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【インタビュー】上原彩子<後編>「思うようにならないことが当たり前」ツアー最年長でも挑戦し続けられる理由

プロ入り23年目を迎えた上原子。日本で10年、アメリカで10年、シード選手として戦ってきたが、昨年から新たにヨーロッパという舞台で再びシード選手として存在感を出している。なぜ上原はこんなにも長く活躍し続けられるのか? 引き続き話を聞いていこう。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、本人提供

上原彩子 うえはら・あやこ。1983年沖縄県那覇市出身。12歳でゴルフを始め、おかやま山陽高校卒業後04年プロ入り。日本ツアーで3勝を挙げ、14年から米LPGAツアーに本格参戦。現在は欧州女子ツアーメンバー。リンクスコースが好み。「日本では川奈、アメリカはミッションヒルズが好きです」

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思うようにならないことが
当たり前

今年、欧州シニアツアーに参戦した“ルーキー”の横田真一が、「シード権を取れるなんてとにかくすごい、尊敬します。どうしているのか聞きたい」と言っていたと伝えると、「私こそ、いろいろと教えていただきたい。横田プロのYouTubeも見て勉強させてもらっているんです。面白いですし」。横田は、ゴルフが上手くいかなくて、心が折れることもあったそうだ。

「ゴルフって皆そういうときはあるし、私もです。上手くできない自分にうんざりするけど、自分に期待している部分もあって、『もっとできるはず』という自分がいる。でも、そんなときもあると思って調整し続けるしかないですよね」

2年目の“慣れ”は大きい。昨年プレーしたコースも多く、特徴を把握して参戦できる。食事や宿泊でもつらい思いはあまりしない。

「もちろん日本のように何もかもうまくはいかないですよ。でもそれも楽しんでいるというか、思うようにならないことが当たり前っていう感じ。飛行機が遅れて荷物が届かないことも当たり前だし」

あるがまま――ゴルフの精神通り、だから長く続けられる。

「とんでもない宿もありましたよ。オーストラリアではゴキブリが大量にいたり、アメリカではネズミが出たり(笑)。でもとにかく寝ないといけないから、ベッドの上だけには来ないように置いてあった殺虫剤を寿乃さんがそこらじゅうにまいてくれました」

キッチン付きの宿を探すためAirbnbを利用している。値段はオフィシャルホテルの1/3~半分くらいだという。

「オフィシャルホテルでも安くなったりするし、移動手段も付いているのでレンタカー代を考えたらトントンのこともあるから利用することもありますけど、一番は食事。自炊のほうが断然体の負担がないです。ずっと外食はつらい」


「ずっと新しい発見がある
苦しいとは思わない」

ツアーは雰囲気も選手も“フレンドリー”だという。

「アメリカだと、シリアスな雰囲気もあって。ちょっとピリピリしているかな。ヨーロッパツアーから行った選手で精神的につらくなった人もいます」

世界最高峰のツアーとしてのプライドや戦いがあるのだろう。

「それにしても今、アメリカで日本の選手たちがすごく頑張って活躍してますよね。皆、飛ぶし上手いけど、知らない場所に日本の仲間がいることは心強いし、同世代の活躍は刺激になります。私がいた頃の韓国選手がそうでした。個々の実力はもちろん、常にコミュニケーションと団結力があった」

そんななかで上原は10年戦っていたのだ。

「(チョン・)インジと一緒に回っているときに、『長くやっているけど、モチベーションはどこから来るの?』と言われて。LPGAにはパッと花咲くけど一気に自分を見失ったりやりがいをなくすという選手も結構いるんです。パク・セリが引退するときに、『勝ったその瞬間はいいけれど、そのうち寂しさが出てきて満足感が何も得られないようになってくる。だから、これからの選手たちには、ゴルフを楽しむ気持ちを忘れないでほしい』という感じのことを話していました。私は毎週新しいことを楽しんでいるほうなので、そういう話を聞いて衝撃的でした」

日米欧のツアー仲間たちにも「なぜ、そんなに続けられるの?」とよく聞かれるという上原。

「モチベーションがどうしても落ちるんだそうです。私は逆に、その感覚が全然ない。ゴルフが楽しいし、できる限りやりたいと思う。まだまだ上手い選手も多いのに、なんでやめちゃうのかと……」

多くの選手はやめるタイミングを探すが、上原にはやめる選択自体がない。

「もちろん女子プロには、結婚や出産があって、そこは本当に難しい。私は出産を経験していないけれど、体も環境も全部変わるでしょう。だから(横峯)さくらちゃんなんてすごいと思います」

やめる選択がない上原は、やめなくていい流れを自分で作り、それに乗ってきた。自分が輝く場所を探し、シードを取り続けている。

「そもそも1年で素晴らしい17コースに行けるなんてありえない。こういうことができるのもゴルフのおかげです。いろんな国で昨年知り合った人に今年もまた会ったり、新たな出会いがあったり、見たことがないものを見られたり……ゴルフのおかげでもっと人生を楽しませてもらっています」

