【対談】小祝さくら×山﨑颯一郎<後編>「“戻るところがある”ことは大事」

国内ツアーを引っ張る小祝さくらと、同じ1998年生まれのオリックス・山﨑颯一郎投手が対談。後編では、データの活用に対する2人の考え方や、オンとオフの切り替え方などについて語った。
PHOTO/Satoru Abe

山﨑颯一郎(26) 石川県出身。190cm・95㎏、右投げ右打ち。背番号21。小3で野球を始め、敦賀気比高校時には甲子園に出場。ドラフト6位で17年にオリックス入り。22年には中継ぎとして日本一達成に貢献。23年、球団日本人最速の160㎞/hをマーク。長身から投げ下ろす直球が武器
小祝さくら(26) 北海道出身。ニトリ所属。8歳でゴルフを始め、17年のプロテストで一発合格。19年初優勝。2020-21年は5勝を挙げ最後まで賞金女王を争う。22年2勝、23年1勝、24年は2勝を挙げ、ツアー通算11勝。週刊GDで『ゴルフ、ときどきタン塩』連載中
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- 海の向こうからは日本選手たちの活躍が聞こえてくるが、国内組も負けてはいられない。最近、野球にハマっている小祝さくらが、1998年生まれの同級生を訪ね、シーズン開幕を前に、競技への取り組み方、リラックス法などを聞いた。日本は、自分たちが引っ張っていく――。 PHOTO/Satoru Abe 山﨑颯一郎(26) 石川県出身。190cm・95㎏、右投げ右打ち。背番号……
データと感覚のすり合わせが必要
小祝 ところで、調子が悪いときって、どうやって対処しますか。私は、とにかく練習して、試合で試して自信をつけます。
山﨑 僕、昨年は本当にダメで。ケガもあったんですけど、自分の思い通りに体が動いてくれない時期が多くて……僕は性格的にもめっちゃ悩むんです。フォームなどをいろいろと探ってしまう。悪いことではないんですよ。いろいろな動画を見てそこからつかめるときもありますから。でも、見る時間が長くなると、頭の中が野球だけになって、寝られなくなったりする。次はこういうフォームでやりたいとか、こうやって投げたらよくなるのかな、と頭の中がいっぱいになるんです。それに、新しく取り組むことって、最初は意外といいんですけど、続けていたらよくない感じにもなったり。
小祝 そういうときは、どうやって取捨選択するんですか。
山﨑 昨年は本当に難しくて、いろいろなことをやったけど、結局もともとやっていたフォームに戻って、これが一番しっくりくるとなった。もちろん、少しは変わっているんですけど、戻るところがあることは大事だと思います。
小祝 やっぱり、自分で気付かないうちにフォームって変わったりしますよね。そういうことで調子が悪くなったりするので、いろいろ聞いたり探ったり、自分の動画を撮ってやるんですけど、結局は基礎というか、もともとやっていた練習なんかに戻ることって意外と多いんですよね。データは相当意識して練習するんですか?
山﨑 “ホップ成分”やないけど、回転数や回転軸がはっきりとデータで出るので、そうするとわかりやすい面もある。新しい変化球を練習するときなんかはデータをしっかり見ます。でも、データは大事ですけど、のまれたらダメというか。結局は結果がすべて。どんなに自分にとって納得がいかないボールだったとしても、抑えたら勝ち。もうひとつ、一番いいときのデータが残っていれば、今はそれとどれだけ違うんかわかる。そういう使い方もあります。体の軸のズレなども確認できますし。
小祝 私はもともと感覚を大事にするタイプで、データは飛距離しか見ません。入射角などは見方がイマイチわからないし(笑)。でも数値はすごく精密に出てくれるので距離感は参考にしていて朝の練習でも使います。ただ、アイアンで気を付けているのは距離より出球。少し右に出てちょっと戻ってくるくらいのイメージが最高です。
山﨑 どっちも大事ですよね。感覚とすり合わせる感じ。今これだけ力を入れて、だいたいこのくらいかなあと数字を見たときに、その通りやったらいいですし、思ったよりスピードが出てなかったら、出力が足りんのやと思います。自分の肌感覚とのすり合わせ。今の自分の状況が確認できますよね。
小祝 ちなみに、よく「心技体」って言いますけど、最初に来るのはどれですか?
山﨑 今の時点では技ですかね。体は結構いい状態に仕上がっていて、心もまあ元気なので。
小祝 私は体ですね。健康第一。ケガしたらもうゴルフできなくなるので、体は本当に大事かなと思います。
山﨑 確かに。やっぱり体です(笑)。
小祝 私は、技は練習しかないと思っていますし、心は……私は結構、メンタルはあまり気にしないタイプなので。
山﨑 すごい、強いわ。たぶん、野球をやっていてもイケますね。
小祝 いえいえ。でも、練習通りにいかないのがスポーツですよね。
山﨑 そうそう、本番がね。切り替えも大事ですけど、どうしていますか? 僕らピッチャーは特に、1球ごともですし、ヒットを打たれたり点を取られたりした次が大事で。弱気ではダメだし……。
小祝 ゴルフは歩いている時間が結構長くて、プレー自体の時間は意外と少ないんです。歩いているときは全然ゴルフのことは考えていなくて、ご飯のことなどを考えています。キャディさんと野球の話をしたり、そういうゴルフと関係ないことを話して、打つときはもう目の前のことに集中して、という感じなので。
山﨑 それはすごい。
小祝 メリハリが大事です。
山﨑 ああ、オンとオフみたいな。
小祝 はい、毎回、そのショットごとにオンにする。
山﨑 僕もホームランを打たれたら、今日のご飯は何を食べようとか、ゲームのことを考えればいいですね。
小祝 ははは、好きなことが一番いいですから。
山﨑 でも、ゴルフって難しいのは、僕らは人に対して投げるので、たとえば自分が思っているところにボールがいかなくても相手が打ち損じてアウトになったらそれはもうナイスボールでオッケー。でもゴルフは自分だけでやるので。
小祝 そうですね。でも、運が必要なところもあったり。スポーツ全部そうだと思うんですけど、メンタルをすごく使う競技なので難しい。それがまた面白いんだとも思います。

