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大阪学院大高野球部監督・辻盛英一さん×早稲田大学ゴルフ部監督・斉野恵康さん<後編>“監督”業は会社の経営に通じるものがある

大阪学院大高野球部監督の辻盛英一さんと早稲田大学ゴルフ部監督の斉野恵康。高校野球と大学ゴルフで、強豪校に立ち向かい、結果を出している新進気鋭の監督2人による対談が実現。人材育成、目標達成法など、スポーツだけでなく仕事にも生きる2人の話に耳を傾けよう。

PHOTO/Masaaki Nishimoto

辻盛英一(右) つじもりえいいち。大阪学院大高野球部監督。76年奈良県出身。奈良高、大阪市立大(現大阪公立大)を卒業し三井住友銀行を経てアリコジャパン(現メットライフ生命保険)に入社。13年連続営業トップの成績を収める。現在は生命保険代理店「ライフメトリクス社」経営。指導者としては、母校の大阪市立大軟式野球部の監督を13年務め、24年ぶりリーグ優勝に導く。23年3月に大阪学院大高の監督に就任

斉野恵康(左) さいのよしやす。早稲田大学ゴルフ部監督。71年東京都出身。早稲田実業高、早稲田大学を卒業後、ゴルフ誌の編集者を経て、広告営業、新規事業の企画運営などに携わり大きな実績を上げる。現在はNPO法人日本トレーング指導者協会の事務局長を務める。3年前、母校のゴルフ部監督に就任。文武両道の精神で、現在日本アマチュアゴルフランキング1位の中野麟太朗始め、多くの有望選手たちを育てている

>>前編はこちら

斉野 ところでゴルフはいつ始められたのですか? 僕は、今も競技に出ていますし、今でも生徒に負けたくない気持ちがあります。

辻盛 僕は野球に生かせるんやないかと思ってゴルフを始めたんです。道具を使ってボールを強く叩く、遠くに飛ばすということに関して、ゴルフが圧倒的に解析が進んでいる。そのへんのおっちゃんが「シャローに入って」なんて言うでしょう。そんなん野球にはおらんですから。だからゴルフを教えてもらおうと堀江ゴルフアカデミーいう場所に行ったんです。初めにトラックマンで7番アイアンとドライバーを測ってもらった。そうしたら、「もう上手くなるのはやめましょう。ドラコンやったら日本一になれますから、そっちに振り切りましょう」と。僕としても野球との整合性も高いのでそちらにしようと。

斉野 飛ばしのコツは何ですか?

辻盛 肩甲骨の柔軟性やと思います。野球もそうです。あとは単純に質量も重要です。

斉野 いろんな要素があるんですよね。ヘッドスピードを上げるか効率を上げるか、など。でも野球の研究で飛距離と一番相関があるのは、結局「除脂肪体重」だったという論文がありました。

辻盛 その論文、僕も読みました。

斉野 要はほぼ筋肉量ということ。辻盛さんはスーツの下の肉体の感じで飛ぶ要素しかない(笑)。ですからゴルファーが筋肉をつけることは間違いではないんです。ただ飛距離と正確性、両立させるのが難しい。どちらを優先するかでも何をすべきかは変わってくる。正確性が持ち味の子を、それを残したまま飛距離をどう伸ばすか、逆に飛距離が持ち味の子を、飛距離をキープしたまま正確性を作っていく。このときスウィングを変えようとしたら壊れてしまいます。


「辻盛さんのインスタを見ましたけど、練習場のネット、超えるものだと思って振ってますよね」(斉野)

「はい、それが目標です。でも、飛ばすことに関してはゴルフのほうが圧倒的におもろい。距離も3倍くらい飛びますから。僕、スカイトラックで計測して平均300の後半から420ヤードくらいの数値が出るんですよ」(辻盛)

「最近飛距離が落ちたのでうらやましいです(笑)。でも、辻盛さん、スクワットで190キロを上げている。尋常じゃないです」(斉野)

辻盛 めちゃくちゃ飛ぶ子に正確性を目指したほうがいいよと言っても、本人は飛ばしたいのであまり聞かないような……野球もそうですけど、そういう子にはどんなアドバイスをしますか?

