【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.43 「カムバック、タイガー!」
PHOTO/Tadashi Anezaki
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
タイガー・ウッズの初来日のこと覚えてはる方おりますか?
1998年のカシオワールドです。その週、どういうわけかよう覚えておりませんが、僕は月曜日の早朝に会場入りしました。練習場に行ってみると選手は誰もおらんのに、カメラマンが何人かパラパラとおるのです。
「なんやろ?」と思っているうちに、カメラマンはどんどん増えてテレビも含めてカメラが30台ぐらいになったのです。
そこにタイガーが現れました。僕から3ヤードぐらい離れた打席に入ったので「ハーイ」と声をかけたら、タイガーもごく自然に「ハーイ」と返してきました。
みんなタイガーの連続写真を撮りに集まっておったんやね。
遅い時間やともっと選手がぎょうさん集まってしまうから、誰もおらん時間帯で写真撮影を済ませておこうと、主催者とマスコミが話し合って、月曜日の早朝ということになったんやと思います。
タイガーがちょっとウォームアップしてから「OK」と言ったら、一斉にバシャバシャバシャバシャですわ。
ひとしきりそれが終わって、僕が打ち始めたときにはカシャとも音はせんでした。
今年2月、タイガーは大変な自動車事故を起こしました。かなり深刻な怪我やと聞いていますけど、回復してツアーに復帰したら、アメリカ人は、こういうカムバックストーリーが大好きやから、米ツアーはごっつい盛り上がるやろうね。多分、ベン・ホーガンのカムバック優勝のとき以来になると思いますよ。
ホーガンは交通事故で骨盤の複雑骨折やったけど、奥さんの上に覆いかぶさって、庇っての怪我やったと報じられたので株を上げました。1949年4月のことです。その11カ月後の全米オープンで優勝してヒーローになりました。
そのころから比べれば、医学にしてもリハビリの技術にしても、今のほうがずっと進んでおるから、タイガーの復活優勝も、十分可能やと思うんです。
米ツアーにはブルックス・ケプカとかブライソン・デシャンボーとかダスティン・ジョンソンとか、すごい選手はぎょうさんおるけど、やっぱりタイガーでしょう、一番お客が呼べるスターは。ゴルフ界のためにも、頑張ってカムバックしてほしいものです。
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年8月10日号より