Myゴルフダイジェスト

【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.69 地元の人が心待ちにする試合

高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。

PHOTO/Rui Watanabe

前回のお話はこちら

鹿児島県指宿(いぶすき)市は僕にとって特別な町です。親戚がこの近辺で鰹節などの商売をやっておる関係で、小さいころから、ちょくちょく訪れていた土地なのです。

その指宿の駅前に大きなレストランがあって、そこに食事するためにふらりと入ったときのことです。

僕の顔を見た、女将とおぼしきおばさんというよりも、おばあさんが「サインしてください」と色紙を持ってきたのです。

どう見てもゴルフファンという感じではないお年寄りです。「何やろな?」と思って話を聞いてみると、毎年「ごくろうさんず」(シニアプロバンド)の演奏を聞きに行くのを楽しみにしておるとのことです。


僕のこと、プロゴルファーやのうて、芸能人かなにかやと思っておるようなのです。

シニアツアー最終戦の「いわさき白露シニア」のプロアマ前夜祭は、関係者だけではなくて、指宿の町の人たちに公開しております。そこで僕らシニアプロバンドの「ごくろうさんず」が30~40分の演奏を披露するのも恒例になっております。

「あれが面白いから、私は1年間頑張って仕事ができるんです」と女将は言ってくれるのです。「おかあさん、見に来てくれはったのですか」と言うと、「ごくろうさんずが面白いから」と言うのです。ありがたいことです。

男子、女子、シニアに限らず、トーナメントというものは、開催地の人たちが、ゴルフをやるやらないに関係なく、来年の開催を心待ちにしてくれるようになると、そこでプレーする僕らも嬉しくなるものです。

いまでも宮崎でやっているダンロップフェニックスとか、女子のダイキンオーキッドとか、地方と密着したトーナメントがありますけど、昔はもっとぎょうさんあったような気がします。仙台、新潟、長野、広島、宇部。

テレビの視聴率を取るのも大事やけど、僕は地元の人が喜んでくれることも大事やと思っています。

トーナメントのプロアマというと、成績発表して賞品配っておわりです。面白(おもろ)ないですよ。それで立ち上げたのが僕ら「ごくろうさんず」です。これを楽しみに待ってくれはる人がおるというのは、地方やからこそやと思います。今年も頑張りますよ。プレーやのうて演奏を。

「地元の方の言葉は演奏しておる僕らの励みにもなります」

奥田靖己

おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月22日号より