斉野 僕は最初のミーティングのときに「目的と手段」という話をするんです。多くの場合、手段を目的にしてしまう。たとえば勝つためにパーを取ることが目的ならば、その手段として最適なクラブ選択は何だろうねと。ドライバーで打つことが目的ではないよねと。「目的と手段」は口を酸っぱくして言っています。

辻盛 なかなか難しい。たとえばピッチャーだとやっぱりスピードガンが気になる。150キロで投げなくても140キロそこそこでいいコースに投げるほうが実際は打てない。それを「俺は150キロ出るんや」とど真ん中に投げてしまうんです。今の目的と手段の話です。打たせないことが目的であって、150キロ出すことが目的やないからって言うんですけど。

斉野 以前、プロ球団にいた知人に聞いたのですが、甲子園で準優勝したような投手がいて、速さは140キロくらいだけどバックスピン量が多くてホップするような球を投げて皆が打てなかったのに、有名コーチから、もっとスピードを上げさせるように言われ、そうした結果、打たれる投手になってしまったと。

辻盛 130キロ、2600回転で投げてるほうが打たれないんですけど、本人は150キロ、2400回転になって満足している可能性もある。前者ではプロに行けないというんもあります。ここをどう説明して理解してもらうんかが、一番の悩みかもしれない。実際に打たれたとき、くよくよするのは意味がないので、その原因を解明して次に打たれないようにしようとなる。でもそこで、150キロが真ん中に行ったから打たれたとなると、140キロでちゃんとコースに投げたほうがいい、ではなくて、150キロをコースに投げたほうがいいとなる。

斉野 それはそうですけど、簡単にはできないんですよね。とにかくドライバーを飛ばして必ずフェアウェイに行けばいいとなるけど。

辻盛 そうすることが自分の攻めのゴルフなので、と。

斉野 でも、林に行くんです。

辻盛 基本、本人に任せてはいますけど、目標がズレるとそのズレた目標に向かって全力で走ってくれますから、その修正はします。もちろん、コミュニケーションはしっかり取りますよね。

斉野 はい。でもその人を変えられるのは自分自身しかない。本人が自分で気づいて変わろうとしないと。もどかしいです。

辻盛 はい。才能があるほど、そこはけっこう壁になるのかもしれない。特異な才能で注目を浴びたいというほうにいってしまう気もする。特異な才能を持っていない子のほうが、どうしたら上手くなれるか、勝てるかということを考えてやる。ところで、ゴルフではチームビルディングは重要ですか。野球ではめちゃくちゃ大事です。

斉野 年に何回かは団体戦があるので、それに対しては必要です。今春の対抗戦で、他の監督さんにも一番チームワークがよかったと言っていただきました。

辻盛 団体戦があることで、個人の能力やメンタルマインドは成長していることもあるんですね。

斉野 あります。ゴルフって他人を見る目が大事で、敵も見るし、仲間も見る。一緒に回っているプレーヤーでも、「そのスウィングをしているということは、そのうちこういうミスをするかもしれない」などと考えられるようにもなる。その“見る目”が、自分のゴルフを成長させるんです。

選手を理解し
個々の課題を抽出する

辻盛 野球の場合、キツイ練習が多々あるんですけど、そのときにチームメイトがいるから頑張れることはかなりあります。バッティング練習も個人練習に見えますけど、後ろで待ってる子や守備の子がいろいろな声をかける。これは大事です。

斉野 トレーニングに関してはゴルフも一緒ですし、打球練習でも、動画を見せ合ったり、仲が良いことは大事だと思います。でも逆に孤独に耐えられない子は強くなれない。他の子がおしゃべりしていても、必要ならば一人で練習できるくらいの孤独は絶対必要です。

