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【さとうの目】Vol.232 マルセル・ジーコ「ポニーテールのドイツ人」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、ポニーテールがトレードマークのドイツ人、マルセル・ジーコ。

「最近、ロボットみたいな選手ばかりのなかで、オレみたいな選手がいてもいいだろう」と公言、メディアもそれを好意的にとらえている選手が、ドイツの41歳、マルセル・ジームです。コアなファンは「ああ、あの選手か」とポニーテールの風貌と、喜怒哀楽を前面に出すプレースタイルを思い浮かべるのではないでしょうか。

04年に欧州ツアーで初優勝すると、06年のW杯ではベルンハルト・ランガーとともにドイツに優勝をもたらしました。その後、12、13、14年に1勝ずつを挙げ欧州ツアーで通算4勝、この時期世界ランクでも50位以内に入っています。

しかしその後、本人いわく「人生で一番悪い選択」をしてしまいました。それは飛距離を求めたスウィング改造。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったダスティン・ジョンソンのパワフルなフェード、トップで左手首を内側に折る、あのスウィングに憧れたようです。もともと飛距離のある選手でしたが、さらに高みを求めたのでしょう。


確かに飛距離は伸びましたが、成績はジワジワと落ちていきます。そして18年には、7年間キープしていたシード権を喪失。引退してほかの仕事をすべきなのか、下部ツアーでもう一度、挑戦すべきなのか……。この心境は、手に取るようにわかります。大きな賞金は稼げない。スポンサーも離れる。経費はかさむ。しかし自分は今までゴルフ以外したことがない……そんな思いの繰り返しです。

最終的にジームは現役続行を決意、19年から3シーズン、下部ツアーを主戦場に戦います。言葉にするのは簡単ですが、レギュラーで優勝経験のある選手だと、まずツアーに慣れるのが難しい。賞金も違えば、雰囲気もギャラリーの数も違う。泊まるホテルだって違ってきます。過剰な意識とわかっていても、若い選手ら周囲の視線もやたらと気になるものです。

ジームが「彼のお陰で頑張れた」というのが、メンタルコーチのホイガー・フィッシャーの存在。彼の助言で、下部ツアーは賞金を稼ぐところではなく、レギュラーに戻るための場所、と考えられるようになったというのです。欧州ツアーのプレーヤーズブックに、この20年で学んだことは「ゴルフ場でもっとも重要なことは我慢強さ。そして自分自身にナイスでいること。ハードであってはいけない」とあります。成績が出ないとどうしても自分を攻めてしまいがち。こういった部分も意識改革できたのでしょう。

実は昨年、ジームは全英オープンで15位タイになりました。しかし当初、資格はあるのに棄権しようと思っていたそう。「下部ツアーで賞金を稼いでレギュラーに戻る。全英に出ている場合ではない」という理由です。しかし、全英の賞金の一部が下部ツアーにも加算されることがわかり、急遽出場して15位。そして全英で久々にはじけて、あのド派手なガッツポーズを見せてくれたのです。

04年の初優勝時はボクも一緒に欧州ツアーを戦った仲間でしたから今年の活躍に興味津々。8年ぶりの5勝目でも、またあのガッツポーズを期待したいですね!

風貌とは裏腹なオーソドックスできれいなスウィング

「元々かなりのオープンフェースで、フェースローテーションを多く使うタイプ。それをD・Jのような真逆のタイプを目指してスランプに。ほとんどの選手がキャリアのどこかでスウィング改造に着手し壁に当たる。自分にできるか、向いているかの選択が極めて重要です」(PHOTO/Getty Images)

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年1月4日号より