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「驚愕の455ヤード」「デシャンボーの凄さ」松本一誠の世界ドラコン体験記【動画あり】

本誌のレッスン特集に登場したこともあるレッスンプロの松本一誠は、プロのドラコン選手でもある。そんな彼が国内ドラコンツアーの成績によって推薦を得て、日本代表として、9月末に行われた世界ドラコン選手権に初出場した。選手として、技術の専門家として、世界の飛ばしを目の当たりにした体験記───。

PHOTO&TEXT/Issei Matsumoto

まつもといっせい
1992年生まれ。171センチ。小学5年の時にゴルフスクールに入りゴルフを始める。杉並学院高ゴルフ部出身。研修生の後、レッスンプロへ。ドラコン競技は2015年から続ける。最長記録は2020年の429ヤード

世界ドラコンとは
正式名称はPLDAロングドライブ世界選手権。1年に1度行われるロングドライブ(ドラコン)の世界一を決める大会で、世界中から代表者が集まって飛距離を競う。今大会はアメリカ・ネバダ州のメスキートにあるロングドライブのフィールドで開催。ルールはセットマッチという方式。1グループが16人。そのうち4人がワンセットとなって2分30秒間で6球を打ち、最も飛んだ1打で順位が決まる。それを5回繰り返して総合計ポイントで競う。1位200点・ 2位100点 ・3位50点・ 4位25点。この方式を4日間続け、1日ごとに人数が絞られていき、最終セットマッチで優勝が決まる

初出場の戦い

日本大会を経て日本代表として出場した初の世界大会。その初日、最終セットまで自分のドラコンができずにいました。予選通過ラインの獲得ポイントよりも下に位置、最終セットの5球目まで満足いく球が打てずにいました。いきなり追い詰められましたが、この状況で、この大会に後悔が残らないよう「あること」だけに集中しようと意識を変えました。「あること」とは、「綺麗にフィニッシュを決める」こと。

少し冷静になって周りを見渡すと、「ゴルフ力が高い」と思えるスウィングをしている選手が上位につけていました。フィニッシュが崩れるほど振っていた、これまでの自分を反面教師にして、綺麗に振ることにシフトチェンジしたのです。すると、その打席で1位の200ポイント(アゲンストのなか、342ヤードをマーク)を獲得することができ、逆転で初日通過を決めることができました。

ドラコン人生で一番嬉しかった瞬間でした。2日目はスピードとパワー、そしてグリッド(点数がカウントされるフェアフィールド)に、すごい球を次々に入れる技術、すべての面で圧倒され、僕の世界大会初挑戦は幕を閉じました。

呆気なく終わってしまいましたが、あのフィールドで、「どうすれば結果が出るのか」という手応えを得ることはできたので、それを探りながら、もう一度あの舞台に立ちたい、というのが今の気持ちです。

「グリッド」と呼ばれるドラコンのフィールド。幅は約60ヤード。この範囲に止まれば記録がカウントされる

PGAツアーのスター
B・デシャンボー

今大会はブライソン・デシャンボー選手が初参戦しました。ドラコンは2戦目、世界大会は僕と同じく初出場。デシャンボー選手については、かなり前からスウィングやショットデータ、使用クラブ、体使い、トレーニングをチェックしていましたが、リアルで見ると抱いていたイメージのさらに上の次元でした。


圧倒的なアキュラシー(正確性)に加えて、ドラコンのトップ選手と同等のヘッドスピードとボールスピード。感動を超え、狂気を感じるほどの球を飛ばし続けていました。持ち球は一貫して中高弾道のドローボール。スピン量は目測2000回転中盤。ロングドライブのルールは6球中1球の最長飛距離で競いますが、デシャンボー選手は6球中、4~5球はグリッドに叩き込みます。

アドレスはハンドアップに大きく構えます。ハンドアップさせると手首の可動域は制限されますが、強い体幹を生かした鋭い回転で速いヘッドスピードを引き出すので、スウィングプレーンの再現力がとても高い。

