松坂大輔 vs 上重聡「終わらない夏」<後編>野球もゴルフも「近づいたかなと思うと、大輔がもっと上に行く」
高校時代、野球のライバルとして名勝負を繰り広げた松坂大輔と上重聡。時が経ち、競技ゴルフに挑む2人の姿に迫る。
PHOTO/Hiroyuki Okazawa THANKS/大阪オープン
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- PL学園出身の上重聡と横浜高校出身の松坂大輔。甲子園でのあの激闘からもう26年。しかし2人の夏は「まだまだ終わっていません」と上重。野球からゴルフへと舞台を変えて、現在は競技ゴルファーとしてライバルであり続ける2人の姿を大阪に追った。 PHOTO/Hiroyuki Okazawa THANKS/大阪オープン 夏の甲子園がまだ始ま……
「大輔と回っていると
よく奇跡に出くわします」
そもそも上重がゴルフを始めたのも松坂の影響だった。立教大学に進んだ上重に「ゴルフを始めたら?」と松坂が声を掛けた。「クラブは全部大輔のお下がりでした」とのことだが、松坂スペックで普通にプレーできる上重もすごい。その後、上重はテレビ局のアナウンサーに。すると、ゴルフ経験が仕事に役立った。
「もともと人見知りでした」という上重だが、プロ野球関係者とのコンペの際「誰かゴルフのできる人はいないか?」となると積極的に参加した。
「ゴルフのおかげで巨人軍の原辰徳監督に名前を覚えてもらえたり、コミュニケーションの取り方など、ゴルフで学んだことが社会人として本当に役立ったんです」。新人アナウンサーも巨人軍の監督も同じフィールドに立てるのがゴルフのいいところだ。
今年の8月16日には岩手県オープン(きたかみCC)で、また2人が同じフェアウェイに立った。2人とも難しいセッティングに苦労し、松坂が42・49の91、上重は45・51で96。またしても軍配は松坂に。ただし、5打差。大阪オープンのときから差がぐっと縮まった形で「この日は大輔もよっぽど悔しかったのでしょう、すぐに引き上げていきました」と上重。
岩手県オープンの日は、台風が接近しており天候不順が予想されていたが、試合中はほぼ雨が降らなかった。「終わった途端にザーッと降り出しましたが、大輔と一緒だとこういうことがよくあるんです」。ありふれた表現で言えば“持っている”だ。
「大輔や私たちは、『(昭和)55年会』として、野球教室などのイベントを行うのですが、あるとき55年会のコンペで大輔がホールインワンを出しました。同組の人に聞いたのですが大輔の球はグリーンをかなりオーバーしたそうです。でもその後、カツンと音がしたと。ボールが奥の木に当たって、それがスルスルスルと戻ってきて、本当に吸い込まれるようにカップに入ったそうです。すごいでしょう、これ“大輔あるある”なんです。そういうヤツなんです」。
松坂大輔のゴルフといえば、誰もが「飛ぶよ」と口を揃えるが、「小技もうまいのが大輔です」と上重。投手ならではの繊細な右手の感覚が特にアプローチやパットで生きているという
「松坂大輔は、いつもみんなの
一歩先にいるんです」
55年会で今でも現役でプレーしているのはソフトバンクの和田毅だけになった。松坂はもちろん、55年会のメンバー皆が和田を見守っているという。55年会は松坂、上重、和田のほか、杉内俊哉、村田修一、藤川球児、館山昌平、新垣渚らそうそうたるメンツだ。
彼らがいつしか“松坂世代”と呼ばれるようになると、負けん気の強い野球選手たちは「嫌だ」と言うこともあった。だが、今はもう言わない。同級生のなかでいつも先頭を走る松坂に引っ張られるような形で、のびのびと実力を発揮してきたのが松坂世代の面々。先頭を走れば風当たりが強いのはわかっている。松坂が風を防いでくれている間に自分の力を蓄えた選手は少なくない。しかも、それをみんな承知している。
ゴルフでも松坂は仲間の先頭だ。上重に5打差まで迫ってこられた松坂は涼しい顔をして猛練習しているだろう。「いつもそうです。近づいたかなと思うと、大輔がもっと上に行く」と上重。野球もゴルフも松坂に引っ張られて、みんなで上へ上へと上った。松坂世代の強さの秘密はズバリこの構造だ。
松坂大輔は、いつもみんなの前を進む素晴らしき“理想のライバル”。もちろん、並大抵の努力では松坂のライバルにはなれないが……。
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今夏は、仕事とゴルフ競技への初挑戦で特に忙しかったであろう上重。夏の甲子園を見る時間はあっただろうか? 「はい、けっこうしっかり見ていましたよ」。話題をさらった大社高校の快進撃。早稲田実業との3回戦は驚くようなプレーの応酬で、延長に入るとタイブレークならではの戦略でもあるバントやその対策のバントシフトなどで、見る者を魅了した。勝って93年ぶりの8強進出を決めた大社はもちろん素晴らしかったが、負けた後に相手に「次も頑張って」と声掛けする早実のグッドルーザーぶりも目を引いた。
「彼らは多分、やり尽くしたからじゃないでしょうか。猛練習の成果を思う存分発揮できると『悔しい』感情はほとんどなくなって、素直に相手を称えられるものです。横浜戦で敗れたPLがそうでした。すがすがしい気持ちでした」と、高校生の頃のインタビューと同じようなことを上重は言うのだ。
ただし、ゴルフではまだまだちっとも「やり尽くしていない」から、上重はまた練習する。松坂は上重が見ていても見ていなくても練習する。そして2人とも上手くなる、上昇気流に乗る。上重と松坂のライバル物語は26年前に始まって、まだまだ終わらない。
当時の2人に教えてあげたい幸せな未来だ。
二人の笑顔は26年前のまんま。「示し合わせもしていないのに服装が似てしまって……」と松坂
週刊ゴルフダイジェスト2024年9月24日号より