っていないかな」と不安になったが、練習ラウンドなしのぶっつけ本番大会で中学生トップに。「日本ジュニアに向けて自信になりました」と璃人くん。そして、韓国では「うどんがおいしかった」とのこと……。
今年の日本ジュニアゴルフ選手権(男子12~14歳の部)の舞台は東京GC(埼玉県)。璃人くんが今夏、KBCと共に大きな目標に据えていた大会だ。大会のフォーマットが変更されるほどの猛暑だったが、璃人くんは初日(9H)、2日目(9H)とトップ。しかし、3日目(18H)に伸ばし切れず、結果は3位。しかし、これが璃人くんの刺激になった。「帰りの車では反省と次のレベルアップへの作戦会議で4時間半のドライブがあっという間でした」(貴寿さん)。
勝ったこと、負けたこと、棄権したこと、一人で飛行機に乗って外国に行ったこと……すべてを糧に、KBCの本番へ。
緊張した。でも、楽しい!
終わってほしくない
最高気温が35度超えの福岡に乗り込んだ璃人くん。父の貴寿さんはキャディとして同行。そのほか、祖父・公寿さん、伯父・岩隈久志さんら、仙台、東京、愛媛、福岡から集まった家族親族友人は約20人。猛暑のなか、13歳のチャレンジが始まった。
同組のプロは大島宝と小袋秀人。10番(パー4)からスタートすると「すごく緊張していました」とティーショットをバンカーに入れ、ボギースタートに。しかし、そこから粘りのゴルフでパーを積み上げていく。後半の6番で念願の初バーディ。「大きな拍手も来て、この大会で一番印象に残ったホールになりました」。
璃人くんのラウンドに同行した公寿さんは「璃人のゴルフで一番いいところはパット。さっと構えてさっと打てるんです」と評し、伯父の岩隈さんも「こんな大きな舞台に立っていながら堂々としていて、舞い上がらず、自分のプレースタイルを貫いている。大したものです」。すると、福岡のゴルフ仲間からは「あの強心臓ぶりは遺伝じゃない?」と感嘆の声。中学生として飛距離は圧倒的だが、実はアプローチ、パターが強みになっている。大応援団を引き連れてのプレーは「プレッシャーにならない?」と聞くと、「ならないです」とひょうひょうと答える璃人くん。初日は4オーバーでプレーを終えた。



初日の最終ホール。「もっとプレーしたいと思ったほどでした」

プロってすごい
何がって、全部すごい
2日目は7時20分のトップスタートだが、体感の暑さは昨日より上。とにかく湿度が高く、酷暑との戦いでもある。1番をパー発進すると前半で2つのバーディ奪取。しかし、璃人くんはバーディを取ってもボギーでも至って平静。大喜びしたり、悔しがったりがない。実はこれ「意識的にやってきたことなんです。最近になってようやく身に付いてきたように思います」と貴寿さん。公寿さん、岩隈さんが褒めていた、一定のリズムを保つこと、舞い上がらないことなども、璃人くんと貴寿さんが課題として取り組んできたことだったという。
粘っていた璃人くんだが、14番でこの大会初のダボ。さらに15、16番と連続ボギー。疲れた様子が見えたが、貴寿さんは「さあ、あと3ホール」「あと2ホール」と励まし続けた。最終18番では、ティーショットを右に曲げ斜面に。ロープ外で見守っていた公寿さんは「ちょっと疲れているね」と話しながら、いの一番に次打地点に向かい、璃人くんを待った。結局、最終ホールをパーで締め、璃人くんのKBCの挑戦が終わった。
「試合が始まる前は予選通過を目指そうと話していたんですが、途中でアマチュアトップになろうと目標を切り替えました。結果、その目標を達成できたこと、そしてプロツアーの予選で跳ね返されたことも璃人にとってはすごく良かったと思います」と貴寿さん。
そして、璃人くんは「最後は集中力が欠けてしまった」と反省の弁を語りながら「プロってやっぱりすごいです。どこがすごいって全部です。全ショット、パットもレベルが高いと思いました」と、どこかうれしそうに話す。もちろん疲れはしたが、初のプロトーナメント出場に「すごく楽しくて。この時間が終わってほしくないと思いました」と言うぐらい楽しむことができた。
ひとまず、13歳の真夏の大冒険は終わったが、璃人くんの夢は「プロゴルファーになって、マスターズで勝つこと」だ。ゴルフを本格的に始めたのは8歳。チャレンジはこれからが長い。




週刊ゴルフダイジェスト2025年9月30日号より


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