【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.60「上がったようにしか下りひん」救われた高須愛子さんの言葉
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
ゴルフをやっておって「ええな」と思えるのは、やっぱり人との出会いです。
高須愛子さんと会えたのも「ええな」と思えた出会いでした。
若い読者は高須さんのことをよう知らん方もおるかもしれませんので、ざっくりと紹介します。
1952年生まれで、大阪府豊中市の出身です。ソフトボールをやっておったのですけど、19歳のときにゴルフを始めて、たった2年でプロテストに合格した、ある意味天才です。ツアー優勝17回で生涯4億7000万円以上も稼いでおるというすごい人です。
僕がダウンスウィングで悩んでおったときに、高須さんにそんな話をしたら、「あんたよう悩むなあ」と笑われて、「オクちゃんな、上がったようにしか下りひんから、悩まんでもええやんか」と言われたんです。
それで「上がったように下りるんや」と考えたらものすごく気が楽になって、ほんま救われました。その直後ですよ、「富士フイルムシニア」でシニア初優勝ができたのは。高須さんにアドバイスをもらって、すごく楽に回れたんです。
高須さんに「誰にゴルフを習ったんですか?」と聞いたら「見て覚えた」と言います。「習うより見て覚えたほうがええですよ」だそうです。70年代初めごろ、高須さんが戸田藤一郎(1914-84年)さんのプレーを池田CCで見た話をしてくれはりました。
戸田さんのことも知らん人もおるかもしれんので、簡単に説明します。レギュラー24勝、シニア6勝で、通称「トイチ」と呼ばれたプロです。試合がものすごく少ない時代やからこれは大変な勝率です。
「すごかったですよ。あんな技、見たことなかったです。バンカーなんかチュッという感じで、あんな小細工ができるのかと思って見てました」と高須さんは言います。
戸田さんは「指で打て」と言っていた人です。
「今はあの感覚がゴルフにはなくなっちゃいました。大雑把な動きばっかりで、小さな動きってないじゃないですか」と高須さん。
「昔はあったやないですか、チ・チ・ロドリゲスとか」と僕が言うと、高須さん「チ・チはヤバイですよ」と、もちろん褒め言葉です。レギュラー6勝ですが、シニアになって大活躍して24勝した名手がチ・チです。
チ・チなんか見ているだけで楽しいと思う僕とか高須さんとか、そういうゴルフの世界観は、もう理解されんのかもしれません。
82年KBCオーガスタで観客を楽しませる“技芸”を披露したチ・チ・ロドリゲス。「見ているだけで楽しいですわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月14日号より