コーチとの出会いはSNS!? 石川遼が激動の1年を振り返る
TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Satoru Abe THANKS/パレスホテル東京
初めてコーチを付けて臨んだ2020年シーズン。コロナ禍もあり、不自由を強いられる1年となったが、どのようにモチベーションを保っていたのか。佐藤信人が石川遼の本音に迫った。
日本シリーズで行き詰まりを感じた
佐藤 昨年は大変な年だったけど、振り返るとどんな年でした?
石川 (緊急事態宣言などで)「不要不急」の外出を控えてってなったときに、自分の練習ってどうなんだろうって考えちゃいましたね。プロゴルファーは「ボールを打ってなんぼ」で、練習も仕事っていうところはありますけど、自分はそれを「仕事」と思ったことがなくて、自分が好きなことをやりに外に出ちゃいけないという……。そのときに、ボールを打てない不安もあって、ゴルフ人生で初めて、ボールを打たずに上手くなる方法はないかって考えるきっかけになりましたね。「脳トレ」じゃないですけど、自分のプレーデータを調べたりとか、番手ごとの飛距離をもう一度正確に出してみて、番手間のギャップを埋めるセッティングにしたりとか。ピッチングウェッジを48度にしてとか、ロブウェッジを58・5度から60度にしてとか、「1打」をどう合理的に削るかをずっと考えてました。
佐藤 2019年は、年間3勝して、世界ランキングも80位まで引き上げて、「さあ今年こそ」という感じで2020年を迎えたと思うんですが。
石川 正直、「日本シリーズ」(19年)での優勝って、自分が出せる力をすべて出し切った優勝だったんです。逆に言うと、あれ以上のゴルフができない状態。やっぱり、ドライバーで高い球を打つのが怖くて、全部、低い「スティンガー」みたいなショットで何とかしのいだという。
佐藤 1番ホールをドライバーの低いフェードで攻めていったでしょ? 見る側としてはすごくポジティブな戦略のように感じたんですけど、遼君はインタビューで「気持ち悪かった」って言ってて、それが意外だった。
石川 (日本シリーズ開催コースの)東京よみうりCCが、ああいう低いフェードを受け入れてくれるコースなので、まだラッキーでした。でも、あれってPGAツアーじゃ絶対に通用しないなと。あれ(低いフェード)も打てるし、ハイドローも打てるというならいいんですけど、「あれしか打てない」、これ以上のゴルフはできないという、ネガティブな印象でしたね。
佐藤 じゃあ、年間3勝したけど、「もう一回、海外行くぞ」というよりは、「しっかり立て直さないと」という感じだったと。
石川 はい。去年の1月、2月のころも、まだすごく悩んでて……。「日本シリーズ」で、応急処置的な感じの低いフェードで4日間生き残り続けて、それで勝ってしまったので。でも、自分の中では、ハイドローで300ヤードを目標にしていたはずなのにな、と。周りが期待したり、評価したりしてくれる感じと、自分自身が悩んでいる状況に、すごく相違がありましたね。それでまあ、自分ひとりで求める球が出るまで必死に球を打ち続けたり、毎日やることを変えて練習したりしていたんですけど、そのときに田中(剛)コーチに連絡をとって、「ホンダクラシック」(20年2月27日~3月1日)から帰ってきたタイミングで、初めて会ったんです。
佐藤 田中コーチのことは、どうやって知ったんですか。
石川 SNSですね。田中さんがプロのスウィングも分析をしている投稿があって、自分の悩みをズバリ言い当てられたので、それで会ってみようと。
「インパクトのライ角が7、8度は変わりました」
佐藤 遼君がいちばん気になってたことを、SNSで田中コーチが言い当ててたってことだったけど、それは具体的にどの部分だったんですか。
石川 やっぱり、ドライバーのインパクトで手元の位置が高いというところですね。アドレスの手元の位置との差がすごくあって、それがもう「何をやっても直らない」っていうくらい、永遠の課題だったんですけど。
佐藤 田中さんはデータ分析に強いイメージだけど、スウィングのメカニカルな部分のやり取りもするの? (試合会場で)よく、よしかず君(キャディの佐藤賢和氏)が動画撮って、それを送って電話したりしてたけど、あれは田中さんと話してたのかなって。
石川 バレてましたか(笑)。「日本オープン」(20年)のときは、賢和さんに担いでもらっていて、田中コーチは来れなかったので、リモートで。最後のほうは、ビデオ通話で、ライブでやってましたね。去年1年はずっとトップの位置を「コンパクトに」、「フラットに」ということをやっていて、それをドライバーでどこまでできるかというのを突き詰めてきたんです。根本的には、シャフトプレーンを改善したいというのがあって、そのためにはやっぱり上げる位置(トップ)を変えなきゃダメで。直したいのはダウンスウィングの途中の部分ですけど、そもそもそこがよくないのは、トップが原因だよね、という流れで。
佐藤 遼君は元々、トップでシャフトが少しクロスして入っている時期があって、それをフラットな、レイドオフっぽいイメージにして上手くいくというところがあったと思うんだけど、手元の「浮き」の部分は確かに、最終的にそこが修正されてくればという感じでしたね。
石川 この9カ月で、インパクトのライ角が7~8度くらい変わってきたんです。
佐藤 ドライバーで?
