「青木さん、あなたは私のコーチです」<青木翔『打ち方は教えない。』>
渋野日向子をメジャーチャンピオンに導いた青木翔。その教えのエッセンスが凝縮した著書『打ち方は教えない。』より、第1章の内容を特別公開!
それから数週間後。妻の実家でくつろいでいたとき、しぶこから着信がありました。
試合の期間中でもないし、何だろうと思い電話に出ると、「報告があります」とかしこまった一言。それに続いた言葉が今でも忘れられません。
「青木さんは私のコーチです」
「はぁ? それ報告じゃなくてお願いでしょ(笑)」
「あ! そうだ。よろしくお願いします」
今、思い返しても衝撃的なやりとり。かくして僕と、技術は粗削りだけれどなんだかスケールの大きさを感じさせる女子ゴルファー(この時はまだプロではなかった)との取り組みが始まります。
アスリートでも子どもでも、スポーツでも仕事でも、成長をするには目標は欠かせません。目標がないと、トレーニングや試合で「今やっていることが正しいのか、取り組みの量は足りているのか」と不安に駆られてしまいます。
目標を置くことで、目指すべき方向が示されるため、安心して努力を重ねることができるようになるのです。
僕はレッスンをする前に、必ず選手と話し合って目標を決めます。
選手が考えていることを知るためでもあるし、今後の取り組みに関して目線を合わせておくという意図もあります。
しぶことは、「出場権があるステップ・アップ・ツアーで、1000万円の賞金を獲得する」、「プロテストに合格する」という2つの目標を立てました。
岡山に住んでいたしぶこは、僕のレッスン拠点がある神戸に、週2回ほど通ってきていました。このペースは彼女が自分で決めたものです。
目標を達成するためには何をどの程度やるべきか、自分の責任のもとで物事をコントロールするトレーニングの一環です。
神戸に通い練習をしながら、ステップ・アップ・ツアーに出るという生活が始まりました。とはいっても、僕のアカデミーで行う練習は特別なものではありません。むしろほとんどが基礎を固めるためのアプローチ練習です。
しぶこは来る日も来る日も、単純で面白くないアプローチ練習を続けました。手を抜くことなく愚直に、丁寧に。
年頃の女の子が遊ぶのも一切我慢して取り組む姿から、「自分はプロになって、その道でやっていくんだ」という覚悟が徐々ににじみ出てきました。
でもこのシーズン、ステップ・アップ・ツアーで獲得した賞金は700万円強。
優勝を狙える位置にいても、ズルズル落ちていく試合が多くありました。
「プロとして幾らのお金をゴルフ場に捨ててきたんだ、根性なし」と発破をかけたこともあります。
「言われると思いました」としぶこ。
「だろうな」と、すかさず返す僕。
この経験や失敗があり、彼女は次のプロテストに合格することができました。
僕らは地味ではあるものの、着実に基礎固めをしていったのです。繰り返しますが、特別な練習や新しい取り組みはしていません。
他の選手とは違うところがあるとすれば、彼女は約1年間、一切の手抜きをせず決めたことを愚直にやり抜いたということです。
青木翔
『打ち方は教えない。』
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