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市原市では6割がキャンセル料を導入 “ゴルフ場キャンセル界隈”の実態調査

天候の不安定な梅雨時期は、ラウンドの予約をキャンセルするケースも少なくない。悪天候などは致し方ない部分もあるが、中には悪質なキャンセルもあり、ゴルフ場側も対応に苦慮している。今回は、そんなゴルフ場の最新「キャンセル事情」を調査した。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Tsukasa Kobayashi、Getty Images

解説/菊地英樹さん
(ゴルフ場経営コンサルタント)

ゴルフ場コンサルティング会社である株式会社エナジー代表取締役。コンサルティング業務の傍ら執筆やコメンテーター業務も行う

「未曽有の危機」と呼ばれたコロナ禍では飲み会が減り、リモートワークなどオンラインでの活動が増えるなど、日常生活も一変したが、そんななか実はゴルフ場のキャンセル料も影響を受けていた。ゴルフ場経営コンサルタントの菊地英樹さんによれば、コロナ禍でゴルフ場利用者が増えたことが関係しているという。

「バブルの時代、ゴルフ場が活況だった頃は予約自体が取りづらく、またキャンセル料の概念もありました。ですが、バブル崩壊後、その人気も下火となり、そもそも予約が埋まりづらい状況に。キャンセル料を取らないゴルフ場が増え、それが当たり前になったのです。こうしたゴルフ場を取り巻く環境に変化が訪れたのがコロナ禍。屋外でのプレーで感染リスクが低く、安心安全なスポーツとして改めて認知されるようになったことで、ゴルフ人気が高まり、予約が取りづらくなりました。そうした経緯から、ゴルフ場によってはキャンセル料が復活してきたのです。ただ、一度ゴルフからキャンセル料という文化が途絶えてしまったので、運用には柔軟性を持たせなければ利用者とゴルフ場の間で、もめてしまう可能性もあります」(菊地さん)

日本で最もゴルフ場が多い“ゴルフ場銀座”こと千葉県市原市のプレー可能な30コースを調べてみると、大千葉CCは免責事項を細かく規定し、「柔軟な運用」を実施していた。昨年の6月に土日の予約精度向上を目的にキャンセル規定を導入したという同コース支配人の戸田康晴さんに詳細な免責事項を設定した理由について聞いてみた。


「キャンセルポリシーを導入するに当たって重視したのは、スタッフ一同が共通の認識を持って、お客様対応に当たれるかどうか。少しでも対応に違いが出て、“得するお客様”と“損するお客様”が出てしまうと問題になってしまうからです。ですが、こうして明文化することで、結果としてお客様のご理解を得られるようになり、効果てきめんでした」

千葉県市原市では6割がキャンセル料を導入

多くの予約枠を確保するコンペのキャンセルは最大で21日前など余裕を持った連絡を求めている。また、無断キャンセルはプレー代100%を徴収するところも。一方で、キャンセル規定未導入の場合でも、キャンセル時の早めの連絡の呼びかけや、複数回にわたる悪質なキャンセル者を出入り禁止の対象にする旨の注意書きをしているコースもある

※6月12日時点。市原市でプレー可能な30コースの予約・公式サイトを参照

大千葉CCのキャンセル規定

例)大千葉CCのキャンセル規定
●キャンセル料:1組8000円(メンバー・ビジター共通)
●メンバー専用組み合わせ枠は対象外
●土日祝・特日のみ発生
●請求先は予約代表者
●2組以下はプレー3日前から
●3組以上はプレー7日前から

<以下の場合はキャンセル料が発生しない>
●2カ月以内にプレー日を移動(新規予約)した場合
●悪天候、交通状況により通常プレーが行えない場合

<悪天候の定義>
●前日12時発表のウェザーニュース(大千葉ピンポイント)で
プレー当日7~15時に1㎜以上の降水量が2時間以上続く予報の場合
●台風、降雪、落雷、ゲリラ豪雨の場合

キャンセルのハードルが
低いことが問題

現在、ゴルフ場が最も頭を悩ませているのが、“仮押さえ”や“仮予約”からの直前でのキャンセルだ。この問題に対処するべく、昨年の10月から運営する全てのゴルフ場でキャンセルポリシーの導入を発表したPGMにその経緯と導入後の変化について聞いた。