辻盛 野球選手に孤独に強い子はいませんけど、周りは関係ない、自分がやったら勝てると思っているような子は強いですね。それに個々のブラッシュアップは絶対必要。うちは冬場の練習は割と個人なんです。高校生はしんどいことを一人でやるとすぐにやめるので、そこはチームでやらせますけど、普通の練習は一人で黙々とやらせることのほうが多い。それぞれの課題を持ってウェイトトレーニング、ゴロ捕球、素振りなどをやる。皆で同じことをやるんは明らかに非効率でしょう。でも、今だに皆で同じ練習をする野球部は多い。

斉野 全員同じことをやったら、それが必要でない子は伸びない。きちんと個々の課題を抽出してそれぞれに必要なことをやると、全員に効果が出ます。

辻盛 練習量はどう考えますか?

斉野 初心者で動画を撮ったりYouTubeを見ながらああだこうだスウィング作りをする学生もいますけど、なるべく早く10万発打つように言っています。

辻盛 絶対にそうです。うちは動作解析の専門家も入れていますけど、1年生でめちゃくちゃきれいに振れるようになってもスウィングスピードが100キロ台やったら飛ばない。なんでもええからとりあえず振れよと言いますね。

斉野 最初に結論が欲しいと言う学生が多いこととも関係するかもしれません。

辻盛 ああ、正解を求めます。

斉野 これをやったらどうなってどういう正解にたどりつけるかを教えてくださいと。でもそれを伝えると、実際はやらない(笑)。聞いてできた気になるんですね。

辻盛 自分が今どのステージで、どのステージの練習が必要かを理解させることもめっちゃ大事。指導者としても、選手がどのステージにいるか理解してあげないと、無意味な練習を強要してしまいます。その子を潰してしまう可能性さえある。野球では昔、しばかれ、どつかれるから全員が一生懸命やっていました。これにも一定の効果はある。でも指導法としては間違っていると思います。

斉野 辻盛さんは、生徒さんを褒められるんですよね?

辻盛 そうですけど、それには基準があって、決まりごとを作ってそれをきっちりやることに対して褒めます。何でもかんでもやない。

斉野 その人がそのときに何が必要か。薬と一緒です。褒めるも叱るもそう。必要ではないときにその薬を与えると毒にもなる。個々に対して何が必要か的確にいかないといけない。データを使うこともそうです。必要なタイミングや方向性が合っているかを的確に確認するための手段です。

辻盛 うちは測定機器を導入していますけど、一番新しい、いい指導をしようとすると絶対必要。改善すべきところがわかります。

斉野 そのデータのときの自分の感覚がこんな感じだというのを身につけて、測定器がなくても自分の感覚でそれを発揮できるようになることが大事です。

辻盛 はい。マウンドに上がったり打席に立ってしまうと、自分のどこがズレているかは測定できない。自分のいいときの感覚を再現性を持ってできるように練習していくというのが大事ですね。

「僕自身も日本一を目指します」

自身のゴルフの目標は、何かで日本一になりたいという斉野氏。「80歳でグランドシニアで勝つのもいい。死ぬまで『日本一になる』と言いながら頑張っていきたいです」

「教えるのに自分も強くないと」

ゴルフの目標は「70歳で400ヤード飛ばしたい」という辻盛氏。ベストは99。ジムには週4回通う。「高校生に教えるのに自分も強くないといけないなと思っています」

スポーツもビジネスも
キャッチアップし続けること

斉野 辻盛さんは、超優秀な営業マンです。仕事と監督業については相乗効果はありますか? 私は今の立場なら、自分で論文を検索したり、学会誌も作っているので最新のトレーニングの理論や情報が入ってきて指導にも生きます。逆にスポーツ指導の現場感覚が仕事にも生きる。スポーツにおけるトレーニングは競技力を向上させるためのものなので、研究のためのトレーニングでは意味がないし、自分のフィルターを作ることにはなる。本業で働かないと食っていけないのもありますけれど(笑)。

