「下手」だけど結果を出せる選手<青木翔『打ち方は教えない。』>
渋野日向子をメジャーチャンピオンに導いた青木翔。その教えのエッセンスが凝縮した著書『打ち方は教えない。』より、第1章の内容を特別公開!
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しぶこと出会ったのは、その合格を逃したプロテストの直後でした。
僕が契約をしているピンゴルフジャパンのアマチュア担当さんから、「青木さん、一度見てほしい選手がいる」と打診されたのがきっかけでした。
じゃあ、ということで早速ラウンドへ。
特に何を話すでもなく回っていたのですが、気になる部分があったので、パー3のティショットで「ボールの先のターフを取る意識で打ってみてよ」と伝えました。
するとしぶこは、逆に手前の芝をガサーッと取っていったんです。力のないボールがフワーッと上がってぽとりと落ちました。思わず「嘘でしょ!」と声に出し爆笑してしまった僕。
ボールの先のターフを取るためには、上から打ち込むスウィングにならなくてはいけませんが、それとはまったく逆の、下からすくい打つ形になっていたのです。僕はそれまでジュニアを中心に多くの選手と、何人かのプロを指導してきましたが、「おぉ! そこから教えなきゃならないか。結構大変だな……」という感想を持ったことを覚えています。
と同時に、引っかかるものも感じていました。しぶこはその年、受験したプロテストの2次予選でただ1人、3日間で二桁の10アンダーというビッグスコアを出していました。
技術レベルは高くないけれど、結果が出せるというのはプラスアルファの要素がある証拠。もしくは強運の持ち主(笑)。
どちらにせよスポーツ選手には欠かせないものです。
しぶこは全英女子オープンで優勝した際、ショットの球筋は左へ曲がるドローボールのみで、アプローチもフワッと上げるものとピッチ&ランしか打てませんでした。
これまでメジャーの大会を制するのに必須と言われていた、球筋の打ち分けや、豊富なアプローチのバリエーションを持っていなかったのです(今もあまりありませんが……)。
でも彼女は結果を出した。
この時すでに「自分の頭で最善の方法を考え選択する」という素地を持っていたのです。
またドライバーショットでは、よくボールを曲げてしまっていましたが、それでも毎回、臆することなくフルスウィングをしていました。
ゴルファーは技術レベルが上がるにつれ、球が曲がるのを嫌がって思い切り振れなくなることがありますが、そのような気配はまったくありませんでした。
この思い切りのよさも、のちに彼女の大きな武器となっていきます。
そんな初めてのラウンド後は、大ダフリの要因であるすくい打ちを抑制するクロスハンドのドリル(Chapter 6を参照)だけを教えました。そのドリルでも、見事に空振り!
次シーズンの出場権をかけたQT(クォリファイングトーナメント)は、もう翌週。おいおい大丈夫か、というセリフを胸の中にしまい込み、その日はお開きになりました。
青木翔
『打ち方は教えない。』
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