【ゴルフ野性塾】Vol.1778「嫉妬心を持たぬ人間が頂点に立つ」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
「私は塾生に
教えて来た。
嫉妬心を持たぬ人間になれと。なれない迄も目指すべきだと。嫉妬心持つ人間よりも嫉妬受ける人間になれ。その方が日々の生活、楽しさ増えると思うぞ」と。
「理屈では分ります。しかし、大変難しい事じゃないでしょうか。私の周りは男も女も嫉妬心強い人ばかりです。聞いてて鳥肌立つ様な嫉妬心もありましたから」
「人間だ。嫉妬するのは当り前だ。だがよーく周りを見回してくれ。強き嫉妬心持つ人間、強き不満持つ人間、組織の頂点に立っているか? 立っちゃあいない。頂点に立つには嫉妬心は邪魔なんだ。人様の境遇、環境に嫉妬して己の身の何が変る? 何も変らん。変らなければ変化の先の進化と出会える事もない。嫉妬心は不平不満を生み、己の能力を削ぐ不要のものだ」
「分ります。確かにその通りだと思います。しかし、具体的に仰ってくれませんか。塾長のお話の魅力は具体的な話の持つ説得力です。抽象論、机上の学者論ではない筈です」
「富士山程の高き山になると草木生えてはいない。エベレストであれば尚の事、人間、草木生えぬ山で生きて行く事は出来ない。山は低き山であればいい。草木生い繁る山は人間にとって母の山だ。草木生えぬ高き山は神の山だ。だが神の山で人、生きて行く事は出来ぬ。孤独の長が何を見ているか、考えてみてくれ。部下の嫉妬心を見ているのだぞ」
「私達の嫉妬心ですか。気付きませんでした。てっきり個人の能力、仕事の出来不出来を見て貰っていると思っていました」
「気付かぬは当り前。若い頃の彼等も上司の眼線、気付いてはいなかったと思う。だが、組織の頂点に近付けば気付く。上司は部下の嫉妬心を見て来ていると。そして、嫉妬心持たぬ人間が頂点に立つ。歴史だ。世間の歴史、街の歴史、国の歴史が教えてくれてるじゃないか。嫉妬心強く持つ人間は組織の頂点に立つ事はない。嫉妬心持つ人間よりも嫉妬心持たれる人間になれと歴史は教えた。政治家を見てみろ。大臣近くになれば嫉妬心を隠すだろうが。政治評論家は言う。あの方は嫉妬心強き人でした、と。それは若き時の人物だ。大臣になれば嫉妬心なき、己の幸せは人様の幸せ、人様の幸せは己の幸せと思う様になるのだ。人様の幸せ、己の不幸は悲しく哀れな業だ。しかしな、取り除ける業だ。人間の中で唯一、取り除ける業なのだ」
ライバルが己の力を高めてくれる。
「ライバルを敵と見てはいけないのですネ。ライバルは己を高めてくれる得難い存在と塾長は仰っていましたが、そこに通じるのですネ」
「お前さん、記憶力いいな。そして人の話を消化出来る頭と知恵持ちの男なのか。聞く耳、遠くも近くも見る事の出来る眼。そして口から嫉妬心、出さぬ知恵、持っているのであれば50ヤード以内のアプローチ上手いだろう」
「アプローチは得意です。失礼、言い間違えました。得意と言えるレベルではありませんでした。好きです、50ヤード以内の寄せは」
「だいぶ言葉遣いが変って来たな。丁寧になって来た。ただ言い間違いと言ってる内は未熟だ。素直なのはいいが、素直では通らぬ時もあろう。注意しろ」
「ハイ。塾長の叱責には頭が下ります。反発もなく、懐疑もなく、幼き我が子の顔を見る時の様な素直な気持ちです」
「私は幼な子か。いい事だ。人間、微笑み浮べて鬼籍へ向うが一番の幸せと思う。周りも幸せだ。75歳になれば、その時を思う。40歳50歳のお前さん方には遠い話だが」
「ジーンと来ました。塾長には情があります。有難いコーヒー一杯の出会いです」
「今日は私が払う。一人、休んでいるから17人分だな」