ゴルフと共に歩む人生。そこに終わりはない。

「ずっと新しい発見がある。苦しいって思わないです」

これこそが上原の最大の強みだ。上原の挑戦は、「ゴルフが楽しい」という思いに突き動かされて進む。だから、若い選手の飛距離や体力を目の当たりにしても、諦めにはならない。

「それぞれの特徴やプレースタイルがあるから、そこから学べることも結構多くて、逆に楽しい。今ってこんなスウィングをするんだ、自分がこの年齢だったときはこんなことできなかったけど、こんなにレベルが上がっているんだ、なんて思います。この前、すごく上手な16歳の子と一緒に回りました。私の子でもおかしくない年齢(!)だなあって。仲のいいタイのアンチーサ・ウタマも、すごくしなやかなスウィングをするんですよ。彼女は毎日朝と晩にヨガをやっていて、自分もそれを取り入れてみようと。実際に今、やっています」

学び、取り入れる。このしなやかな姿勢も上原の強さだ。

「それに、自分がやっているジュニアのイベントをもっと発展させるために海外の有望な若手選手を呼んだりしたいから、その選手を探したり、国ごとのジュニアの事情やレベルをチェックしている部分もあるんです」

長年チャリティ活動も続けてきた上原。来年3回目となる日米親善マッチの「フレンドシップ」イベントも、嘉手納基地内のコースで開催する予定だ。さらに、LET(欧州女子ツアー)を沖縄で開催するという目標もでき、すでに動き始めた。老若男女が協力し合って生活する“村”のような場所を作りたいという夢もある。

誰とでもすぐに仲良くなる能力も上原の強み。英語には不自由しないが、上原の不思議な魅力は人種も言葉の壁もひょいと越える

「ヨーロッパにもぜひ挑戦を!
私はそろそろ、勝ちます」

「インドや中国などで貧富の差を目の当たりにし、生まれで人生が決まったり、悲惨な環境で生活している子どもがいることを知りました。何とかできないかと思ってしまう。モロッコでは、学校に行ける子や行けない子がいて格差もすごくありながら同じ場所で生活しているけど、皆すごく幸せそうなんです。人間の在り方、本質的なもの、本当に大事なものは何かと考えます」 

世界を見て感じて。上原彩子にはやりたいことがどんどん増えてくる。

「そういういろいろなことを体調を崩すほど考えてしまうんですよ。パターをなぜ外したかよりも! 独特なんです。限界がわからないから、放っておくと練習でも何でもずっと続けてしまう。その鈍感さが集中力にもやりすぎにもなる。だから時間割をしっかり作らないと。それを守って継続する能力はすごく高いんです」 

8年来、上原を見てきた玉城は、上原の個性を強みに変える存在だ。

世界の男女ゴルフ界で、若手選手が台頭する今、LETのシード選手の顔ぶれもガラリと変わった。

「LETは数年前、米LPGAの傘下に入り、試合数が増えて賞金額も上がりフィールドもよくなってきた。それを見て私も参戦を決めたんです。それまでは試合数もどんどん減って、選手もアメリカに流れていた。年齢が高い選手、ママさん選手も頑張っているツアーという感じは素晴らしかった。そこは続いてほしい部分でもあります。でも、昨年は私より上の選手が2人いましたけど、今年は私が最年長かもしれません」

LETでトップ10に入ると米LPGAのファイナルQシリーズ受験の権利を得られる。

「本当によい選手もいて、アメリカでも全然通用すると思います。だから、せめてトップ5までは、男子のように直接米ツアーに行けるようにしてもいいと思います」

LETが日本の若い選手の選択の一つにもなると感じている。

「いろいろな技や考え方のバリエーションが要求されるツアーだと思うので、ここでもまれてアメリカに行くということもいいと思います。ヨーロッパで自分のキャディを雇っているのはトップ20の選手たちだけ。ゴルフは自分で考えて組み立てていく必要がある。その意味でも自分の技術を磨くベース作りになると思うんです」

来年の目標は、ズバリ優勝。

「海外での1勝はずっと目標。今年も勝てそうで勝てなかったのでちゃんとつかみ取りたい。4位になったオランダでは、最後のバックナインはずっとピンには絡むけれどパットが入らなかった。ゴルフって流れがすごく大事です。ここで踏ん張れる、踏ん張れない、流れをどう引き寄せるか、断ち切るか、すべて自分次第ですから」

クリスマスあたりから、沖縄でトレーニングを開始する。

「気合、入ってます。来年は休みなく出られるように、安定したスウィングのために。初戦は2月中旬のサウジアラビアかな」

上原彩子は2026年も、強くしなやかに、自分で流れを作りながら進んでいく――。

スポンサーのエナジックのボトルを持って。上原の周りにはエコやサステナビリティ社会を目指す人々が集う。「世界で展開している還元水の会社でメジャーリーグなどスポーツの支援にも力を入れています。思いが一緒の企業さんに応援してもらえて嬉しいですね」

週刊ゴルフダイジェスト2025年12月30日号より