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【さとうの目】Vol.264 比嘉一貴「几帳面さに加わった大胆さ」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手はツアー3勝の小さな巨人・比嘉一貴。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa

6月のBMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップでメジャー初優勝を果たしたのが比嘉一貴くんです。そのご褒美で出場した欧州ツアーのBMW国際オープンでも、3日目に64を出し優勝争いに顔を出しました。元々強い選手ではありましたが、今年になって本格的に強くなったな、というのがボクの印象です。

13年の日本オープン最終予選で、ボクは高校生の比嘉くんと回ったのですが、そのゴルフは衝撃的でした。そのとき、「この先、どんなに有名になってもボクのことを忘れないでね」と言った話は、すでにこの連載で紹介しました。その後、ケガもあって東北福祉大に進学。日本学生、日本アマは2位とあと一歩のところでタイトルを逃します。さらにプロ転向後の17年は、サードQTでスコア誤記で失格。戦いの場をアジアに求めて優勝、さらにABEMAツアーで優勝すると、わずか推薦9試合でレギュラーツアーのシード権を獲得しました。強い選手はどんな状況になっても必ず生き残るものです。


その後、19年にKBCで初優勝、コロナ禍の中断を挟んで21年にはセガサミーで2勝目を挙げます。この時点でプロ転向からわずか5シーズン。多少の紆余曲折はあったにせよ、一般的には順風満帆。しかしボクはもっといけるはず……との思いを常に抱いていました。

その比嘉くんが今年、大きな変貌を見せています。プロ3勝目となった4月の関西オープン。解説を担当していたのですが最終日、ゲスト解説に来てくれたのが(片山)晋呉です。そこで晋呉は比嘉くんに、「もっと自分の感性を大事にしたほうがいい」とアドバイスしたと明かしてくれました。

今年から男子ツアーでは、「グリーンブック」の使用が禁止されました。比嘉くんは傾斜計測器を持ち込むなど、徹底的にデータを分析する几帳面で慎重なタイプ。もちろん、それが悪いわけではありません。ただ少しこだわりすぎている……おそらく晋呉はルール改正もあり、その辺を指摘したのでしょう。比嘉くん自身も、晋呉のアドバイスが効いたと語っています。几帳面の反対のルーズさ、慎重の反対の大胆さ、神経質の反対のいい加減……実はゴルフに求められるのは、こうした相反するもののバランスだと思うのです。

特にツアー選手権は、慎重さと大胆さが求められるコース(宍戸ヒルズCC西C)。優勝を決めた最終日最終ホールのバーディを奪いにいったあの大胆なウィニングショットは、新生・比嘉を象徴しているようです。

表彰式のスピーチもよかった。

「企業名を間違えてはいけませんので、まずはメモを読ませていただきます」と謝辞を述べたうえで、「もう少しお付き合いください。(優勝のブレザーは)一番小さなサイズですが、こんなにブカブカです。でも、こんなに小さい体でもゴルフでは活躍できます。世界でもそんな姿を見せていきたいと思います」

現在賞金ランクトップの身長158㎝の“巨人”。世界ランクでは日本人選手で松山選手に次ぐ2番手に。年末50位入りしてマスターズ出場権を獲得すべく突き進んでほしいです。

「ドローもフェードも同じような精度で打ち分けるショット力が最大の武器。風に強い低い球を打つのは元々すごく上手でしたが、今年は高い球も打てるようになったと言います」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より