PGAツアーのときよりもテークバックからトップで左肩を深く入れますが、左ひじが曲がらずオーバースウィングにはなりません。6球中ほとんどでいい球が打てるのはこういったゴルフにつながる動作を崩さない姿勢にあると感じました。

インパクトの直後に左足がまくれ上がり、右足がねじれながら目標方向へ出ていく動作が印象的で、これはドラコンならでは。体のパワーを余すことなく伝えているんだと感じます。

この次元にたどりつく過程を考えると恐ろしいほどですが勉強になりました。帰国後はそれを生かしたレッスンや自分の飛距離と正確性の向上に役立てたいと考えています。

人柄は温和で、画面越しで見ていたよりもスタイルがよく、モデルや俳優のようでした。人気は異次元、彼が打席に立つと超満員のギャラリースタンドでは隣と会話できないほどのスタンディングオベーションが巻き起こります。スターとはこういう人物を指すのだと感銘を受けました。

デシャンボーのドラコンスウィングを
動画でチェック

B・デシャンボーの最終順位は6位。セミファイナルの記録は391ヤード。デシャンボーは6位賞金の約4000ドルを辞退、他選手の賞金配分に戻すようリクエスト。「ここで時速219マイル(97.9m/s)のボールスピードを出せたことは夢の実現のひとつ。自己記録を3マイル更新できました」

世界一流の飛ばし屋たちは
みんなハイドロー

優勝はカイル・バークシャー選手。前回の世界大会につづく連覇でした。目の前で見ていて、「1人だけレベルが違う」と感じました。大きく強靭で柔軟な肉体、美しく効率的なスウィングはフィニッシュで毎回ビタッと止まります。芸術的でした。競技会場の奥に山があるのですが、そこまで飛んで行ってしまい測定不能(記録としては455ヤード)に。思わず笑ってしまいました。

世界王者カイル・バークシャー
驚愕の455Yドライブ

バークシャー選手は恵まれた身長からダラリとリラックスした位置でグリップを握り、姿勢もリラックスして構えます。

テークバック始動の強い勢いでシャフトにしなりを生み出し、そのしなりを切り返しでもう一度しならせ、ダウンスウィングでは背中を強烈に丸め込んでさらにしならせます。3度のしなりをうまく引き出すスウィング。デシャンボー選手と同じく左ひじをピンと張った、ドラコン選手としてはコンパクトなテークバックで効率と確率を上げていました。軌道はややインサイドアウト、インパクト直後に左足を強く引き、体のストッパーを解除し、最大スピードでヘッドが駆け抜けていきます。

バークシャー選手と握手しましたが、今までの誰よりも手がぶ厚かったことに驚きました。生まれつきかトレーニングによるものか気になるところです。デシャンボー選手と同様のドローボールですが、誰よりも高い、超ハイドロー。

優勝したK・バークシャー。今大会の最長距離は455ヤード。フィールド奥の山まで飛んだため推定の距離。優勝賞金5万ドルを手にした。バークシャーを筆頭に強い踏み込みと回転で左足を後ろに引くフィニッシュは世界のトレンド

これは最新のドラコニストのトレンドですが、練習場の段階から上位選手はロースピンのハイドローで飛ばします。ハイティーでボールを高くセットして、アタックアングル(ヘッドの入射角)はかなりアッパーです。ハイドローを打つ理由として、フィールドの芝がふかふかでほぼキャリー勝負という環境もあると思います。下半身を強く使い、ヘッドを振り出す勢いで左足を後ろに引くフィニッシュの選手が多くいました。

カイル・バークシャーのスウィング【後方】

帰国後、編集部の方に打診されてこの体験記を書きました。いま素直に「本当に行ってよかった」と思っています。世界トップの技術を吸収して、自分自身だけでなく、それを皆さんに還元できると思うとワクワクが止まりません。171センチ・70キロの僕だって世界のベスト64まで行けた。ここにいたる技術、これから進化していく自分の技術、余すことなくゴルファーの皆さんに伝えていきたいと思います。飛ぶ理論さえ確立できればみんな飛ぶ。それを実証できるよう精進していきます。

週刊ゴルフダイジェスト2021年11月16日号より