「ゴルフで嬉しくて泣いたのは初めてです」関西オープンで初V! 金子駆大の闇と光

第90回関西オープンゴルフ選手権競技を制した金子駆大。最終ホールでウィニングパットを決めた瞬間天を仰ぎ人目もはばからず大粒の涙を流した。その涙には、嬉しいだけでなくたった22年の人生のなかで味わったつらくて悲しい深い意味も込められていた。
PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/関西オープンゴルフ選手権

順風満々に見えるゴルフ人生
しかしその裏には…
ツアー初優勝なのだから泣いて当たり前。普通の人ならそう思うだろうが、金子がこれまで歩んできたゴルフ人生を深く知る人たちにとっては、いろいろな思いが込み上げる優勝シーンになったに違いない。
その証しにグリーン周りで金子の優勝を祝福しようと帰らずに待っていた選手の数は類を見ないほど。関係者も入れるとかなりの数の人が金子の優勝を喜んだ。小斉平優和や竹山昂成らジュニア時代から金子を知る選手にとってもグッとくるものがあったに違いない。
名古屋市出身の22歳の金子は、ジュニア時代から数々のタイトルを手にし、高校3年生で日本プロゴルフ協会の認定プロテストに一発合格して周囲を驚かせた。
順風満帆のように見えるゴルフ人生だが、週刊ゴルフダイジェスト連載『ありがとうの闇』で語ってくれたジュニア時代の記憶は衝撃的なものだった。3歳でゴルフを始め、小学校に入る頃にはすでに父親から手を上げられていた。


長年のゴルフ界の問題となっている親から子への指導という名の暴力。金子はまさにその中心にいた。もちろん、暴力の良し悪しに昔も今もないことだが、金子のジュニア時代はそれがある意味で当たり前に取られている部分があった。しかも、暴力を受けていた金子が結果を残していたことが厄介で、そうしなければ上手くならないという風潮さえ残念なことにジュニア界では広がっていた。
野球にしてもサッカーにしても一昔前の部活といえば、顧問や先輩からの鉄拳は当たり前のように行われていた。ただ、ゴルフがそれらのスポーツと違うのは個人スポーツという点にある。特にジュニアは親の送迎がなければ、練習にもコースにも行けない。ゴルフを始めたキッカケが親というジュニアがほとんどなことからも、親からの指導は当たり前。親と子という関係は、当然家に帰ってからも続くわけで、人目に触れないことで行き過ぎた指導からの暴力がどんどんエスカレートしていく傾向があるとも考えられる。
金子の母・久美さんは、金子が中学生の頃に出場した地方大会で宿泊先のビジネスホテルの隣の部屋から「ドタッ! バカンッ! ドカンッ!」とものすごい物音とともに父親らしき人が怒っている声を聞いた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」と泣きながら謝る女の子の声を聞いて、金子に「あなたもこんな感じだったの?」と聞くと「いつもこんなんだよ」と答えた。久美さんは、金子を守れなかったことを今も後悔しているという。
「今でも子どもの成績が悪いと暴力を振るっている親がいると聞きますが、子どもの成績による親同士のマウントの取り合いになっていることもあります。そんなことで子どもたちが犠牲になっていると思うと本当にかわいそうでなりません」(久美さん)
両親の離婚を機にゴルフをやめる選択はあったが、金子は母に「ゴルフを続けたい」と伝えた。つらく悲しい思いばかりのゴルフだが、ゴルフがよりどころでもあり心の底ではゴルフが好きだったのかもしれない。
平田憲聖から言われた
「次はオレの前で勝て」
優勝会見の際「自分はよく泣くほうなんです」と答えて、そのあと「ゴルフではいつ泣きましたか?」と問われて、「それはちょっと」と苦笑いしながら回答しなかった。
金子はこれまでゴルフで嬉しくて泣いたことがない。その代わりに、悔しくてつらくて流した涙は数え切れないほどある。その思いがウィニングパットを沈め、グリーンサイドで見守っていた母・久美さんを目にしたときに一気に溢れた。これまでの苦しかったことが思い出されたのだろう。母をハグしたシーンは多くの人を感動させた。
2020年にツアープレーヤーに転向して22年、23年とACNツアー(当時のABEMAツアー)を主戦場に腕を磨いた。24年からレギュラーツアーに本格参戦し、いよいよ今年悲願のツアー初優勝を手にしたわけだ。

ジュニア時代はゴルフをやらされている感覚だった金子が、この数年は目澤秀憲コーチに師事したり、パッティングコーチに橋本真和氏を招聘するなどレベルの向上に努めている。もちろん上手くできないこと、スコアに反映されないことも多くふてくされる時もあるが、今の金子は昔とは違い自主的に上手くなろうとしている。
目標は海外でプレーすること。ゴルファーとしても人としても尊敬し、親交が深い先輩・平田憲聖からは「次は俺がいる前で勝て」と祝福のメッセージが送られてきたそう。下部ツアーからPGAツアーへの昇格を目指しアメリカで戦っている平田だが、それは早くこっちへ来いとも取れる金子へのメッセージだったのかもしれない。
暴力を受けたことを言えて
気持ちが軽くなりました!
親からの暴力。一般的にはトラウマになって当たり前のことだし、それを口にすることで当時のことを思い出すこともあるだろう。そんな過去は心に閉ざしておきたいのが普通だが、金子は自分と同じようなジュニアがなくなることを願って『ありがとうの闇』の取材を承諾してくれた。手前みそかもしれないが、本誌連載で赤裸々に語ったことで、ある意味で金子は背負ってきたつらい過去から解放されたのかもしれない。
「あの取材を受けてから気持ちが軽くなりました」(金子)
心の闇が晴れ、心の底から大好きなゴルフを楽しめるようになった金子の今後の活躍に期待したい。

週刊ゴルフダイジェスト2025年6月10月号より