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ニクラス、タイガー、松山英樹…マスターズの名場面を振り返る

1934年に「オーガスタナショナルインビテーション」として始まったマスターズ。36年に陳清水と戸田藤一郎が日本人として初めて出場を果たし、東京放送(現TBS)が67年から地上波での放送を開始。当初は録画で翌週に放送していたが、76年から生中継に移行。今年、日本でマスターズ生中継が始まって50周年を迎えるが、その間には松山英樹の優勝をはじめ、いくつもの名勝負が繰り広げられてきた。

PHOTO/Taku Miyamoto、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Blue Sky Photos、Getty Images

マスターズの歴史を彩った名勝負

1986年 ジャック・ニクラス
6度目の優勝を史上最年長で飾る

前年の全英オープンと全米オープンで予選落ちを喫し、年齢的な衰えが顕著になっていたニクラス。「もう限界」と多くのファンが考えるなかで、最終日のバック9で「30」を記録。最終ホールで首位タイに並んでいたグレッグ・ノーマンがボギーとしたことで46歳2カ月23日という最年長優勝を記録した。

1995年 ベン・クレンショー
恩師に捧げる涙の優勝劇

試合の前週に名コーチとして数々のトップ選手を育ててきたハービー・ぺニックが急逝。クレンショーの師でもあり、恩師を失った悲しみを胸に4日間を戦いぬき見事優勝。「私にはハービー・ぺニックという15本目の心強いクラブがあった」と語り、亡き師とともに勝ち取った栄誉だった。

1996年 ニック・ファルド
6打差を守り切れずノーマンが逆転負け

3日目を終えてグレッグ・ノーマンが6打差をつけて単独首位に立ったが、最終日に78と大崩れして、ニック・ファルドに大逆転負け。3度目の優勝となったファルドは喜びを爆発させるのではなく、優勝を逃したノーマンを静かに慰めた。試合後ノーマンは「またマスターズに負けたと言ったって、この世の終わりじゃない」と語った。

1997年 タイガー・ウッズ
21歳でマスターズ初制覇 

プロ転向後、初出場となった大会で2日目に首位に立つとそのまま独走して2位に12打差をつける圧勝劇で最年少優勝を達成。優勝スコア18アンダー、2位との差も大会レコードを更新するなど、新時代の到来を実感させた。この圧勝劇は歴史あるマスターズ自体を動かすことになり、セカンドカットの芝を伸ばしたり、コース延長に着手するようになった。

2003年 マイク・ウィアー
レフティ初のマスターズ制覇

左ドッグレッグの多いオーガスタナショナルだけあって右打ち有利と言われていたが、その定説を覆す優勝。その後、フィル・ミケルソンやバッバ・ワトソンなどレフティたちがウィアーに続く形で優勝。道具の変化などにより、フェードを武器にする選手が多くなったことで、レフティ有利とまで言われるようになった。

2019年 タイガー・ウッズ
11年ぶりのメジャー優勝 

度重なる怪我を乗り越えて、08年全米オープン以来となる11年ぶりのメジャー15勝目を挙げたタイガー。最終日に2打差の2位から出ると、一時2打差に10人以上が並ぶ大混戦になったが、15番のバーディで単独首位に立つとそのまま逃げ切り。「息子が喜んでくれ、父親としての役割を果たせた」とタイガー。

2021年 松山英樹
日本人が挑戦して85年、ついに頂点に 

1936年の第3回大会に陳清水と戸田藤一郎が日本人として初出場を果たして以来、85年。1973年にジャンボ尾崎、1986年に中嶋常幸が8位タイ、2001年に伊澤利光が4位タイ、2009年に片山晋呉が4位に入るなど活躍。その後、松山が2015・16年と連続でトップ10入りを果たしていたが、ついにグリーンジャケットを獲得した。4打差の単独首位で最終日を迎えると、何とか逃げ切って優勝。TBSの解説を務めた中嶋常幸と宮里優作、そしてアナウンサーが感涙にむせび、約55秒間沈黙してしまった。

名物ホールで起きた悲劇と軌跡
今年はどのホールでドラマが⁉

2023年から35ヤード延ばされた13番パー5など、これまで改修を繰り返してきたオーガスタナショナルGC。大々的な改修は発表されてきたが、小さな改修の場合、一般に公開されることがないといい、今年は発表がなされていない。しかし、ザ・プレーヤーズ選手権で優勝を飾り、ヒューストンオープンに向かうローリー・マキロイがオーガスタに立ち寄ってコースをプレーした際、4つのグリーンが改修されていたことを明かした。

昨年秋にハリケーンにより甚大な被害が出たオーガスタナショナルGC。16番グリーンに木が倒れ込むなど、コースにも影響が出たが、それを改善する目的もあるのだろう。コース内の木もかなりの数が倒れ、伐採されたというが、マキロイによると「夕方の影が少し少なくなるかもしれないけど、ほとんど変わらない」程度まで状況は改善されているという。 

