【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.132「“見て盗め”は理に適っているんです」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Yoshikazu Watabe
どうすれば飛ぶようになりますかと聞いてくるアマチュアの人がいてはりますが、そんなんこっちが知りたいわと言いたいです(笑)。でもまあそうも言うてられんから、「普段からラウンドでも練習でも飛ぶやつと一緒に回っていたら飛ぶようになってきますよ」と言うておきます。
冗談ではなく、僕らプロでも練習ラウンドで一緒に回るやつがバチバチ飛ばしていると、それにつられてこっちも振るようになってきて、そうすると実際に飛ぶようになってきます。
逆に、自分の周りがテクニックでゴルフをするやつばかりなら、マン振りしてバチーンと打って曲がり倒していると阿呆みたいに見えるから、次第に抑えて打つようになり振れなくなってくるということもよくあります。
これは脳の「同期」いうのが起こっているらしくて、最終組の3人がスコアを伸ばし合うのもそれです。そういうのはどうしたらできるかなんて言葉では伝わらんもんです。
たとえば、赤ん坊は生まれてから数年かけて、母親のやることを見て、それを真似しながらいろんなことを身につけて育っていきます。ゴルフの場合も同じで、この人すごいなぁ思ったら、そのスウィングなりプレーをジッと見入るやないですか。そうやって見た映像が目から入って、情報として脳に届くわけです。
なんでも脳にはミラーニューロンいう神経細胞があって、見たものを鏡に映し出すようにして再現し、それを真似ることで人はいろんなものを身につけておるらしいです。
昔は技術は見て盗めと言ったもんですが、まさに道理です。それも映像とかではなく生で見なあかん。生で見て「ウワァ~」いう感情が入ることが大事で、その人のショットなりアプローチを見て感動すれば気持ちがそっちに向くので技術も吸収しやすくなるいうことです。
言葉いうもんは、頭のなかを整理するには有効なもんですが、ことゴルフの技術に関しては、習得を難しくさせてることが多いとさえ僕なんかは思います。
実際、アドレスしてさあ打とう言うときに言葉なんか出てきません。出てくるのは、あの感じで打ったろうという脳に浮かぶイメージです。
「たとえば……70を超えてもバチーンと振るエビさん(海老原清治)の振りを見ておると、なんや飛ぶようになるもんです」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2023年6月13日号より