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【さとうの目】Vol.248「記憶に残るシーンの数々」2022マスターズを振り返る

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週は、シェフラーの優勝で幕を閉じたマスターズを振り返る。

PHOTO/Blue Sky Photos

マスターズは世界ランク1位のスコッティ・シェフラーの優勝で幕を閉じました。なかなか勝てなかった選手が1勝すると、ひと皮むけて大きく飛躍することがありますが、ここまで続くとは。想像を上回る信じられないくらいの活躍です。2月のフェニックスオープンで初優勝を果たすと、3月にはアーノルド・パーマー招待、WGCマッチプレーで2勝目、3勝目。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで初優勝から史上最短の42日で世界ランク1位に上り詰めました。そしてマスターズで初メジャー制覇。直近6試合で実に4勝です。

しかもすべて違うタイプのコースを制した感じ。フェニックスは飛距離やキャリーが必要な割と広くて長いコース。ベイヒルは全米オープンを思わせる深いラフと超高速グリーンで選手から苦情が出るほど。マッチプレーでは全英オープンを思わせる硬いグリーンと強い風が吹きました。マスターズでは3位に入ったシェーン・ローリーが、苛立ちからかなりキツい言葉をキャディにぶつけ、それがSNS上で話題になったほどです。そうしたなかでシェフラーは表情を変えることもなくホールを重ねていきました。


しかし最終日の朝、ナーバスになったシェフラーは赤ちゃんのように泣きわめいたことを明らかにしています。まだ自分はマスターズのチャンピオンになるには早い、と自問することもあったようです。決勝はスタート時間が遅いため、朝の過ごし方がわからずに腹痛に悩まされていたことも明かしています。そのシェフラーを支えたのは「勝とうが負けようがあなたを愛している」というメレディス夫人の言葉であり、キャディのテッド・スコットの存在でした。“テディ”はバッバ・ワトソンのキャディとして、マスターズを2度制した経験があります。すでにこの連載で紹介しましたが、2人はバイブルスタディで知り合った仲。どんな状況でも彼らが醸し出す“いい空気”は、「結果は神が決めるもの」という達観した宗教観にあるのかもしれません。

さて、最終組で優勝争いを演じたキャメロン・スミスの、常にピンを狙うアグレッシブなゴルフは大会を盛り上げてくれました。大物食いで大舞台に強いのは、そうしたプレースタイルにあるのでしょう。当然、それが人気にもつながっています。バーディを取った直後の12番で池につかまったのは残念ですが、それもスミスの攻めのゴルフの表れでしょう。

それから、最終日に64をマークし2位に入ったローリー・マキロイ。キャリアグランドスラムはまたお預けですが、最終ホールのバンカーショットを入れたバーディで見せたあのガッツポーズ。来年のマスターズにつながる気がします。同じバンカーから入れ返したコリン・モリカワも見事でした。彼らが今後メジャーで優勝争いを演じたとき、必ずや伝説として語られるシーンになるはず。そういうシーンを残してくれるからこその「夢の祭典」。早くも来年が楽しみです。

「首の痛みで十分な準備ができないまま大会に入った松山英樹。14位の成績もさることながらチャンピオンズディナーのメニュー、英語のスピーチは大好評で、名実ともに“マスター”の仲間入りです。そしてタイガーの復活劇。日々辛さが増すような歩く姿にリハビリの壮絶さを感じましたが、パトロンの大声援が後押し。この舞台を選んだ理由がわかった気がしました」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年5月3日号より