【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.766「上手くなったのは自分ひとりの努力だけではないことを忘れないでください」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
私の知り合いに、技術やメンタルの面について、そこまで細かく考えないといけないのかと思わせるプロがいます。ですが、ツアーでの成績はそれほどでもありません。もしかしたら彼は考えすぎなのでしょうか。(匿名希望・39歳)
いまやスマホなしでは生活が成り立たないような現代社会。
誰もがネットを通じて発信することができる時代です。
アスリートが意見や近況報告をSNSにアップして話題を集めることも珍しくなくファンとの間の距離はどんどん近づいてきたと感じます。
SNSでゴルフについて語るプロもいると聞きます。
スウィングメカニズムを解説したり、クラブやシャフト、ボールといったギアに関して科学的見地から詳細に説明したり、ホールの地形や風、芝のライといった自然状況に応じたコースマネジメントについて語るなど、細部にこだわる研究家か何かのように思えるほどなのだそうです。
こうなると、わたしは少し違和感を覚えます。
プロアスリートは言葉でなく、カタチを見せられ、それをお手本にひたすら練習して育ってきたと思います。
こんな球を打ちたいと思えば、体を使ってああでもない、こうでもないと工夫を重ねて、スウィングの動きを手作りしてきた。
そのメカニズムの合理性は、課題をなんとか打ち破り、後に付けられるものだったように思います。
わたしの長い選手経験から言わせてもらえば、プレーヤーが優勝を重ねれば重ねるほど、選手は言葉少なになっていく。
勝てば勝つだけ、その裏には犠牲にしてきたものも増える。
そんなことは語るべきものではないですし、どうして勝てるのかという問いには、何度勝っても説明をつけることができない。
それで選手はますます寡黙になっていくものだとわたしは思っていました。
昔は、不言実行と言われました。
ペラペラおしゃべりするよりも、やるべきことを黙ってやるほうに重きが置かれていた。
ただ、その評価はきちんと行動を観察してくれている人がいてこそのこと。
もし、誰も注目してくれていないのならば、自分の業績をアピールしなければいけない。そこで、自分で発信できるSNSは、まさに自己表現に最適のツールなのかもしれませんね。
ゴルファーにとっては、自分のスウィングやコースの攻略法を向上させるため、さまざまなことを学び、経験を積む必要があります。
それはただ経験したというだけでなく、分析、整理して記録にとどめる。
次回に備えたデータとして利用することが重要なのです。
その意味で、考えて考えすぎるということはありません。
細かく考察することも、細かすぎるなんてことはない。
ネガティブな考えが湧いてくるのは避けたいところですが、まったく考えないでどうするの? とわたしは言いたいです。
ところが、こうした作業に熱心な人は、えてしてエクスキューズ(言い訳)が先に立ってしまう場合が多いように思います。
臆病な性格によるものなのでしょうか。
失敗を恐れ、その原因をあらかじめ言葉にしておくことでミスは起こらないとのオマジナイ代わりにしているのではないかとも思えます。
もちろん、いくら言葉にして戒めていても、実際プレーする際のミスを避けられないこともあります。
それに考え抜いたことでも、自分が分かっていればいいだけのことですから、何も広く世の中に自己表現しなくてもいいはず。
細かく考えるのと、その内容をおしゃべりすることは、まったく別のことです。
だから自分のゴルフをSNSなどで発信することに対し違和感を覚えるのだと思います。
もう一度言いますが、細かくマニアックに考えること自体はいいことです。
細かいことばかりに目がいくのは、臆病で慎重だからかもしれませんが、ゴルファーなら石橋を叩いて渡るくらいで丁度いいのかもしれません。
ただ、最後は“えいやッ!”と腹をくくる潔さが必要だと思っています。
考えてもしょうがないこと、無駄に考えてしまいドツボにはまることもあります。
それも考えるべきことか、そうでないかは後になってわかることが多いというのも、経験上、確かです。
でも、迷ってジタバタ焦ってクヨクヨするのも経験のうち。
一人だけで上手くなった人はいないのですから、友だちやコーチなど身近な人のアドバイスを参考に広い視野をもつことを忘れないでください。
「考えることは良いことですが、考えすぎて行動を起こせないのとは違います」
週刊ゴルフダイジェスト2023年5月30日号より
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