Myゴルフダイジェスト

【さとうの目】Vol.218 ルーク・リスト「ゴルフができるだけでハッピー」

PHOTO/Tadashi Anezaki

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、静かな飛ばし屋ルーク・リスト。

PGAツアー最終戦、ツアー選手権が終了しました。今回紹介するのはツアーきっての飛ばし屋のひとり、ルーク・リストです。スウィングはパワフルというよりいたって静かで滑らか、軽く振っているように見えるのに飛ぶタイプ。誰もが「綺麗なスウィング」と口をそろえる選手のひとりです。同時に「ルーク・リストってまだ優勝したことがないの?」と不思議がられる選手でもあります。

シアトル出身の36歳。両親とも大学でオールアメリカンに選ばれるスイマーで、とくに母親は100m自由形の米記録を一時持っていたそう。自身も高1くらいまでやってローカル大会で勝ったりもしたようですが、スクラッチゴルファーだった祖父の影響で始めたゴルフのほうにハマったようです。

大学はヴァンダービルト大で、04年の全米アマでは優勝したライアン・ムーアと最後まで優勝争いを演じました。その活躍で翌年のマスターズに招待され、33位に入っています。プロ転向は大学卒業後の07年。長く下部ツアーで戦い、レギュラーツアーに定着したのは16年と、丸10年かかりました。

実は今回、リストを紹介するのは、改めてゴルフはメンタルのスポーツで、背負っている人生が大きく影響すると感じたからです。というのもリストは5月のバイロン・ネルソンから3週連続の予選落ち。この時点でシード権獲得はギリギリの状態でしたが、ここからなんと2試合を欠場します。優勝がありませんから、当然、複数年シードもありません。いよいよ今年は入れ替え戦か、もしかするととうとう花を咲かせずに消えていくのか……ふと、ボクもそんなふうに思っていました。

後にわかることですが、実はこの間、生まれたばかりの長男が呼吸器系の病気で集中治療室に入っており、奥さんは長男に付き添って看病、2歳半の娘は彼が付きっきりで世話をしていたそうです。

幸いにも長男の病気は回復し、7月のジョンディアクラシックからツアー復帰します。この試合でリストは2日目にはベストスコアの63をマーク、単独首位に立ちます。結局、4位タイに終わりましたが、「今、こうしてゴルフをしているだけでもハッピーだ」とコメントしています。長男にもしものことがあれば、ゴルフどころではなかったに違いありません。その翌週のバルバソル選手権でも首位と1打差の2位で最終日最終組で回り5位タイ、2週連続のベスト10フィニッシュで、シード権をほぼ確定させました。集中治療室でマスクをつけ生死をさまよった長男を思えば、「ゴルフができるだけでハッピー」というリストの言葉の重さを感じます。

下部ツアー、レギュラーツアーともドライビングディスタンス1位に輝いた経験を持つリスト。今季は312Yで8位(9月2日現在)ですが、課題はスタッツが示すようにFWキープ率(176位)やパッティング(SGパット・192位)でしょうか。しかし、あの飛距離は武器であり、来季こそ初優勝を見られるはずです。

「身長188cm、86kg。ツアー屈指の飛距離を誇るが、上下動がなく、大きくゆったりとしたスウィングアークは子どもの頃自由形の選手として活躍した水泳の影響か。恵まれた大きな体と柔らかい肩関節があるからこそできるスウィングでしょう」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年9月21日号より