【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.752「指導者の役割は技術面の向上とモチベーションのアップ」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
元バスケ選手ですが、4年前からゴルフのティーチングプロをしています。選手のモチベーションを高めるには、指導者としてどんな点に留意すべきなのか。岡本さんはどんなところに気を配っていたのでしょうか。(匿名希望・41歳)
ティーチングプロは、日本プロゴルフ協会、ならびに日本女子プロゴルフ協会が資格取得者を認定して活動を行っております。
正確な数字はわかりませんが、日本国内では現在4500人ほどのティーチングプロが活動し、しっかりした教える技術を身に付けたプロが増えることがゴルフのすそ野を広げることにつながるわけで頼もしい限りです。
ただ資格を得たから誰もが優れた指導者になれると決まったわけではありません。
ティーチングプロもレッスンや講習の場数を踏みながら、スキルと実績を備えた指導者になっていくのです。
つまり、最初から万能のティーチングプロはいないということを頭に入れておく必要があります。
レッスンを受講する人は、教えてくれる先生は何でも知っていて、どんな疑問にも即座に答えてくれるものと当然ですが考えます。
しかし、その認識のギャップが、教える側と教わる側との間の信頼関係をギクシャクさせてしまうことも無きにしもあらずです。
口コミなどの評判もありますが、正直どんな指導者と出会えるかには、当たりハズレはあると思います。
しかし、ティーチングプロ界は昔と違って、競争が激しくなっているので質の高い指導が受けられるようになっています。
確実にティーチングプロのレベルは上がっていると考えていいでしょう。
ティーチングプロとして「選手のモチベーションを高めるために何をすればよいか」というあなたの質問ですが、指導者の役割とはまさに相手のモチベーションを刺激してヤル気を高く維持し続けることそのものではないかとわたしは思います。
ドライビングディスタンス、バーディ数、パーオン率、フェアウェイキープ率、サンドセーブ率、パット数といった各部門の採点からプレーヤーの能力を多角形のグラフで示すパフォーマンスシートを見たことがあると思います。
しかし、指導者に関しての同じような評価やパフォーマンスシートを目にしたことはありません。
教える側の評価は、誰もが認める名プレーヤーを育てたかどうか、それ一本だけで測られてきたのが実情です。
一人の選手は上手くいったが、別の選手では失敗したなんてこともあるはずです。
しかし、そのプロの指導内容が詳しく分析評価された例はあるでしょうか……。
要するに、指導者の能力についての合理的な評価は、まだ確立されておらず改善の余地があるかとは思います。
指導者はセオリー通りのことを忠実に繰り返すだけで満足してはいけない。
相手のスウィングを診断して課題を見つけ、解決のための目標を立て、その克服方法を提示して応援する。
つまり「技術の向上とモチベーションを奮い立たせてあげる」こと。
それがティーチングプロの役割とわたしは思います。
常に相手を観察し性格を読み、どんな言葉遣いが適しているかを判断するなど、ティーチングプロには対人関係のプロとしてのスキルまでもが要求されることになります。
教える内容はゴルフの技術よりも、むしろ心構えじゃないかしら。
あなたも、その方向を向いて努力を続けていってほしいと思います。
思い出すのは、不動裕理選手がデビューして間もないころ。
ある日、わたしの前にやってきて「アプローチのやり方を教えてください」というのです。
不動選手が、子どものころから清元登子さんに弟子入りしていたのは周知のことですから、先輩を差し置いて「そんなおこがましいことはできないから力になれない」と不動選手に言ったところ
「先生から岡本さんが一番上手いのだから教わってきなさいと言われました」
というのです(笑)。
清元さんは自分の弟子だからといって囲い込むのではなく、別の専門家に任せてでも成長する方法を示したということなのでしょう。
言うまでもなく、清元さんは不動さんほか大山志保さん、古閑美保さんと3人の賞金女王を育てた教えるレジェンドでもあります。
そのレジェンドから助力を求められたわけですから、わたしも捨てたものじゃないでしょ(笑)。
今ならもうお話ししてもいいですよね♪
「プロゴルファーである前に、一人の人間としてどうあるべきかが大切です」
PHOTO by AYAKO OKAMOTO
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