【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.37「勝負師、倉本さん」
PHOTO / Masaaki Nishimoto
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
関西プログランドシニアで倉本(昌弘)さんと優勝争いをして、完敗した話です。
初日にOBを1発打って、そのホールをボギーにしたことを除けば、僕としては絶好調の2日間やったのです。ただ2メートルぐらいのバーディパットを6、7回外したのは痛かったですけど。
2日目(最終日)の12番にくるまで1打倉本さんに勝っていました。僕は、このパー5で刻んでピンの上1メートルちょっとに3オンしておりました。
倉本さんは2打でグリーンの手前です。そのアプローチが僕のボールに当たって止まりました。弾かれた僕のボールを戻すと2つとも同じ位置です。
どっちが先に打つんですかね」と言ったら「じゃあオレが先に打つよ」と倉本さんが打ったら入ってバーディです。同じところから打った僕は外れてパー。こういうのが勝負の綾というんでしょうね。これで並ばれてしまいました。
残り3ホールでも似たようなことがありました。1ピンぐらいの距離やったんですけど、僕のほうが1センチほど遠くて、先に打ったら外れてパー。倉本さんはバーディです。
そして最後のパー5でイーグルを取って、倉本さんがパーならプレーオフやな、とか考えながらプレーしておりました。18番で左6メートルに2オンです。倉本さんの2打目はバンカーです。「これはもしかすると思惑どおりやないかと」と思いつつ倉本さんのバンカーを見ておったら、1ピンぐらいにしか寄らなかったんです。
せやけど、僕のイーグルパットは外れてバーディ。倉本さんもきっちりバーディ。会場は広島GC鈴が峰C。倉本さんが育ったコースです。さすがに知り尽くしておりました。完敗ですわ。
倉本さんというと何でも機械的にコンピューターみたいな印象がありますけど、ほんまは、めちゃくちゃ感覚派ということもわかりました。「今のはスライスと読んでましたよね」と聞くと、「あれは真っすぐなんだけど、フックの気持ちで打たないと入らないんだよ」と言うのです。
フックの気持ちで打つ。これはだいぶ感覚派やないですか。そういうのは、言動とか所作にも出ています。ボールのところに行ったらサッと打つ。こういうのはマニュアル人間にはなかなかできないことなんです。今回一緒にまわらせてもらって、改めて感じたことです。
フックの気持ちで打つとは……。
気持ちが球をつくる。これこそ感覚派!
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月29日号より