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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.873「年齢や年数でベテランや若手と判断すべきではありませんね!」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

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全英女子オープンで山下美夢有選手が勝ち、初日から日本人選手の大活躍に沸いて興奮しました。「頭が真っ白になった」と岡本さんが解説でおっしゃっていましたが、この試合についてどのようなご感想をお持ちになられましたでしょうか?(匿名希望)


山下選手が最後のパーパットを沈めた瞬間は、感極まり震えるような口調で思わず「やったぁ!」と解説席で歓声を上げてしまいました。

解説が終わったあと友人から「アヤコさんまるで観衆だったね」とLINEが来ました(笑)。

緊迫した試合展開に、なんとかスコアをキープして勝ち切ってほしいという期待で息が詰まりそうになっていたのは確かです。

山下美夢有選手、おめでとう!

4日間を戦い抜き、ほんとうによく我慢したと思います。

ホールアウトする際に一緒に回ったキム・アリム選手が優しくハグをするシーンもありましたが、その身長差を見てあらためて、山下選手が勝ち取ったタイトルの大きさ、快挙の重みにも思いが至りました。


山下選手の身長は150センチとLPGAの平均に比べてかなり小柄。

同組のメジャー優勝経験のあるアリム選手は175センチと長身の飛ばし屋で、今大会での平均飛距離も出場選手中のトップクラスでした。

体格差を考えても、つかんだ栄冠はことさら尊いと感じます。

ちなみに、最終日のティーショットで見比べる限り、山下選手のボールが遠く後方に置き去りにされるというシーンはそれほど多くはなかったように思いました。

フェアウェイが硬く締まっているリンクスなので、ボールがよく転がるからだと思いますが、逆に正確なポジショニングこそが求められました。

また、グリーンが重かったのは、強風が吹くとボールが動いてしまう可能性があるからだったと思います。

そのためなのでしょうか、慣れない遅いグリーンに戸惑うプレーヤーがパッティングに苦しむケースが頻発しました。

初日を終えリーディングボードには、トップからズラリと6人の日本人選手が並びました。

20年近くトーナメントの解説席に座ってきましたが、海外のメジャー大会でこんな成績表を目にしたのは初めてです。

2019年に全英女子オープンで渋野日向子選手が優勝して以来、日本人選手がたびたびメジャーの優勝争いに顔を並べ、実際に優勝してきました。

日本人選手が女子ゴルフ界をけん引するのは、もはや当たり前なのかもしれません。

今回、もっとも印象付けられたのは、山下選手の驚異的な修正力です。

2日目単独トップに立った山下選手は、3日目のラウンドではティーショットを左右に曲げて苦しみ、首位をキープしたもののどうなるのか心配されました。

しかし翌日の最終日、躊躇なくドライバーを手にする彼女のプレーは、いつもと変わりのない落ち着きと自信に満ちて見えました。

これはすごい。

3日目ホールアウト後、彼女はわずかなズレを冷静に見つめて修正した。

今大会中に誕生日を迎えて24歳になったと聞きましたが、すでに若手ではないと思いました。

そして、同じ年数のキャリアがあったとしても、その間の経験を自分の財産にして成長する度合いは人によって違うのだということも感じました。

年配者は、若手の年齢や年数だけで思考も技術も若いと考える人が多くいますが、そういう偏った思考を持っているようでは時代に取り残されていくと今回の山下選手を見ていて私は感じました。

今大会は、男女を通じ全英オープンが初めてウェールズで開催された画期的大会ともなりました。

女子の全英がメジャーに昇格したのは2001年とまだ日が浅いですが、新しい歴史が書き込まれていく最前線に立つのが、わたしたちの頼もしい後輩たちかもしれない。

表彰式を終えて、ホッとしたような山下選手の表情を眺めながらそう思っていたら、なんだか武者震いがするような気もしてきました。

「決めつけ思考をやめると、視野が広がってワクワクすることが増えますよ!」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年9月2日号より