Myゴルフダイジェスト

「コーチは体の専門家」「キャディは水戸の工房店主」畑岡奈紗の復活Vを支えた立役者たち

日本で唯一開催される米女子ツアー公式戦「TOTOジャパンクラシック」。最終日が大雨の影響で中止となったため、3日目終了時点でトップタイに並んでいた畑岡奈紗と荒木優奈によるプレーオフとなり、1ホール目をパーとした畑岡が優勝。2022年4月以来、実に3年ぶりとなる優勝を果たした。

3年半ぶりの復活優勝を支えた「チームNASA」の面々

「キャディさんが先に泣いちゃったんで、私もつられて……」

プレーオフ1ホール目のパーパットを沈め、3年半ぶりの優勝を飾った直後、畑岡奈紗の目から涙があふれ出た。

3年半という歳月は、他のプレーヤーにとってはそこまで長い期間ではないかもしれないが、2016年のアマチュア優勝から毎年のように勝利を重ねてきた畑岡にとって、限りなく長く苦しい時間だったに違いない。

畑岡が最後に優勝した2022年4月以降、古江彩佳(2022スコットランド女子OP、2024エビアン)、稲見萌寧(2023TOTO)、笹生優花(2024全米女子OP)、竹田麗央(2024TOTO)、そして今年に入ってから、日本勢5人が米女子ツアーで優勝を飾っている。それも全員が、畑岡よりも若い世代だ。焦りがないはずがない。

とくに悔やまれるのが、2024年6月のショップライトLPGA。初日6アンダー4位タイと好スタートを切ったはずが、2日目のスタート前に前日のルール違反が現地メディア関係者の指摘で発覚。まさかの失格となった。折しもパリ五輪の代表争いの真っただ中で、出場2番手に付けていた畑岡にとって、重要な意味を持つ試合だった。そのショックもあり、続く全米女子プロは86位で予選落ち。五輪出場をも逃し、打ちひしがれる思いだっただろう。

体の専門家がスウィングコーチに

それでも、ひたむきに自分と向き合い、ひとつひとつ課題を克服しようと練習に励む畑岡の周りには、自然と人が集まってくる。その一人が、今季からスウィングコーチを務める髙田洋平氏だ。

髙田氏は、アメリカで理学療法士として長年スポーツリハビリに携わり、ニューヨーク、ダラス、東京にクリニックを開院している“体の専門家”。そんな髙田氏が、どのようにして畑岡のコーチを務めるに至ったのか?

「2023年の最終戦が終わったあと、畑岡プロがフロリダからダラス経由で日本に帰る途中、飛行機トラブルでダラスに1泊することになったのですが、そのときに、たまたま知り合いを通じて紹介してもらって、体を診させてもらうことになったんです」

偶然の出会いがきっかけで、2024年シーズンは要所要所で体を診る程度だったが、体の専門家としての視点から、スウィングについてアドバイスすることもあったという。ゴルファーとしてもスクラッチレベルの腕前を持つトップアマということもあり、髙田氏の指摘は畑岡にとっても的を射たものだったようだ。

「今年の初めに、畑岡プロからスウィングコーチとしてお願いできませんか? というお話があって、最初は『僕でいいんですか?』と思ったんですけど……」

アマチュアさえ教えたことなかった髙田氏が、なんと日本を代表するトッププロのコーチを務めることに。

もちろん、信頼できるコーチが付いたからといってすぐに結果が出るものではない。それでも根気強く、ひとつひとつスウィングをより自然な動きにシフトしていった結果、徐々に試合でも成果が実り始める。

5月のサロンパスカップではキャディも務めた髙田氏

8月末のFM選手権で11試合ぶりにトップ10入りを果たすと、その後立て続けにトップ10に入り、10月のBMW女子選手権で2位。

ハワイから上海、韓国、マレーシア、日本と目まぐるしい移動と激しい気温の変化のなか好調をキープし、迎えたTOTOジャパンクラシック。初日「65」を出し首位発進すると、2日目、3日目も着実にスコアを伸ばし、トップタイをキープ。最終日も、雨の降りしきるなかバーディ発進し、その後も完璧なまでのショットコントロールでビタビタとピンを差した。

結果的には5番ホールで大雨によるコースコンディション不良のため第4ラウンドが中止となってしまったが、ショットの内容的にも、纏っていた雰囲気的にも、もし18ホール回っていたとしても勝利できていたのではないか。そう思わせるほど充実したプレーぶりだった。

初キャディで米女子ツアー優勝

ちなみに今回キャディを務めたのは、長年の相棒であるグレッグ・ジョンストン氏ではなく、木名瀬和重さん。この名前を聞いてピンとくる人もいるかもしれないが、茨城では有名なトップアマにして、水戸で「クラブ工房キナセ」を営むクラフトマンでもある。

畑岡がジュニアの頃から親交があり、畑岡が日本に帰国した際には息子さんも交えラウンドを共にするなど家族ぐるみの付き合いがある。

「実はずっと『一度でいいからキャディをやらせてほしい!』と畑岡プロに言っていたんですが、なかなか機会がなく……。で、今回たまたま『TOTOならいいですよ』と言ってもらって」

初めてのキャディで、米女子ツアー優勝。こんなに“持ってる”人はなかなかいまい。「体中バキバキ」と言いながらも、野球で鳴らした体力と、持ち前の気遣い力で、堂々たるサポートぶりを発揮。なかなか見られない畑岡の涙を引き出したのも、先に泣いてしまった木名瀬さんの力だ。

大雨の中、献身的なサポートでキャディの重役を果たした木名瀬さん。「ちょっと弱かった」と畑岡が感じた2メートルのパーパットは、チームNASAの思いが乗ったかのようにカップに吸い込まれた

過酷な転戦生活を支える功労者

そして忘れてはならない最大のサポーターは、母である博美さん。ほとんどすべての試合に帯同し、精神面、食事面でも娘を支えてきた。

米ツアーは移動だけでも重労働。フロリダ州オーランドに拠点を置くが、会場から会場へと飛び回る生活で、オーランドの家に戻ることは少ない。転戦生活では食事も不規則になりがちだが、キッチン付きのコンドミニアムや民泊などを利用し、栄養士の指導を受けながら、体に良い食事作りを行っている。常に最高のパフォーマンスを発揮するうえで重要な体調管理の側面を母が担ってくれるというのは、選手にとってこれほど助かることはない。

優勝できなかった3年半は、常に行動を共にする母にとって、もしかすると本人以上に長く苦しい時間だったのかもしれない。畑岡奈紗の活躍を支える影の功労者は間違いなく博美さんだ。

「最終戦はグレッグと勝ちたい」

地元アメリカで今回の吉報を聞いたはずのエースキャディ・グレッグとともに、CMEグループ・ツアー選手権で優勝カップを掲げる姿が見られることを期待せずにはいられない。

次はグレッグと……!

こちらもチェック!