【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.168「歳をとったらバーンと振れ」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Yasuo Masuda
年齢がいくと、瞬発力なんかが衰えていくわけですから、以前できていたことができなくなってきます。
頭のなかではウェッジで120ヤード飛んでいたのが、実際には110ヤードになるんですから、頭は混乱します。それでも120ヤード飛ばなあかんと思うから、当然、ギャップが出てくるわけです。この頭のなかと現実とのギャップをどう埋めていくかが、歳がいったもんの悩みというか課題になります。
そういうことでいうと、海老原清治さんはすごい。エビさんは今74歳ですが、僕から見たら50歳の頃の身体能力を維持しとるように思えるような振りをします。
もちろん、スピードは落ちてはいるんでしょうけれど、同じ年代の人のような落ち方ではない。体はまったく鍛えていないらしいですし、練習場でバンバン球を打っている様子もないんですが、それでもラウンドではバーンと振ります。
振りのスピードを維持するためにやっていることでいったら、ラウンドでクラブをバーンと振ることだけ、それをやり続けているんでしょう。それくらいしか思いつきません。一度、体のなかに入ってみたいなと思う一人です。
エビさんを見ていると、新しいものを研究して取り入れることよりも、自分のなかでしっかりと身に付いたものを繰り返しやることの大事さを感じます。
前にも言ったことですが、ある試合で一緒に回って、同じ場所からアプローチをしたときに、海老原さんはザックリで、僕はチップイン。ラウンドが終わってから、「あれどうやって打ったの?」と聞かれたので、「ヘッドの重みだけで落としたんですよ。エビさんも得意でしたよね」と言うたら、次の日の朝に練習してはりました。終わってから「昨日はありがとうな、よかったよ」と言ってくれました。
エビさんを見ていて、年がいってから新しいものを探すことも大事やけど、まずは自分のなかにある、忘れている感覚というもんを掘り起こすことが大事なんかなと思います。
エビさんが筋トレもせんと20年前と同じ“振り”ができるんは、力やのうて、感覚が鋭いからやと思います。
「皆さんも、ブンと振る感覚を身に付けなはれ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2024年3月12日号より