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【インタビュー】金谷拓実<後編>「今年のテーマは“ワクワク”です!」

2021~22年は思うような成績が挙げられず苦しんだ金谷拓実だが、23年はアジアンツアー1勝、国内ツアー2勝と気を吐いた。今年はどんな進化を遂げるのか。金谷の内面に迫っていく。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Shinji Osawa

金谷拓実 1998年広島県出身。15年の日本アマで最年少優勝。18年にアジアパシフィックアマを制し19年、マスターズで予選突破、秋には日本ツアーでアマ優勝を果たす。20年10月プロ宣言、3戦目のダンロップフェニックスで初優勝。日本ツアー通算4勝。好きな食べ物は「母親の作った唐揚げ。嫌いな食べ物はないです」

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24年のテーマは
ワクワクです!

金谷は今年26歳になる。

「もう若手って言えない。自覚はあります。でも、どこを見ているかは大事。同じ場所にいれば行動や言葉でわかるし、啓太とかはやっぱりすごい。若手には本当に上手な選手が多いから、皆で上を見てやっていけば相乗効果が生まれるはず。PGAには松山(英樹)さんがいて、今年は(久常)涼がいるけど、僕もそこでプレーしたい、というのはやっぱり大事なんじゃないでしょうか」

同じ場所を目指す2つ下のよきライバルに、賞金王を獲得した中島啓太がいる。その関係を常にメディアが話題にしてきた。

「一緒に回ると、こういう球を打って来るよなあとか、勝負がすごく楽しい。他の選手とも面白いときはあるけれど、啓太とが一番。でも別にキャッキャする必要もないですよね。僕たちが試合のとき一言も話をしないことが大きく取り上げられ、本当に公で話せなくなった(笑)。実は、トイレではよく会うのでそこではすごくしゃべるんですよ。たまにLINEのやり取りもしますし」

スタッツの平均ストロークに関して、予選と3日目は金谷が1位で中島は2位だが、最終日だけ、金谷が4位で中島が1位だと指摘すると、「へえ、啓太、すごいですね。最終日最終組で回っている人のほうがどうしても難しいから、それも関係するのかなと思ったけど、啓太が1位なら違いますね」と素直にライバルを称えるのだ。

金谷から見た後輩“三羽烏”は中島啓太、蝉川泰果、平田憲聖。「啓太は、何でもそつなくプレーできる。苦手や得意な部分もよく知っていましたけど、昨年一緒によく回って、その苦手な部分が会うたびに減っています。蟬川は、アグレッシブなプレーができる。パッと気持ちが入ったら恐れることが何もなくなって、いいプレーをし続けられる。集中に入るのが上手なんでしょう。憲聖のイメージは、真っすぐ打って、パターがすごく安定しているから、そこから組み立てていく。自分のプレースタイルをよくわかっているからムリをしない」

金谷は試合中、基本的に一人で行動するという。

「僕のルーティン、聞いてもつまらないですよ。夜長くご飯を食べるのが好きではない。早く帰って早く休みたいんです。あまり人と一緒にいるのも好きではない。一人の時間が必要だから。動画も見たり、本も読みますしね。部屋で練習はしません。クラブを拭いたり準備するだけ。だから食事もファミレスやチェーン店が多くなる。選手と食べるとしても月火のどちらか。朝はクラブハウスか牛丼チェーンなどで済ませます」


練習は1時間30分前から始めるので、朝食を取るなら2時間前に。基本自分で運転してコース入りする。
こういう金谷を見て、もっと気楽にしたらいいのに、と思うだろうか。しかし金谷にとっては、目標達成のための当然の準備であり行動なのだ。その真面目さは、ゲン担ぎにも表れる。

「調子がいいときはびっくりドンキーかビッグボーイで毎日同じものを食べますね。オマーンの優勝のときもサブウェイのステーキチーズサンドを毎日食べて。毎朝起きたら、必ずキングヌーの『飛行艇』を流します。僕って面倒くさいでしょ。でもたまにさぼるとやっぱり調子が悪くなる気がして……」と苦笑い。

そんな金谷に、少しだけ変化があるようだ。

「今年のテーマは“ワクワク”なんですよ。今まではゴルフばかりやっていたし、それももちろん大事ですけど、気持ちも体を動かす一つ。涼とか川村(昌弘)さんとか、ヨーロッパを楽しみながらプレーできている選手って、やっぱりその環境に適応できる。星野(陸也)さんも、インスタを見ていると、いろんな観光地に行っていたり。実は、(ガレス・)ジョーンズさん(JGAナショナルチームヘッドコーチ)に、全英で、『リバプールだからビートルズ関係に行こう!』と言われたのに、雨だし寒いし行かないと言ってしまった……エンジョイもワクワクの一つですから」

