【世界基準を追いかけろ!】Vol.69「PGAツアー選手の練習は、やるべきことが明確」
目澤秀憲と黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回はZOZOチャンピオンシップを視察した黒宮が体感した質の高い練習について話してくれた。
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
GD 黒宮さんはZOZOチャンピオンシップを視察してきましたが、PGAツアーの選手の練習を見て感じたことはありますか。
黒宮 フリートウッド(※1)に少し話を聞いたのですが、スウィング中のサイドベンド(側屈)(※2)が入り過ぎる傾向があるので、それを適正にするドリルをやっていると言っていました。確かそのサイドベンドの話って、2年前に目澤君がフリートウッドに質問したときにも彼は同じ課題を持ってそれに取り組んでいると言っていました。2年間も同じことをやっているという、その事実が凄いなと思いましたね。
目澤 PGAツアーの選手たちは、自分がやらなければいけないことが明確ということですよね。
黒宮 ドライバーならロースピンで前に行く球や、アイアンならスピンコントロールされた球など、自分が目指す打ちたい球って明確にあると思うんですよ。そうなると自分がその球を実現させるために、やるべき練習やスウィングへの負荷って決まってくるじゃないですか。PGAツアーの選手はそういった「負荷の限定」がすごく明確で、そこに注力した練習ができていると思いましたね。一方で、日本人選手はそこまで負荷の限定ができ
ないのではと思ってしまいます。
GD いろんな練習に手を出し過ぎて、結局、根本が修正できないということですか。
目澤 僕たち二人は、球をつかまえるために、「インサイドアタック」や「シャローイング」などを意識してもらうし、あとは「軟らかいクラブでヘッドが遅れて来る感じをつかむドリル」などもずっとやってきてもらっていて、いわばこれが原点みたいなものなんです。それは僕らとしてはずっと変わっていない教え方なわけで、でも選手たちの中には、試合前の練習でちょっと左に振ってみたら上手く帳尻が合ったので、その週の試合ではその感覚を優先したりもします。そうするとスウィングの原点とかからは、離れていってしまうので、長い目で見ると前に進んでいかないわけですよね。一方で、中島啓太君(※3)のように自分のやるべきことが明確に分かっている若い選手が出てきていて、彼は世界で結果も出しています。
X 今年のアジアアマに行ったんですが、現地は猛暑で、2日間の練習ラウンドでほとんどの選手が日々ハーフで切り上げるなか、中島啓太君はキッチリ2日目も1ラウンドやっていました。その理由は、「試合になれば勝負どころは4日目の最後のハーフになる。そういう疲労した状態でスウィングや球がどのようにリアクションをするかを見極めるために、あえて熱波のなか練習ラウンドをした」と言っていました。日本のゴルフ界のこれまでの常識なら、本戦に向けて体の休養に充てるはず。そこをあえて極限状態を想定して練ランをするという、それだけの準備をしてきた中島君は、プレーオフで負けるわけがないと思いながら見ていましたね。
GD まさに、黒宮さんが言う「負荷の限定」を明確化した練習ラウンドですよね。中島選手の優勝は必然だったんでしょうね。
(※1)イングランド出身。2010年プロ転向。17年欧州ツアー年間王者。世界ランキング40位。(※2)サイドベンド(側屈)とは、わき腹を縮めて肩をタテに使う動きのことで、トップのときに、左肩が下がって左わき腹が縮み、ダウンスウィングで今度は右肩が下がって右わき腹が縮む。(※3)中島啓太 2000年生まれ。日本体育大学3年。世界アマチュアランキング1位。UAEで開催されたアジアパシフィックアマチュア選手権でプレーオフを2ホール目で制して優勝
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
週刊ゴルフダイジェスト2022年1月4日号より