「ゴルフ場の予約が取りづらくなってきているなか、仮予約や仮押さえが増え、さらにキャンセル料が実質請求されないため、直前キャンセルや来場されないケースが目立つようになりました。なかには1週間前まで満枠で予約の申し込みをお断りしていた週末が、好天にもかかわらず、2割が直前で消えてしまうゴルフ場もあったほど。こうなるとプレーしたいお客様のプレー機会の逸失に加え、その枠が埋まらなければ売り上げの損失になってしまいます。

昨今、それに追い打ちをかけるように最低賃金の上昇やベースアップによる人件費の増加、光熱費、食材、各種資材の値上げによる原価の高騰で、運営費用が大幅に上昇し、直前キャンセルによる損失、特に売り上げが大きい週末の損失を放置できない状況になってきたため、キャンセル規定の運用開始を決定しました。

実際に規定を導入してからは、悪天候時のキャンセル数に大きな変化はありませんが、好天日の直前キャンセルが過去2年と比べて半分ほどになり、またキャンセルするにしても早めに連絡をいただけるため、キャンセル待ちのお客様へのご案内もスムーズになりました。予約のペースは過去2年と比べて鈍化しましたが、キャンセル数が減少したことで結果、来場者数は前年、前々年から増えています」(PGM広報)

キャンセル料導入で、仮押さえなどのキャンセル抑止につながったというが、気になるのは、実際にキャンセルが出たときの料金の徴収方法だ。これについては、PGMも株式会社アコーディア・ゴルフも同じ「Payn」というシステムを導入しているという。このシステムは、自動的にキャンセル料請求のショートメールを送り、電子マネーやクレジットカードで支払ってもらうという仕組み。

「全てスマホ上で完結するということもあり、大半はお支払いいただいていますが、お支払いいただけないお客様へは継続的な督促を行っております」(PGM)

ゴルフ場を多数保有している大手2社がキャンセル料徴収に舵を切ったことにより、日本のゴルフ界にもその流れは加速していくのか。菊地さんによれば、キャンセル料徴収が以前のように当たり前になることはないという。

「キャンセル料を取り出すと予約の入りが遅くなったり、利用者に嫌厭されることもあるので、集客の観点からはリスクが伴います。一方、コロナ禍で増えた来場者数にも、すでにかげりが出ています。ですので、大手がキャンセル料を導入したからといって必ずしも、その流れが加速するわけではないでしょう。経営方針によって、今後もキャンセル料を取らないコースも存在していくことは確かです。また、大手2社が作ったこの流れの逆を取って、近い将来、キャンセル料を取らないことを売りにした『キャンセル料無料プラン』なるものが誕生する可能性もあるかもしれません」(菊地さん)

“ゴルフ場キャンセル界隈”に大きな動きがあるなかで、改めてゴルファーが心がけるべきことは何なのか。

「かつては電話で予約するのが当たり前でしたが、いまやネット予約が一般的。スマホで簡単に予約ができ、さらにはスマホで簡単にキャンセルもできる。しかもキャンセル料は不要という実情が続いていました。予約の利便性は確かに向上しましたが、それに伴い図らずもキャンセルの障壁が下がってしまった。ホテルにしても、飲食店にしてもキャンセル料が当たり前の業界がある一方で、ゴルフ場にはそれがないとなれば、利用者もキャンセルを軽く見てしまうのもわからなくはないです。ただし、そもそも直前にキャンセルするというのは申し訳ないものであることに変わりはありません。ゴルファー一人一人がそうした“当たり前”の意識を持ち、マナーを守っていくことが重要です」(菊地さん)

ゴルフ場とその利用者は信頼関係が不可欠だが、今一度その構築の必要に迫られているのかもしれない。

「“いいキャンセル”と“悪いキャンセル”があるんです」

「キャンセルについては、仮押さえの問題と天気の問題は区別して考える必要があるでしょう。ゴルフ場側も雨のなか無理やりプレーはさせられない一方で、前提としてスタート枠を売っているわけですから、仮押さえだけしておいて直前でキャンセルされると損害を被ります。ゴルファーとして一番やってはいけない行為です」

週刊ゴルフダイジェスト2025年7月1日号より