花々が咲き誇る春のオーガスタナショナルGC。今年はどのホールでドラマが生まれるのだろうか。

1987年 ラリー・マイズ プレーオフ11番
起死回生のチップインバーディ

最終ホールを終えて、ラリー・マイズ、セベ・バレステロス、グレッグ・ノーマンが首位タイに並びプレーオフに突入。10番の1ホール目でセベが脱落。続く11番パー4でノーマンが2オンしたのに対し、マイズは右から42ヤードのアプローチを残してしまう。グリーン奥に池があり、グリーンがその方向に傾斜していることから寄せるのは難しいと思われたが、SWで打たれた球は直接カップインしてバーディ。続くノーマンがバーディパットを外して、マイズの優勝が決まった。

2005年 タイガー・ウッズ 最終日16番
カップの縁に一度は止まるもひと転がりしてバーディ 

タイガーの3打差リードで迎えた最終ラウンドはクリス・ディマルコとの一騎打ちに。11番を終えて1打差まで詰め寄られ迎えた16番パー3。タイガーは1打目をグリーン左に外し、約9メートルのアプローチを残してしまう。そのアプローチは傾斜でカップに向かって転がり、一度は縁で止まったものの数秒後に再び動きだしてカップイン。その後17、18番を連続ボギーとしてプレーオフになったが、1ホール目でタイガーがバーディを奪い決着した。

2011年 ローリー・マキロイ 最終日10番
優勝が遠のいた悪夢のトリプルボギー

3日目を終えて21歳のローリー・マキロイが2位に4打差をつけて単独首位に立つ。フロント9を終えて追い上げられながらも首位に立っていたが、10番のティーショットを左の林に打ち込み隣接するキャビン(家)まで達する大ピンチに。結果、痛恨のトリプルボギーを叩くと、続く11番をボギー、12番はダブルボギーと完全に調子が狂い「80」の大乱調。メジャー初優勝は夢と消え、今ではキャリアグランドスラム達成への最後の関門となってしまった。

2012年 バッバ・ワトソン プレーオフ10番
勝負を決めた起死回生のインテンショナルフック 

首位のピーター・ハンセンを1打差からフィル・ミケルソン、2打差からルイ・ウエストハイゼン、3打差からバッバ・ワトソンが追う最終日。ハンセンがスコアを落とし、ミケルソンもスコアを伸ばせずにいると、ウエストハイゼンとワトソンが逆転して首位に並びプレーオフに突入。2ホール目の1打目を右に大きく曲げたワトソンだったが、林の中からインテンショナルフックでグリーンをとらえる起死回生のショット。バーディこそ逃したが、パーパットを沈めて優勝した。

2016年 ジョーダン・スピース 最終日12番
5打のリードも悪夢の2連続池ポチャ

前年覇者のジョーダン・スピースは初日から首位に立つと、2位と1打差で最終日を迎える。6番から4連続バーディを奪うと2位に5打差をつけて独走。誰もが連覇を疑わなかった。しかし10番、11番を連続ボギーとすると、12番パー3では1打目がショートしてグリーン手前のクリークにつかまり、ピン80ヤード手前にドロップした3打目も打ち損ねて再びクリークへ。このホールを「7」としたスピースは首位をダニー・ウィレットに譲り渡し連覇を逃した。

今年の主役は誰になる!?
マスターズ注目選手

長く中継で解説を務め、マスターズを熟知するプロコーチの内藤雄士氏に今年の注目選手を聞いた。

「コースの改修などはあるものの、毎年同じコースで開催されるので、コースとの相性など、過去に好成績を残している選手はやはり強い。加えて、あれだけうねりのあるグリーンを狙っていかないといけないので、飛距離もあるに越したことはありませんがショットメーカーのほうが有利。

ローリー・マキロイは今年に入ってから好調ですし、キャリアグランドスラム達成を個人的にも期待したいですが、松山選手をはじめ、実力者揃いなのがマスターズです。とくにLIV組はプレー自体あまり見ていないし、4日間戦うPGAツアーのフォーマットも久しぶりなはずなので、未知数。ただ、昨年の全米オープンでブライソン・デシャンボーが優勝したように、この大会に合わせて来ているはずなので侮れない存在になることは間違いありません」 

松山英樹の2勝目、マキロイのキャリアグランドスラム達成、はたまたLIV勢による初優勝……。目が離せない今年のマスターズ、木曜日夜にいよいよ開幕する。 

「正直去年、デシャンボーが全米オープンを勝つまでLIV勢がPGAツアーで勝つのは難しいと思っていました。でも、彼が勝ったことでLIVに行ってもモチベーションが高ければ、技術やメンタルが進化することが証明されました。中継で見ないので、各選手が今、どれだけのゴルフをするか未知数なところもありますが、元々実力がある選手ばかり。今、どんなゴルフをしているのか、それを見るだけでも楽しみです」

週刊ゴルフダイジェスト2025年4月22日号より