辻盛 野球部の監督はもともとボランティアで始めました。僕の基本は仕事です。僕はもともとフルコミッションの営業マン。めちゃくちゃ孤独でマインドがすごく重要。スランプにもなりますし、上手くいかないとき、どう考えて自分のモチベーションを保つか。会社を経営するようになってからは、社員たちがしんどいとき、どうやって立ち直らせていくか、彼らの生活が安定するのかを考えてマネジメントしないといけない。これは野球部の監督と同じなんです。日本一を目指すことも、同じベクトルを向いて全員で走るという感覚は似ています。実際、野球部のミーティングでやることと会社の会議でやることは、ほぼ同じことを話しています。

斉野 それはすごく同感します。

辻盛 それに、斉野さんも一緒や思いますけど、僕は野球がむちゃくちゃ好きなんです。皆から大変ですねと言われますけど、大変やないです。「忙しい」の定義はよくわからないですけど、時間をたくさん使われてますねと言われたら、はいそうですと。よくゲームに例えますけど、小学生がゲームをやっていることに忙しいと感じないでしょう。それと一緒です。

斉野 ははは、そうですね。僕もゴルフが大好きで、自分で競技にも出ていますが、忙しいとは感じません。

辻盛 僕は、営業はね、今でも成績よいですよ(笑)。今でも好きですし。保険の営業ならまだ日本で3本指に入ると思います。営業理論もスポーツと一緒でどんどん新しくなってくる。昔の営業手法にこだわって“飴ちゃん”あげてる場合やない。企業の考え方も法律も変わっていくので。情報をいち早くキャッチしてそれを競技に生かしていくのと営業に生かしていくのとは同じです。一生キャッチアップしないと。斉野さん、うちの業界で働いてもきっと成功します。いかがですか。

斉野 ははは。

辻盛 スポーツで一線で活躍されている方は、同じやり方で仕事をすると皆成功するんです。それを別物だと考えた瞬間、やり方がわからなくなる。追いかけ方はまったく同じです。スウィング軌道がどうやと勉強する前に、とりあえず10万球打ってこいと。営業手法を勉強する前に、たくさんの人と会うことから始まる。なぜ自分が売れないかがわかってくる。そうして自分の営業手法が出てきて、1個1個の商品の単価を上げたいとなってくるんです。1つの世界で論理的に物事を考えて一流になっている人は、仕事をやっても絶対に成功します。

斉野 嫌々仕事をやっている人、やらされている人は、そこがつながらないかもしれません。

辻盛 なるほど、そういう人は、どつかれ、しばかれたらいけるかな(笑)。では最後にお互い目標でも話をして締めましょうか。

斉野 僕は、携わった子たちに、それぞれの幸せをつかんでもらうのが究極的な目標。その手段として、本気で日本一を皆で目指そうというなかで、創意工夫したり、チームワークを作る。プロになってもビジネスマンになっても、これが仕事にも人生にも生きるんです。それを早稲田ゴルフ部で体験して卒業してもらいたい。

辻盛 僕もほぼ一緒です。この先、日本一長く野球をやってもらえる選手を育てたい。甲子園はもちろん目標となるんですけど、それよりも、大学、社会人、プロ野球または草野球……とにかく野球を一生嫌いにならずにずっと続けてほしいんです。それに夢を持ち、やりたいことをずっと続けて、それで夢破れた子は、夢を諦めた子と比べて、次の夢や目標に向かって走るのも得意やと思うんです。一度やり切っているので、次のこともやり切れます。

斉野 今日は大変勉強になりました。今後ともお互いとチームの目標に向かって走り続けましょうね。

「夢破れた子は、次の夢に向かうのも得意や思います」(辻盛)

「野球というものを最後まで本気でやり切るなかで学んだことをそのまま社会人としてやってほしい」

「皆で目指すなかで創意工夫したり、チームワークを作る」(斉野)

「私もやはり学び続けなければ指導はできない。学生には、それぞれの幸せをつかんでほしいです」

週刊ゴルフダイジェスト2024年10月29日号より