「今できる以上のことをしない」「直感を大事に」賞金ランクトップ・ 比嘉一貴の強さに迫る
現在賞金ランクトップの比嘉一貴(8月24日現在)。身長158センチという小柄な体格ながら、ライバルたちに引けを取らない飛距離を誇り、ショートゲームも卓越した技術を持つ。果たしてなぜこれほどまでに強くなったのか。“小さな巨人”の心・技・体に迫ってみた。
TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroyuki Okazawa
メモを見るのをやめた
今季すでに2勝。好調なのは一目瞭然だが、昨季までの比嘉一貴と何が違うのか。
「昨シーズンは、自分では『もっと上にいけるはず』と思っていたのに、終わってみると満足のいく成績ではなかったんです。それで、何がよくなかったのかを考えたときに、あまりにもメモ(事前戦略)に固執しすぎて、自分のイメージとかフィーリングとずれたゴルフをしていたんじゃないかと。今シーズンが始まる前、九州の試合を転戦しているときに、何かのきっかけになればと思って、なるべくメモを見ないようにしてやってみたら、ストレスなく、気持ちよくプレーできたんですよね。『これだ』という手応えがありました」と、比嘉。
コースメモに記されているのは、想定される最善のルートだが、実際はその通りに事が運ぶことは少ない。また多少、計算外のショットがあっても、プロの技術があればリカバリーできる状況がほとんど。ところが、昨季の比嘉は、「メモにあるピンポイントのターゲットにこだわりすぎていて、ミスショットとは言えないくらいのミスでも、『なんで今のは(ターゲットから)ずれたんだろう』って、ずっと引きずっちゃってたんです。それを、最初にピンポジションとそれに対するセカンドのベストポジション、絶対に行っちゃいけない場所なんかを確認したら、あとは自分の直感を信じて、打つことだけに集中するようにしました。岡本さん(キャディの岡本史郎氏)には、必要なときにちょっと聞くだけ。それがいい流れになっています」
打ちづらいホールは徹底的に低い球
比嘉が、「曲げたくない」ときにドライバーで繰り出す必殺技、それが「低い球」だ。
「風が強いときはもちろん、風がなくても『このホールはちょっと気持ち悪い』と思ったら低い球でいきます。たとえば、宍戸(宍戸ヒルズCC。日本ゴルフツアー選手権会場)の15番とか。あそこは木の高さを越えちゃうと風がどこから来ているかわからないので。あと、和合(名古屋GC和合C。中日クラウンズ会場)の14番。左がOBでロケーション的にすごく打ちづらいんです」と比嘉。打ち方は、セットアップは変えずに、重心を左足にかけるだけ。シンプルだから試合でも多用できる。しかし、今年初出場した全英オープン(セントアンドリュース)では、“逃げ道”の低い球を使う機会がなく、苦戦したとも。
「あそこまで風があると、低く打っても流されるし、ランの計算ができないので、結局、打ちませんでした」
今できる以上のことを自分に求めない
今季からできるようになったのが、「必要以上に悩まないこと」だという比嘉。これにはどんな意味があるのか。
「去年までは、試合中ですら『もっと成長できる』と思って取り組んでいたので、その日、何か気持ち悪いと感じたらラウンド後に練習場で『ああでもない、こうでもない』とやっていたんですが、そこで悩んで、ひと晩眠って、次の日の朝同じことができるかといったら、できないことのほうが多いんですね。だから、今は試合会場では『今できること』以上のことを求めなくなりました。何か気になっても、アドレスをチェックしたり、球を打たずに素振りだけしたりして、あまり悩まないようにしています。体への負担も減るし、何より頭と心のキャパに余裕ができるので、それが調子にもつながっていると思います」
ショットが悪くなる原因は、実は「アドレス」ということも多い。迷ったときには、アドレスという大基本に戻る。そのことが、今季の好調につながっている。
3Wは必要ない
基本的に「苦手なクラブはない」という比嘉。3番ウッドがバッグにない理由は?
「3番ウッドは高さが足りなくて、キャリーではグリーンに止められない。5番ウッドは止まるので、狙うなら5番ウッドで。届かないときは刻むから、結果的に3番ウッドは必要ないなと。その分、いちばん自信があって、自分のゴルフの生命線でもある、ウェッジを充実させています」と、比嘉。
キャディの岡本氏も、「ウェッジが上手いから、林に入っても残り70〜80ヤードまで出してパーを拾えるし、ラフに入れるよりあえてバンカーに入れてパーとか、総合力が高いです」と証言している。
週刊ゴルフダイジェスト2022年9月13日号より