石川 はい。だから、自分にとって今まででいちばんいいスウィングになっているのは間違いなくて、感覚的にもかなりいいです。あとは慣れというか、そのいいスウィングで、どうやって結果を出すか。昨年は、結果にはあまりフォーカスしてなかったんですが、その中でも自分たちが思っているよりはいい結果が出せたので、本当にいい方向に向かっていると思います。
佐藤 「田中コーチ効果」ですね。それにしても、まったく面識のない人に連絡するのは勇気がいったんじゃないですか。
石川 家族はちょっと警戒してましたね。マネジャーに連絡してもらったんですが、「遼がやりたいことなら」ってすぐにやってくれて、そこはさすがだなと思いました。
「パー5のスコアがこれからの人生でいちばん重要かな」
佐藤 田中コーチとのやり取りの中で、ふたりがいちばん重視していることは?
石川 ゴルフ自体の再現性ですね。自分はスウィングの再現性を求めてきたんですけど、そうじゃなくて、同じ「69」でも、たまたま出た「69」なのか、再現性の高い(またいつでも出せる)「69」なのか。(ブライソン)デシャンボーが、インタビューで「リピータビリティ」(repeatability。「再現性」、「繰り返し能力」の意)という言葉を使っていたんですけど、そこに今はフォーカスを当てています。
佐藤 結果にはあまりこだわっていなかったということですけど、何かの番組で「パー5の平均スコアにこだわっている」と。
石川 コースの距離が長くなってきていて、パー「70」ということも多いので、2つしかないパー5でいかにスコアを縮められるかが大事になってくると思うんです。2オンしたところだけ取れればいいということじゃなくて、3打目の精度を上げていかなくちゃいけない。そこはコーチとスタッツ(ショットデータ)を共有してやっています。
佐藤 データを見ると、今年はパー5のボギーがひとつもない。
石川 ホントですか!?
佐藤 ダボが2個あるけど(笑)。
石川 まあでも、2オン率が下がっているのに、バーディを取れているのは、今までの自分にはなかった部分です。去年は50ヤード以内を徹底的にやりました。一昨年までは30ヤードくらいまでしか1~2メートルに寄せられなかった精度を、35、36、37という感じで1ヤードずつ、1年かけて伸ばしていくイメージで、去年の最終戦のころは50 ヤードくらいまで感覚が出るようになってましたね。そうすると、たとえば600ヤードのパー5でも1打目、2打目を280ヤードずつ打てば、残りが50ヤード以内なので、バーディが取れる。なら、必ずしもドライバーを打つ必要がなくなるんですね。パー5の決め事として、60~80ヤードは残さないようにしようと。そうなりそうなら、むしろ100ヤード残す。だから、その距離はほとんど練習してないんです(笑)。たまに、どういうわけか60ヤードくらい残しちゃって、そこから6メートルにしか寄らないとかだと、「今の攻め方、何?」、「ショットの根拠は?」って、田中コーチから激しくツッコミが入ります。
「喜ぶのが上手い選手は試合運びが上手い! ピーター・マルナティとか(笑)」
佐藤 遼君は初優勝が15歳で、18歳で賞金王。もうベテランで、普通ならバーンアウトしても(燃え尽きても)おかしくない。
石川 ゴルフって長くやれますけど、だからこそ難しいですよね。今、長くやっている選手って、根本的に「パッション」(情熱)があるんですよね。技術が高いのはもちろんですけど、それは割と2番目な感じがします。
佐藤 昨年は初めてコーチをつけたことで、パッションがまた1段階上がった感覚がある?
石川 ありますね。今までそこが下火になったことはないんですけど、田中コーチも自分もゴルフが好きすぎて、食事に行ってもゴルフの話が止まらなかったり、より楽しくなっちゃってる感じはしますね。次は、技術として「メンタル」をコントロールしたいって、今は話してます。
佐藤 PGAツアーの選手は、その辺うまいよね。
石川 うまく喜べる人は試合運びも上手いんじゃないかなと。ピーター・マルナティとか(笑)。
佐藤 日本人選手だと?
石川 (金谷)拓実がずば抜けてますね。自分なら心が折れるなってときも、イライラが外に伝わってこない。もうボクの理想のゴルファー像ですね。
週刊ゴルフダイジェスト2021年1月19日号より