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【インタビュー】川村昌弘「日本ツアーに戻るつもりはない」欧州4年目“旅人ゴルファー”の歩き方

今年、欧州ツアー4年目を迎える川村昌弘。苛酷な転戦を楽しみ「世界の旅人ゴルファー」と言われるが、この3年間、着々と目標に向かって歩んできたのだ――。

PHOTO/Masahiro Kawamura

“チーム川村”の面々。エースキャディのメグさんと、マネジャー兼ときどきキャディのマレーシア在住横山さん。心地よい距離感で共闘している

「体重が13kg減りました」

昨年11月末、新型コロナウイルス変異株のため、新シーズンの南ア3連戦の予定が、初戦のみを終え帰国した川村昌弘。「ヨハネスブルグにいたので(ウイルス発生の)場所がどんぴしゃで。バタバタでした。自力で飛行機を探してケニアからカタール経由で成田へ。そこからまたホテルで隔離です」

どんな大変な事態をも飄々と楽しく話すのが“川村流”だ。

世界を股にかけた移動にもすっかり慣れた。昨シーズンは30試合に出場したが、当初は試合が思ったより開催されず予定が狂った。

「一昨年も似たようなものでした。でも、欧州ツアーには感心します。なくなってもすぐに試合をつくる。日本ならいろいろとムリがあると思うけど、すごいです」

昨年も「バブル方式」が主で、外出はままならなかった。

「食事もホテルのレストランやルームサービスが多かった。ウーバーイーツも活用しました」

川村はこの3年でずいぶんスリムになった。参戦1年目の終盤から食生活を見直したのだという。

「お酒は止めて、小麦粉製品や砂糖を控えていたら、すごく体が軽くなった。体重は13kg減りました。こんな生活をしているから説得力がないですけど、僕、体がめちゃくちゃ弱いんです(笑)。日本であれば移動も少なく、体調が悪くてもごまかして通用していましたが、ヨーロッパはコースが求めてくるレベルが高いですし、技術を磨くというより、体調がいい日を増やしていくことが僕には合うと思うんです。野菜とお米と魚メインの食事で、肉は週1、2回、試合の4日間以外で食べます。体の動きやキレが変わりました」

“川村流”は、ゴルフへの取り組みにも表れる。


「試合の連ランは混んでいるとストレスになるから基本トップスタート。取れなければハーフを回るか、パターとウェッジだけ持って歩くこともある。連ランで失敗したホールは頭に残ったりしますから、ぶっつけ本番の試合も多い。そう言うと、大丈夫? という感じもしますが、初ラウンドだと考えるとモチベーションが上がる。僕は初めてのコースを回るときはだいたい楽しめるので(笑)」

カナリア諸島で行われた「グラン・カナリアオープン」の会場となったメロネラスG。「海と山が一緒になっている感じ。まるで富士山の周りを切り取って島にしたような感じで、景色がきれいでした」

器具を使うトレーニングはやったことがないし、やろうとしない。「エクササイズで体を動かすための準備をするくらい。それに日本語で言う“打ち込み”みたいな練習はまったくしません。アプローチやパター、100Y以内はよく練習しますが、ドライバーの練習もしません。試合ではラウンド前にどんなに酷い球が出ても3球しか打たない。ウォーミングアップです。理由は一番簡単で重要じゃないと思ってるからかな。300Yくらい遠くにいくから、“あの辺”でいいですよね。ドライバーが曲がるのは技術ではなくて体調だと思ってます。ウッド系は多少打ちますが、150Y以内とそれ以上のクラブの比率は9対1くらいです」

昨シーズンのスタッツで注目すべき点は平均ストロークが69.8で20位だったこと。

「平均ストロークが『1』変わった。これって快挙だと思いますし嬉しい。でもその他のスタッツを見ればわかりますが、ゴルフが上手くなったわけじゃない。まあ、ツアーで5本指に入るくらい試合数をこなしてこの数字なら本当に頑張ったんじゃないかな」

「惜しい」「頑張った」は
自分でしか評価できない

スタッツはあまり気にしないが、客観的に自分を見ている。

「数字で見た皆にわかる評価より、数字に出ない自分のなかの評価を大事にします。昨年でいうと、グリーン周りでのリカバリーなどでパーを拾う場面が多くなったなと。今まではアプローチが難しい状況だとあっさりミスして5、6mを2パットしてボギー。でも昨年は頑張って2mくらいに寄せたものが外れてのボギー。結果は一緒ですが“あっさりボギー”じゃない。パターにしても、打った瞬間にミスしたというのは劇的に減った。惜しい、頑張った、というのは、自分でしか評価してあげられない。それが増えたと思うし、“惜しい”が入ると、ナイスセーブの回数にもつながっていきます」

随所にゴルフの成長を感じるが本人は「場慣れ」したのだという。

「難しいコースが多いので、そこで球を打つことに慣れた。たくさん練習しても試合になったら1球しか打てないから積み重ねです」

石の上にも3年――そう、もう3年たったのだ。

「シードを取ることに必死だった1年目を経て、2年目はコロナ禍、観客もいなくてシードも持ち越し、日本にも帰れない状況であまり入れ込みすぎずにやれたのは自信になった。このフィールドでも普通にやれば大丈夫だと思って3年目も過ごせました。そこまで下手くそじゃないと思えた。そういうのが場慣れというか成長なのかもしれないですね。でも、あまり過信しないようにします」