好きなことでリラックス
だから試合に集中できる
山﨑 リフレッシュ法はありますか?
小祝 野球観戦です。いつもパ・リーグTVで見ています。試合後とか、体のケアをしながらとか。
山﨑 ありがとうございます。言うたら、趣味みたいなもんですね。僕の趣味はゲーム。趣味をやっているときは、一番リラックスできます。
小祝 ゲームでリラックスすると、逆に試合で集中できる感じですか。
山﨑 そうですね。野球を唯一忘れられるのが趣味。アニメや漫画もめっちゃ好きです。そういう時間は絶対大事やと思います。
小祝 私の野球観戦もそうです。野球は初めて見たときから面白いなと思いました。ルールもわからなかったんですけど楽しめた。応援している選手を実際に見に行って応援するのって楽しいですよ。
山﨑 やっぱり球場で見たほうが面白いですもんね。
小祝 はい、雰囲気も楽しいですし。ゴルフもです。
山﨑 特にホームだったら、歓声がバーンと飛び込んでくる。ファンの方の声もすごく届くから気持ちいいです。
小祝 わかります。ファンの方に見てもらいたいのはどのあたりですか?
山﨑 やっぱり昨年なかった気迫というか、力強いピッチングは見せたいです。そこを目指してやっているんで。今持っている気持ちというか気合いを試合にぶつけられたらいいかなと思います。
小祝 私も応援に行くのが楽しみです。ところで最近、若い選手がすごく活躍しています。ゴルフでも若い子の勢いがすごいんです。
山﨑 はい。ピッチャーは他のポジションと比べて何人もいますからライバル視はないですけど、いいピッチャーが入ってくれば、どんな球を投げるんだろうなど、やっぱり気にはなります。1つ枠が減るということでもあるんで、負けたくないという気持ち、やる気が芽生えてきます。僕はそれを大事にしています。別に外に言うわけではないけど、自分のなかで「よっしゃ、何かやろう!」というときのほうが意外といいんです。
小祝 私も、ライバル心というのは意外となくて、すごくいい刺激をもらっています。仲もいいですし。特にゴルフは個人戦、自分との闘いという感じですから。
山﨑 野球もそれに近いですよ。結局自分が結果を出さないと試合に出られない。誰かと勝負というよりは、とことん自分との勝負です。自分のスタイルを貫いて結果を出していく。まあでも、野球界を引っ張る選手を目指しています。やっぱりすごいなって思われたいです。
小祝 ふふふふ。お互い、今シーズンは日本が舞台。盛り上げていかないといけませんね。
山﨑 僕は今シーズン、中継ぎで投げるので、1つの目標としては50試合以上に出ること。それなりに抑えていないと試合を任せられないというか、出る試合数が減っていくはずですから。
小祝 160キロ出すのは目標ではないんですか?
山﨑 出したい気持ちはもちろんあります。スピードはロマンなので(笑)。そこも忘れずに。でも、今年は気合い入ってます。昨年はたくさん休んでしまったので。ケガもあり大変な年でしたけど、それで気付くこともたくさんあった。
小祝 私の目標はメジャー優勝と、複数回優勝です。いつも通り頑張りたいと思います。今日はいろいろな話を聞けて楽しかったです。今シーズンも頑張ってください。
山﨑 僕も応援しています。お互い頑張りましょう。
プロになりたいジュニアの子たちに2人からのアドバイス
「やっぱり、野球が好きでいてほしい。練習は嫌いでしたけど、投げることは好きやった。好きという気持ちは大事で、好きやったら、上手くなろうと思って、きつくても練習するやないですか」(山﨑)
「私はずっとゴルフをやめたかった。中学生くらいまでは毎日、親にも言っていました。でも今は楽しい。あるときに変わることもあるから何かを楽しむこと。上達法は、いろいろなシチュエーションからの“たくさん練”がやっぱり大事です」(小祝)
週刊ゴルフダイジェスト2025年3月18日号より