猛暑の今こそ復活すべき! 日本特有の“茶店”文化を改めて考えてみた
週刊ゴルフダイジェスト
セルフプレーが主流となり、今や“茶店”が営業していないコースも少なくない。しかし夏の暑さがこれだけ厳しくなった今こそ、茶店が重要な役割を果たすのでは? 今回は日本の茶店文化にスポットを当てる。
PHOTO/ Yasuo Masuda

日本のゴルフ場特有の文化
近年は有人の”茶店”が減り、自販機のみというケースが増えている。費用対効果の点で致し方ないとはいえ、無人の茶店を見ると、少し寂しさも感じてしまう。
まず、ゴルフ場コンサルタントの菊地英樹氏に“茶店文化”について聞いてみると……。
「ゴルフ場の茶店というのは日本独特の文化と思われます。欧米ではまず見かけないですし、韓国やタイなどには茶店のあるコースもありますが、それらは基本的に日本のスタイルを取り入れたようです」と言う。
欧米では「ビバレッジカーと呼ばれる、飲み物やスナックなどを積んだカートでスタッフがコース内を移動販売するケースが多いです。スタッフがお客さんに声がけして、コミュニケーションを取りながら『飲み物はいかがですか?』というふうに販売していきます。日本でいうと野球場のビールの売り子に近い感じでしょうか」。
日本で発展した理由については「経営視点が大きいと思います。欧米のスループレーと違い、日本はランチ休憩を取るスタイル。さらに茶店がハーフごとに1カ所、合計2カ所あるのが普通。レストランや茶店での売り上げも経営面で重視されていたんです」
しかし、バブル崩壊後、セルフプレーが主流になると茶店文化に変化が。
「進行管理も担っていたキャディが不在、お客さん自体たくさん入れていることもあり、客の判断による“茶店で一休み”が進行に影響するようになったんです。日本は後続組を先に行かせる文化がないうえ、電磁誘導式カートではなおさらです。全体的に詰まっているのに、1組休憩すると後ろが詰まって、キャディもいないし誘導式カートだから後続組をパスさせられない。茶店があっても寄りづらいのは当然です。そして、コロナ禍や最近の人手不足もあり、どんどん閉鎖され自販機に置き換わっているのが現状です」
一方で、今も大にぎわいしているコースの茶店もある。八王子CC(東京都)もそのひとつで、プレーヤーのほとんどが茶店を利用するという。大きな理由は飲み物(ペットボトル飲料は除く)が無料という点。ビールを含む9種類のドリンクが選べ、お代わりもできる。同CCはキャディ付きのプレーが多いこともあり、進行の調整もしやすく、茶店休憩を楽しみにしているプレーヤーは多い。
茶店での休憩は「お客さまのためなのはもちろんですが、キャディのためでもあります」と、キャディマスターの中村尊重さん。30度を超えるなかの激務であり、ハーフをぶっ通しの勤務は確かに厳しい。エアコンの入った涼しい茶店で5~10分休み、ワイワイゴルフトークを楽しみながらドリンクや菓子などでエネルギーをチャージするのが八王子CC流だ。しかも、茶店のスタッフは次に来る客のグラスを事前に用意し、いつも同じドリンクを選ぶメンバーには「カルピスでいいですか?」などと声がけしつつ、席に着く頃には注ぎ終わっているようなサービス。プレーヤーの声は総じて「この5分、10分で全然違うよ」だ。
八王子CCの休憩タイム