2024年、金谷の舞台は欧州が中心となる。スケジュール次第ではアジアンツアーも、もちろん日本ツアーにも出場する予定だ。

「涼なんて、本当に楽しそうにプレーするでしょう。上手いのはもちろんですけど、そういう気持ちが大事。一昨年、わざわざQTを受けて通過し、ケニアや南アフリカなど試合はどこにでも行って、恐れずにやっている。こういう選手を見ると、感動するし、頑張れと応援したくなります。欧州の新人賞ってすごいですよ」 

ストイックな先輩たちを見て、自分もそうすべきだと思っていたという金谷。しかし、ストイックさは強いアスリートの軸であり、金谷のそれはきっと変わらない。

「ガレスコーチには、一人で突き詰めるのではなく、ジムなどに積極的に行って、いろいろな人と交流しなさいとも言われました」

金谷はこのオフ、いろいろな人と会うようにもした。

「以前はコロナもありましたし、わざわざ食事にまで……とも思っていましたが、いろいろな人の話を聞くとやっぱり面白い」

ジョーンズ氏は、金谷の“前のめり”が過ぎて転んでしまうのを防ぐため、真っすぐ立てるように、バランスを取ってほしいのかもしれない。それでも、金谷は前に進むことはやめないのだから。

ここで、毎年恒例の質問を。「今年は何の本を読みましたか?」

「最近は、“一流の雑談力”が身に付く本を買いました。夏にコミュニケーションをせずに自分の我慢が限界になったことがあったので。そういうのも大事だなって。小さな目標を考える本も好きです。大きな目標のために、細かく目標を考える。それをつなげて、つなげていくことが大事だと。また、目標の立て方として、僕が学生のときにワールドカップで優勝し“フィーバーした”なでしこジャパンを例に、優勝という目標があって、反対には東日本大震災の被災地を勇気づけたいという目標もあったと。もう一つ、渋沢栄一さんの『算盤と論語』。難しそうですけど、現代語版もあるようだし、栗山英樹(元野球日本代表チーム)監督が、その話をもとに大谷翔平などの育成を考えたと。面白そうでしょう」

選ぶ本も少しずつ変化を見せる。それは進化へとつながっていく。

年末の3ツアーズも楽しんだ。「ティーマークが同じホールで、僕がまあまあのドライバーショットを打った後、シニアの塚田(好宜)さんが僕のボールをキャリーで越えて。最後の櫻井心那ちゃんは僕とあまり変わらなくて。めっちゃ恥ずかしかった(笑)。申ジエさんのパッティングはすごいと思ったし、岩井ツインズにも半ば無理やり直ドラしてもらった。やさしいなあ(笑)」

金谷は昨年、JGTOのスナッグゴルフの仕事で、宮城の女川に行った。

「今まで機会がなくて、(東日本大震災の被災地に)初めて行きました。いろいろ感じるものがあって、今さらですが、これから毎年行きたいなって思っています。戦時中の特攻隊の資料がある鹿児島の知覧にも行ってみたいんです」。

元来、金谷はよく笑うし、冗談も言う。ゴルフと関係ない隙間時間がきっと、余裕を生み、自信となり、金谷のゴルフを進化させる。

「今年の目標は、ヨーロッパで優勝することがまず一つ。それが次の試合に出ることにつながるし、もちろんそのあと、アメリカにつながりますから」

パリオリンピックの年でもある。

「東京のときはあと一歩で選ばれなかったから、やっぱり悔しかったし。今年はまだ半年チャンスがある。ヨーロッパはポイントの比重も高いから、そこで優勝することで五輪にも近づきます。選ばれるように頑張りたいです」

「ヨーロッパで、優勝します!」

切り返しからダウンで、左ひざが“逃げる”クセを直すため、ずっと取り組んできた。「水平に体が動かないようにすれば、上から物が落ちたほうがスピードが速いのと同様、フェースローテーションは抑えられるし、芯を食うし、曲がりづらくなるから。徐々によくなっています」

昨年は、男子ツアーを応援してくれるギャラリーが増えた。そのパワーを選手たちもひしひしと感じたという。

「めっちゃ嬉しいです。少しずつ熱も戻っているんじゃないかなって。応援で自分たちのパフォーマンスが上がるというのを、選手も皆、わかったと思います」

金谷はギャラリーの声も姿もしっかり認識しているという。

「最近は、僕と同じ『yogibo』のキャップをかぶって応援に来てくれる方が増えました(笑)。今年は姿を見せられる機会は減るかもしれませんが、皆さんの声援、しっかり感じています!」

欧州の地でワクワクしながらプレーする金谷を応援していきたい。

週刊ゴルフダイジェスト2024年1月23日号より