【ゴルフせんとや生まれけむ】江上剛<前編>「仕事絡みではないゴルフってこんなに楽しいんだ!」
ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、 作家の江上剛氏。
大学を卒業して銀行に入ったら、上司から「仕事に役立つから」と言われ、当たり前のようにゴルフを始めました。確かに人脈作りにゴルフが役に立つのは間違いないと思っていましたし、支店長になった頃は「会員権の1つも持っていないとお客さんや部下を連れて行けないぞ」と言われて茨城県のゴルフ場の会員権を買ったこともありました。でも、その頃のゴルフは仕事の一部だと思っていたこともあって、ちっとも面白くなかったなあ。
去年の暮れに「小説 ゴルフ人間図鑑」という本を出したんですよ。さまざまな人間のゴルフから見えてくる“人となり”を8つの物語として描きました。実はその物語は、僕がゴルフ場で実際に見たり聞いたりしたことがベースになっています。特に銀行の広報部に移ってからは、いろいろなしがらみのあるゴルフにも参加しないといけませんでしたし、当時は総会屋とかいわゆる反社会みたいな人ともプレーしないといけないことも。それが嫌で部下に代わりに行ってもらったこともありましたね(笑)。当然“ゴルフ熱”もなく、完全なお付き合いゴルフでした。
その後、銀行を辞めて作家業に専念するようになってからは、ゴルフではなくマラソンに夢中になって、何度か挑戦した東京マラソンの自己ベストは、3時間45分です。普通なら、このままゴルフとはさほど縁のない人生を送っていくことになったんでしょうけど、そうはいかなかったんです。理由はコロナです。各地のマラソン大会が軒並み中止になったり、会食や講演もなくなったりで、やることがなくなっちゃった。ヒマでヒマでどうしようかなあと思っていたらゴルフ好きの女房が「銀行の頃あんなにやっていたんだから、もう一度ゴルフをやったら?」と言うんですよ。「ゴルフか。ほかにやることもないし、まあいいか」。そんな感じで久しぶりにコースに行くようになったら、今回は見事にハマりました。今まで僕がやってきた仕事絡みではない、人と触れ合うゴルフの楽しさをこの歳になってやっと知ったんですよ。ホールアウト後に、その日のプレーを肴に仲間と酒を飲むのはホントにいいですよね。
今までは自己流で適当にやっていましたが、やればやるほどゴルフの難しさを感じるようになりました。止まっているボールにエネルギーを与えるのがどうしてこんなにも難しいのか。これって銀行員時代の人事でいえば仕事をやる気のない人に、いかにやる気を出させるかというようなものでしょう(笑)? 叱ってもダメ、おだててもダメ。ゴルフはそれと同じですよ。
今はうまくなりたい一心で、女房が以前から習っているレッスンプロのパーカー優子さんに僕も教わっています。今、優子さんから一番言われていることは「左ひじを引いちゃう癖がある。それを直しなさい」ということ。学生時代、先生の教えなんて頭に入れたことがなかったのに、優子さんに習ったことはラウンド中に頭の中にパーッと出てくる。それには自分でも驚いているんですよ。
江上剛
えがみ・ごう。作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。本部企画を経て、人事、広報、都内での支店長業務も。在社中に「非情銀行」で小説家としてデビュー。2003年退行後は「失格社員」「庶務行員 多加賀主水が許さない」「怪物商人」など数多くの作品を発表。近著は「小説ゴルフ人間図鑑」。ベストスコア86
週刊ゴルフダイジェスト2024年4月9日号より