【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.830「ゴルフIQというスキルはいくつになっても高められます」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
AIG全英女子オープンの衛星中継を4日間通して観戦しました。今回も長時間にわたって解説をされていましたが、日本人選手の活躍など岡本さんの印象に残ったシーンを教えてください。(匿名希望・36歳・HC26)
今回の生中継の解説では、AIG全英女子オープンならではのしんどさがありました。
スタンバイするのが午後8時。放送終了は翌明け方のほぼ3時。多少の休憩時間はありますが、長時間の解説になりますからね。
で、今回はスコットランドにあるゴルフの聖地セントアンドリュースのオールドコースでした。
風は4日間を通じて吹き、高所に設置されたカメラが上下左右に揺れ動くのは、画面から視聴者の方にも伝わったのでは?
優勝の行方も最後までもつれるスリリングな展開になりました。
最終日をトップでスタートした申ジエ選手と1打差で追うリディア・コー選手が伸び悩むなか、バックナインに入ったネリー・コルダ選手が8アンダーにまでスコアを伸ばし、逃げ切るかに見えました。
ところが、コルダ選手が14番パー5でまさかのダブルボギーを打ち大混戦になり、最後に笑ったのは、リディア・コー選手でした。
勝負を分けたのは、やはりセントアンドリュースの風でしょうか。
優勝したリディア・コー選手をはじめ、3位タイに並んだ申ジエ、イン・ルオニン、コルダなど上位の選手はほぼメジャータイトル保持者。
力のある者しか、この競り合いには参加できなかったことが分かります。
リディア・コー選手が奪ったバーディは4日間で13個と決して多くはありません。
ですが、ボギーはわずか6個しかなく、今大会は風を味方につけた者が勝った試合とも言えます。
戦いのカギは飛距離ではなく、戦略とショットの精度──リディア・コー選手の頭にあったのは、そういうことだったと思います。
たとえば、ティーショットを180ヤード地点に刻んだ後、セカンドで220ヤード先のピンを狙うといったルートだってあり得ます。
彼女のプレーからは、そんな独創的で明確なビジョンがはっきりと見えるようでしたが、大多数の選手は、ドライバーの代わりに3番ウッドを手にするくらいで、彼女ほど大胆な発想は持ち合わせてはいなかったと思います。
ただ、戦略があっても実行できなければ意味がありません。
リディア・コー選手には、それを可能にする技術が身に備わっていたということです。
ほんとうの強さというのはやはり技術とゴルフIQが必要だと思います。
ちなみに、飛距離は年齢を重ねるにつれ落ちてはきますが、ゴルフIQは年齢を重ねてもいつまでも高められるスキルだと思っています。
一方、日本から挑戦した総勢19人の中で予選を通過できたのは9人。
フィールド全体から見ればまずまずがんばったと言っていいと思います。
岩井明愛、西郷真央の両選手が通算2アンダーで7位タイに入ったのも心強く思いました。
また、4日間の戦いを終えた直後のインタビューで岩井明愛選手が「ぜいたくを言えばもったいないところがあった。できれば、あの優勝争いに加わってみたかったです」と話しているのが聞けたことも良かったです。
彼女が今、自分の立っている場所と実力を自覚したうえで、これからを見据えていることがうかがえたからです。
今年の大会では、ほぼ半数の日本人選手が最終日までプレーできたわけですが、3年後にはエントリーした5分の3が予選通過するかも、そんな気もしました。
最終日の大ギャラリーや華やかなセレモニーを見ていると、ここセントアンドリュースで初めて全英女子オープンが開催された当時を思い出してしまいました。
2007年8月──わたしは聖地でテレビのラウンドレポーターを務めていました。
ロレーナ・オチョア選手(2010年に引退。ツアー通算27勝)がメジャー初優勝を果たした大会でした。
この聖地で全英女子オープンが開催されるのは、次回はいつになるかしらね。
「常に磨いていたら、いつまでも錆びません、技術というものは」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2024年9月24日号より