冷たいドリンクは、ビール、トマトジュース、アクエリアス、レモンスカッシュ、コカ・コーラ、ウーロン茶、アイスコーヒー、カルピス、リアルゴールドがある
茶店がエイドステーションの役割を担う
ゴルフ場コンサルタントの菊地英樹さんによると「かつては、ゴルフ場に外で買った飲み物や食べ物を持ち込むのはマナー違反でした。しかし、今ではすっかり状況は変わり、夏は特に自身で十分な量のドリンクを持参するのが当たり前のようになりました。レストランで氷をもらって水筒の中に入れたりするのもOKですからね」。これは茶店の場合も同様で、持参の水筒に氷を入れてもらっている客は少なくない。茶店の果たす役割も変わってきたと言えるだろう。前ページで紹介した八王子CCも以前は市販のドリンクの販売はしていなかったが、現在は茶店で無料のドリンクのほか、市販の凍らせたペットボトルドリンクも販売。それもこれもプレーヤーの安全を守るため、だ。
茶店には、AED(自動体外式除細動器)も設置されていて、スタッフは研修を受けているという。クラブハウスにはAEDがあるが、ハウスから離れたホールもあり、夏場でも冬場でも“万が一”のときのため、AEDとそれを使えるスタッフが茶店にもいるという安心感は大きい。AEDを使わないまでも、体調不良を訴えるプレーヤーがいれば、無理せず茶店で待機してもらい、茶店スタッフがハウスに連絡。即、カートで迎えにいくという流れがしっかりできているという。茶店がエネルギーチャージをするだけでなくときには救護所にもなる……いわゆるエイドステーションのような働きをしているのだ。
埼玉県の東松山CCでは、昨年から茶店での5分休憩を“決まり”とした。「お客様とキャディの健康を守るため、売店内で5分間の休憩を必ずお取りください」との掲示をし、前半後半2回、冷房の効いた茶店で5分間ずつ休む。テーブルの上に砂時計があり、砂が落ちる間は涼みながら冷たいドリンクを飲んだり、アイスを食べたりおしゃべりしたりしながら過ごす。その5分はプレー時間に組み込まれているので、プレーに支障が出るようなこともなく、好評を得ているという。
五輪開催コース、霞ヶ関CC(埼玉県)も“決まり”とまではしていないが、茶店休憩を推奨しており、実際ほとんどの客が利用している。そのほか、つつじヶ丘CC(栃木県)、紫塚GC(栃木県)のように冷房の効いた有人の茶店で休んでもらいながら、かき氷を無料サービスするようなコースも。近年の酷暑化で、どのコースもさまざまな対策を講じている。
一方、菊地氏は「『熱中症対策として茶店で休憩しながらラウンドしましょう』と言うのには少し違和感があります。熱中症対策だとしたら、暑い時間帯を避け、午前10時ぐらいにはホールアウトするような早朝スルー、もしくは日が陰ってからの薄暮スルーなどのほうが効果的かと思います」と話す。ただし、「茶店自体は、レストランでの食事同様、楽しみにしている人もいらっしゃいます。そこで大事なのは、レストランでの食事や茶店での休憩を楽しめるコースや、サクッと18ホール回れるコースなどといった選択肢があること。そのなかから自分に合ったスタイルのコースを客側が選べることだと思います」
日本のゴルフ場に根付いた茶店文化。バブル崩壊、コロナ禍を経てやや廃れ気味かと思いきや、「茶店大好き」「レストランとは違った楽しみがある」という“茶店愛”を持つゴルファーはたくさんいる。八王子CCでは「いい茶店のあるゴルフ場はいいゴルフ場だと思う」の声もあった。茶店のあるコースへ行ったら、ぜひ積極的に活用しよう。
私の”茶店”スタイル
●茶店の軽食がちょうどいい
「箱根湯の花ゴルフ場にはレストランがなく、8番ホールと9番ホールの間に茶店があってそこで軽食を食べるようになっています。メニューは温かい生姜そば850円、海老天そば1250円、冷たいざるそば850円、ホットドッグ650円、ビール550円など。休憩時間は20分程度なので、ササッと食べて9番ホールのティーイングエリアに向かう。慣れると『これくらいがちょうどいい』と思えます」(70代男性・神奈川県)
●体調不良時に休憩できた
「10年近く前ですが、千葉のとあるコースで真夏にラウンドしたときのこと。灼熱で、上司とプレーしていたこともあり精神的にも疲労しクタクタに。後半スタートしてからしばらくして頭がガンガン痛み出しました。幸い冷房の効いた茶店の近くまで来ていたので、ホールの残りはパスして茶店へ。店員さんが心配してくれて、冷たい飲み物を出してくれました。しばらく休むと頭痛も落ち着きましたが、多分熱中症に近い状態だったと思います。茶店のそばで良かった、茶店が開いていて良かったと思いました」(40代女性・東京都)
●名古屋名物のきしめんも食べられる
「名古屋ゴルフ倶楽部和合コースは基本スルーですが、前の組が混んでいるときに、アウトからインに向かう途中にある茶店で軽食が食べられます。メニューは手軽に提供できる麺類が主ですが、名古屋らしいメニューのきしめんもあり。食事はラウンド後にゆっくり取れるけれど、茶店休憩がガス欠対策になっています」(70代男性、東京都)
●キャディへの感謝を示せる
「今は亡き兄とラウンドしたとき。兄が茶店でキャディさんに冷たい飲み物をごちそうしたり、暑いからと塩飴を渡したりしていました。自分はずっとセルフプレーばかりだったので、そういう気遣いを知らず、ハッとしました。心付けを渡すのは大げさな感じがしてなかなかできないのですが、茶店で飲み物をごちそうするくらいなら自分にもできるなと感じた出来事でした」(60代男性・福岡県)
●夏の思い出、コースのところてん
「拝島にあった昭和の森ゴルフコースで食べた『ところてん』が懐かしい。ところてんなんか食べ応えもなく、何で食べるのかわからないと思っていましたが、暑い夏に、会社の先輩が茶店でところてんを注文したので、一緒に注文しました。すると、これがうまい。以降、昭和の森に行くと、必ず茶店でところてんを食べるのが楽しみになった。その昭和の森も一昨年でクローズした。文字通り、私の昭和が1つ消えました」(70代男性・東京都)
●オロナミンCとポカリをブレンド
「もう何十年も前ですが、男子プロゴルファーが茶店で休憩中にオロナミンCとポカリスエットを混ぜて飲んでいるという話を聞きました。自分も試してみたところ、清涼感があり、夏ラウンドで汗をびっしょりかいたときにぴったりのおいしさ。最近はサウナに行く人の間でこのブレンドが人気だと聞き『ゴルフ場で昔からやっていたよ』と、会話のネタになりました」(60代男性・大阪府)
週刊ゴルフダイジェスト7月22日号より


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