試合がない週には、街歩きをしたりもする川村。お気に入りの場所も見つけた。「グリニッジです。ロンドン近郊は、たぶん東京より詳しいと思います」。

健康的な日々だ。

「朝ご飯を食べてランニングをしたりして午前中はゆっくりして、昼から和食の美味しいお店に出かけていき昼ご飯を食べ、近くのゴルフ場を探して『今から回れますかー』って。ゴルフが気軽なのが、すごく好きなところです。そんなに年でもない日本人がコースに行くと『何だこいつは』という目で見られるので、一応PGAのカードを渡す。ヘッドプロが出てきて、無料でプレーさせてくれます。こうして過ごすのは楽しみですね」

21時までには寝て、朝7時には起きる。ゲームもしないしテレビもユーチューブも見ない。興味がないと笑う。ゴルフ関係でも同じだ。

「人のゴルフに興味がないというと覚めているみたいですが、『今週はいい選手がくる』と聞かれてもあまりピンとこないんです。それに世界ランク上位の選手と写真を一緒に撮るのは個人的には違和感があります(笑)」

自分も同じ舞台で戦っている意識が強いからだろう。

「もちろん今活躍している選手は知ってます」と言うが、川村にかかるとコリン・モリカワは「あの人はカッコいい。色が黒くて細いしサッカー選手みたい」。

好きなコースの1つ、スイスのクランスシュルシエレGC。「この景色とスペインのバルデラマが好きです」。日本ツアーには戻るつもりはないという川村。「ケガしてどうにもならなくなったらわかりませんが。でも今年は、欧州と日本共催の試合もあるので、久しぶりの日本の試合は楽しみ。今までは我慢比べの試合が得意でしたが、ハイスコアの展開の試合でもスコアを出せるようになったので、底上げができていると思います」

今年こそ優勝して最終戦のドバイへ!

スウィングを見て何かを感じたり真似したりもしない。

「出球は見ます。綺麗な球だな、あっちから回したなとか。流行りも興味がない。たとえばシャローイングですか、あれは、谷さん(谷原秀人)や(宮里)優作さんに、『お前が最初にやってる。時代が追いついてきたな』と言われました。僕のは変なスウィングですが、一部を切り取るとそうなってるらしい。自分ではわからないです」

正直だ。それは、確固たる自分とスタイルがあるからでもある。

コースや訪ねた街の話を聞くと、こちらがワクワクするように話をしてくれる。世界にゴルフ旅ができない私たちへ、おすそ分けをもらった気分になる。

「運転は自分でします。マラガからマドリッド、エジンバラからロンドンへも車で。コペンハーゲンからミュンヘンまでは橋を通って12時間くらいかかりました」

川村のなかから湧きだす楽しさが伝わってくる。

「苦労話を語ればエライことになります。キャリーバッグの取り違えなんかも面白おかしく話しています。でもあまり覚えていないんですよ、苦労話は」

ここにも、自分を知り、自分を管理する川村流コントロール術があるのだろう。

グラン・カナリアオープンで予選落ちした週末に山登り。「試合の合間に、状況が許せば外出したりします」

今年の目標はズバリ優勝だ。

「2年連続最終戦には行けましたが、まだ優勝していない。ずっとじらされている感じなので、心のどこかで大きい試合でこい! と思っています。勝つためにはタイミングもある。周りからの評価が高くてもずっと勝てない人もいれば、予選落ちが多いけどポンと勝つ人もいたり。だから自分の番がくるのを待つ。勝てないから何か変えるよりは、やるべきことをやって待つというスタンスのほうがいいのかなと思います」

若い選手が増えた日本ツアーで、目標として川村の名前が出ると伝えると、意外そうな顔をしながら、「でもヨーロッパ、おすすめしません。大変ですもん。僕、楽しいことしか言わないけど、移動とか絶対ストレスですよ。僕は慣れたし、以前はアジアと日本を行き来して誰よりもハードスケジュールをこなした自信はある。でもずっと日本ツアーでやっていて、この移動はグッとくるはずです」。

この言葉は、若い選手への「早いうちに経験したほうがいい」というエールにも聞こえるのだ。

最近では、PGAツアーへの挑戦意欲も出てきたらしい。

「飽き性なので、3年やってきてアメリカもと思うようになった。ヨーロッパでやっていくなかで、ここが一番レベルの高い場所ではないと感じるようになった。でも、アメリカと欧州が手を組んできた今は焦るときではないかな。2つが繋がっていないなら米ツアーのQスクールを考えたかもしれない。でも、今年29歳。もう若手ゴルファーではないですからね……」

成長を感じているからこその目標替え。川村は、しっかり先を見据える賢者のゴルファーでもある。

「言葉は、皆に話せるようになったと言われます。僕は南アフリカ人やイタリア人、とくにスペイン語圏の人と仲良くなることが多い。明るいしいい人が多い。英語の語彙はないけど、とりあえずニコニコへらへらして仲良くなっていきます(笑)」

川村流、海外挑戦術で、ゆるりと確実に世界を歩いていく。

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月8日号より