【野性塾】Vol.1745「左手首の角度が不変なら球は曲らぬ」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
暑い日が続く。
夏なので当り前
とは思うが、暑いと口に出せば増々暑くなりそうなので暑いのひと言、言わないで過して来た。
しかし、15階のマンションの玄関開けただけでこりゃ堪らんの暑さ続いている。
無理と我慢は身の毒だ。悲観は私の性に合わないが、楽観も今の暑さには通用しないと思う。
御自愛あれ。
我が身に変りなし。今日も福岡市赤坂けやき通りの蝉だけは元気です。
真似るべきは左手首の角度と型。
先日、男子プロの試合で選手のスウィングを観察する機会がありました。グリップの握りもバックスウィングの上げ方も、トップの高さもフィニッシュの手の位置も、選手によって全部違っているように見えました。我々アマチュアは誰のスウィングをお手本にすればいいですか。自分のスウィングを作るうえで一番大切なものは何ですか。(熊本県・渡辺大樹・30歳・ゴルフ歴3年・ベストスコア108)
何事にも優先順位は存在すると思う。
順位を間違えれば遠回りが生じ、間違わなければ事は順調に進む筈だ。
ゴルフ然り、優先順位を無視しての取り組み様が遠回りとなるは確かだ。
将棋は3手先を間違えずに読めば負けはなしと言う。
故に将棋の優先順位の一位は3手先の読みであろう。
自分が指す、相手が指す。そして自分が指すこの3手を間違えなければ名人にも竜王にもなれる訳だ。
ゴルフはどうか。
多くの方はいいスウィングを目指したし、今も目指しておられる方は多そうだ。
飛距離の出る球、曲らぬ球、右にも左にもコントロール出来るスウィングがいいスウィングであった。
人の世の完璧は少ないと思う。
でも今は完璧を目指す。
そりゃそうだ。
昨日の出来が完璧と思えば今日への意欲、明日への意欲は損なわれよう。
明日こそが完璧と思うは人の知恵であると思う。
考えた。
考える事は幼い頃から嫌いではない。
「信弘、もう寝なさいよ。明日は学校なんでしょ」と母が言った。
私は天井を眺めて過すのが好きだった。
小学校に入る前から布団に入って天井を眺めながら考え事をするのが眠る前の習慣だった。
小学校に入っても何を考えるでもない。ただ天井を眺めている内に天井が消え、自分の中で考え遊びしている内に自分が消え、いつの間にか眠り、気付けば朝だった。
ゴルフを始めたのは24歳になったばかりの時だったが、鹿沼CCの男子寮の天井眺めながらゴルフ上達に於て何が必要か、優先すべきは何かを考えた。
毎夜の事だった。
朝起きるのが辛くなるのは分っていたが、24歳で始めたゴルフである。優先順位を持たねばプロテスト受験の予選である栃木県アシスタントプロ研修会は出るのも無理とゆう危機感は持っていた。
そして、私の優先順位を見つけた。
左手首の角度だった。
球が曲るか曲らぬか、強振出来るか出来ないか、飛ぶか飛ばないかには単純さが要ると思った。
アドレスでも球の位置でもスウィングでもリズムでもないと思った。
ひと振り毎にトップ時の左手首の角度が変れば、方向と飛距離の安定はないと考えた。
眠る前の寮の天井を眺めながらそう思ったのです。
鹿沼に1年いて、愛知県豊田市の貞宝CCへ移った。
貞宝の寮は2段ベッド部屋であり、天井は手の届く近さだった。
天井にサム・スニード、ジーン・リトラー、リー・トレビノ、橘田規プロのスウィング写真を貼り付けた。
枕元にも4人の連続スウィング写真を置いていた。
日本のプロでトップ時の左手首の角度、最も変らぬプロは橘田規プロと思った。
だから鹿沼を離れて橘田規プロが所属していた貞宝CCへ押し掛け入社、そして入門したのです。
今、想えば無謀であり、迷惑この上ない行動だった。
しかし、貞宝CCも橘田規プロも私の非礼、無謀を許してくれた。若さに寛容なのは人の世に遊び心と寛大さ、そして好奇心あればこそと思う。
私は幸運だった。
鹿沼は私の行動を許し、貞宝CCと橘田規プロは寛容だった。
トップ時のドライバーとサンドウェッジの左腕の位置と高さが異なっても左手首の角度、同じであれば球は曲らぬものだ。
球筋も変りはしない。
球筋を整えよとの指導がある。
右にも左にも曲る球でスコアまとめるは難しいからだ。
そして自分の球筋を持たねば不安の中で球打たねばならぬからである。
球筋を整えるには何が必要か。
球の位置か、スウィングか、体重移動か、捻転か、回転態か。
断言する。
そんなものは優先順位の一番じゃない。
トップ時の左手首の角度と型、不変であれば、どのクラブ、どんな状況、どの様な気象条件であろうと球が大曲りする事はないのです。
左手首の角度と型、たまに変るスウィングだとプロテスト迄、辿り着く事は出来ないだろう。
私の指導で95人の塾出身者がプロテストに通っているが、私が塾生たちの体に触れたのはトップ時の左手首だけである。
左腕と左手の甲、一直線だったのはサム・スニードであり、ジーン・リトラーだった。
左手の甲と手首、張っていたのはリー・トレビノであり、逆に左手首に外曲りの型、作っていたのは橘田規プロだった。
どんな左手首の型でもいい。
不変であれば球は曲らぬものだ。
私は橘田規プロの許に押し掛け入門した者なれど、左手首の角度はジーン・リトラーを理想とした。
橘田規プロの外曲りの角度は私には難しかった。外へ曲げて打つと右へのフケ球が出た。
私の理想はドローボールだった。
左腕と左手の甲、一直線がドローを簡単に打てる型だった。
私はトップ時の左手首の角度と型を優先順位一位と考え、今もこの考えに変化はありません。
人それぞれである。
トップ時の左手首の角度と型も人それぞれでいいと思う。
ゴルフ始めた方はプロのスウィングを真似るのではなく、トップ時の左手首の角度と型を真似た方がいい。
そして進歩遅き方も真似るべきと考える。
私が坂田塾塾生にしつこく教えたのは左手首の角度と型である。他の動きと型は人それぞれと考えて来た。
私から何を教わったのか、何を教えてくれたのか分らないと言う塾生もいるだろうが、私が教えたのはトップ時の左手首の角度と型であります。
振り返れば分らない、理解出来ないで当り前か。
指導は10年後、20年後になって初めて気付くものもあろう。
それでいいと思う。特に幼い者への指導、即効性を必要としない事も多いが故にだ。
修業、稽古、鍛錬事、体で覚える、時間掛けて覚えるは大切。
己の財産作るには体と時間掛けての覚悟、要る様な気はします。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2022年8月23・30日合併号より