「彼は人事担当の部長ですが、大きなトラブルが生じてる様です。彼の管轄ではないのですが、元々は彼の部下だった男がミスした様で、彼の知恵と経験が必要とされていると聞きました」
「そうか。現状回復ではなく、一歩前に進めそうな解決、出来るといいな。事が終結したら周防灘に行ってゴルフするか。その時は長男雅樹も連れて行こう。プロのインパクト音を間近で聴く機会は少ないだろうからな」
「嬉しいです。塾長が30年以上所属されていた周防灘ですネ」
「そうだ。鹿沼から周防灘へ移った後の18年間は周防灘近くの雇用促進住宅に住んで、誰にも束縛や指示も受けず好き勝手な練習させて貰っていたな。仕事もなしだ。私の仕事は周防灘の練習と試合参加だけだった。所属して18年後、長男雅樹は日大へ進学し、長女寛子は福岡市内の高校へ進学し、私達は雇用促進を離れて福岡市内のマンションへ引っ越した。引っ越した後、一年に一度か二度しか行かなくなったが、それ迄通りの給料をくれたぞ、周防灘は。その後、断れない義理が絡んで北海道のゴルフ場の理事長になったが、そのコースのメンバーが、理事長が九州のゴルフ場の所属プロか、と不満を漏らしたと聞く。私はゴルフコースで一番偉いのは所属プロ、その次が理事長か社長と思っていたから少しの異和は覚えたが、ジュニア塾で協力してくれたコースだったから理事長になる話を断る事は出来なかった。人は人、己は己、人それぞれの価値観、倫理観、常識で人の世は回って行くのだろうな。無理には回せん世の中だ。それでも回せるとすれば戦争だけだ。私は戦争は嫌いだ。しかし、やらなきゃならん戦争なれば最初に前線投入は政治家の息子と親戚だぞ。次にプロスポーツの人間だ。私も行く。我が家の長男雅樹も行くと言ってるから行くだろう。老いたる私でもそれ位の覚悟は持ってる。平和な時代のプロスポーツだ。日本国が戦禍の地となって知らぬ存ぜぬ、私には関係ない事と背を向けるは卑怯と思う。政治家とその息子には是非とも戦地で戦って貰いたいな。その時は逃げるなよ、政治家共」
「愉快です、塾長。そうです。逃がしちゃ駄目ですよネ」
「そうだ。近頃、政治でも財界でも逃げようとする輩が増えて来た様に思う。逃がすな。お前達の力で」
「分りました。ところで嫉妬心の先を伺いたいのですが」
「時間だ。私にはクラブ3本の練習が待っている。9アイアン、6アイアン、4番ユーティリティの3本で2月から昨日迄、毎日200球打って来た。休んだのは2月は1日だけ。3月は4日間、4月は1日も休んでいない。一夜漬けタイプ、適当大好きの私にとっては奨励賞授与ものだと思うぞ。今日もこれから西新の練習場へ行って200球打ちだ。私も几帳面になったものだ。研修生の時は1000球以上打つ日もあれば300球打つ日もあったが、そのムラ打ちはなくなったな。毎日200球だ。結構楽しいものだ、毎日200球の練習は」
「これから先も続きますか?」
「約束は出来んが続くと思う。飛距離も伸びて来たし、幾つかの問題点の解決も出来たし、やっぱりゴルフ、好きなんだと思う」
今日4月5日、水曜日。
現在時、午前10時57分。
雨、降り続く。東の山も南の山も見えなくなった。
今日も練習に行きます。15階を出るのは午後5時過ぎか。
ゆっくりとした爺様歩きで3分の距離の赤坂2丁目のバス停。
そして、8つ目のバス停が城西橋。そこから歩いて2分で練習場。
恵まれた練習環境です。
街中に100ヤードの距離あるのは有難い。
午後9時過ぎた後、雨の日も雪の日もボール回収してくれるアルバイト学生へのケーキ差し入れは私の楽しみの一つになって来ました。
体調良好です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年4月25日号より